ほわいどんちゅーだんす③
「あらあら、これはご丁寧に。」
奥さん先生は、ほんの一瞬だけ黒い笑顔をしたが、直ぐに表情を戻して包みを受け取ってくれた。
いや、何、今の?!
ばっちりしごけって聞こえたよ? え? ママと先生方の間で、なんか暗号的なやりとりでもあるの? そこそこ交流があるのは知ってるけれど、えぇ? なになに? 怖いんだけれど?!
あ、余談ではありますが、アリッサっていうのはウチのママの名前ね。
「ところで、後ろの子が今日体験しに来た子?」
「はい。渡邊 凛蘭さんです。未経験者なので…お手柔らかに。」
『初心者にいきなり厳しくなんてしないわよ』と奥さん先生はカラカラ笑っているが…おかしいな…ボク達が初めて来た時はかなりハードだった気がするんだけれど…?
「じゃ、先にスタジオの方に行ってアップしておいて。お友達も一緒にね。私も後で行くから。お義母さんはどうします? 」
「後でちょっくら顔を出すよ。」
「 って事で。」
はい、では後ほど。
先生方に挨拶をして庭の外に立っていた凛蘭さんのもとへと向かう。少々話が長くなってしまっったので、所在なげにしているのを見ると申し訳なく思う。
…と、いうわけで。
凛蘭さんお待たせしました!
スタジオに行って身体をほぐしておけって事なので、早速参りましょうか。
「は、はい。」
スタジオの入り口は、さっきボク達が自転車を停めた場所の横、建物の角を曲がった先にある。
おや? さっきまで無かった自転車が数台、増えているね? 生徒さんが来たのかな?
う〜む…。
あんまり人が多いと少し恥ずかしい…かな。
ほら、ちょっと下手になってたからさ、なんとなく、ね。
…学校で踊ってたじゃないかって? …あれは…、誰にも見られていないって前提だからであってね? 最初から人前でってのはですね、ちょっと違うっていうかね? …え? 何度も見られているのに踊るのやめないじゃないかって? いや、それは、だって、ねぇ? 楽しくなったり嬉しくなったりするとさ、鼻歌歌ったり自然と身体が動いたりするじゃない? しょうがなくない?!
…ま、まぁ今日はステップの見直しとか、基礎的な事の学び直しだから? 見せる為に踊る訳じゃないし? っていうか、たぶん踊らないし? 恥ずかしがる様な事はない。はずだ。
「「おはようございます!」」
「お、おはようございます。」
開け放たれている引き戸の入口に入り、先ずは元気にご挨拶。
玄関とダンスフロアはほぼ直結しているので、ボク達からは中の人達全員が見えているが、やはり知らない人がほとんどだ。
皆が各々練習しているので、声をかけても注目されなかったのは少しホッとしましたが。
「おー!来たね!まぁ入りなさい。」
「「お邪魔します。」」
挨拶に応えてくれたのは、ここの御主人でボク達にダンスを教えてくれた先生である。還暦を過ぎているとは思えないほど肌艶が良く若々しい。スキンヘッドにフルベアードという形のお髭、日本的な言い方だと「熊五郎」というヤツだ。
こんがりと焼けているのもワイルドな感じで、さすがはあの奥さん先生のパートナーであると思わせる。
まぁ皺はそれなにあるけれど。
スキンヘッドなのは…言って良いのかな?
えぇと……禿げたから剃ったらしい…です。
「先生、ご無沙汰しております。」
「久しぶりだねぇ。半年ぶりくらいかな? 」
え…と、去年の秋からですから、そうですね丁度半年ですね。
ふむ…半年…半年か。
それだけのブランクで、あんなに訛るものなのか…やっぱり社交ダンスってスポーツなんだなぁ。ちゃんやっていないとあっという間に動けなくなちゃう。
それはそれとして、急なお願いを聞いて頂いてありがとうございます。
「なぁに、練習したいという頼みならば場所を提供するのは吝かではないよ。…というか初心者クラスでよかったのかい? 中級クラスでも問題ないだろう? 」
いえ、それがですね、先日踊っているところを撮影されまして…それを見たら、ちょっと基本から見直さねばいかんのではないか…というレベルでして…。
それに今日は友人も一緒ですから。
「ふむ。君達がそうそう下手になるとは思えないが…まぁ未経験のお友達をいきなり中級に連れて来る訳にはいかんわな。よし、とりあえず着替えておいで。」
はーい。
凛蘭さん行こう、更衣室はこっちだよ。
「あ、はい、お、お邪魔します。」
「ああ、空いてるロッカーはどれを使っても良いからね。」
ありがとうございまーす。
フロアを抜け奥の更衣室へ。
ここに入るのは久しぶりだけれど何処に何があるのかは大体把握している。なんたって半年前までは定期的に通っていたからね、勝手知ったるなんとやらですよ。
あ~、ここは前のまんまだねぇ。
「ふふ、半年じゃたいして変わんないでしょ。」
そりゃそうか。これだけ物がないと、模様替えって言ってもたかが知れているし、せいぜいポスターとかカレンダーが変わる程度かな? あ、凛蘭さん、入り口近くのロッカーはだいたい空きロッカーだから、その辺りならどれを使っても大丈夫だと思うよ。なんかさ、みんな奥から入れていくんだよね。暗黙の了解ってやつ?
「あ、はい…じゃあ… 」
凛蘭さんは一番出入口に近い壁際の…といっても、衝立があるので出入口からは見えないのだけれど…を選んで、いそいそと着替えを始めた。
…
……
………ほぅ?
ほほぅ? これはこれは。
なるほどなるほど。
こういう感じだったのかぁ。
凛蘭さんが気にしてたのは、これが原因か。
遅くなりましたがP.M.15:40少々加筆致しました。
続きは次話とさせて頂きます




