えまーじぇんしー⑤
番外編、続きます。
加筆しました。
ちょっとミアにしては珍しい状態だった?
面白かった?
えぇと…?
え?!
まさか暴れたとかじゃ…ないよね?!
「ああ、暴れたりとかって迷惑かける様な行動じゃなかったから、そこは安心して良いよ? 」
あ、そうですか。それは良かった。
…なら珍しい状態というのは…
「ん〜… 動かなくなった? 」
動かなくなった?
「ほら、教えてあげるからさっさと服を着る!ルーチェが起きてきたら出発まで直ぐになんだから。ホントに時間無くなっちゃうよ? 」
あ、はい。
そう言われて、ボクも着替える…いや、正しくは服を着るべくベッドを降り、エマの隣に立つと、もそもそと服を着ながら続きを話してくれた。
「昨夜食事の後に稽古したのは覚えてるよね? 」
流石にそれは忘れてません。
鍛錬そのものは日課みたいなものだが、それ以外にも寝る前の時間、エマに稽古をつけてもらっている。
実は、ネズミの一件からこっち感覚と身体の動きが微妙にズレるというか…説明が難しいのだけれど、違和感を感じる事があるんだよね。
反射的にに出した技に対して『いや違う、こうじゃないだろう 』って感じてしまう、みたいな…。
何故かそんな事になっているのか?
まぁ…予想はついているんだけれどね。
おそらく せりの記憶を得た事で、芋蔓式にせりになる前のボクの記憶まで引き出されてしまった所為だと思う。
せりの記憶にあるのは空手をベースにしたちゃんぽんみたいな格闘技。
それ以前のボクが使っていたのは…正直よく理解らない、色々な武術が混ざった様な、それでいて完成されている様な…妙な戦技。少なくとも格闘技ではない、もっと純粋な戦うための技。思うにアレは“あの頃のボク”という存在ありきの技術なんだろう。…技術と呼んで良いのかも判らないが。
で、それに加えて覚醒前のミアが鍛え上げた独自の戦闘術。その3つが今のボクの中にある訳だ。
例えば、そうだな…正面上段から面を狙われたとするじゃない? その時の対処が最低三つ生まれちゃうんだよ。
1、半歩引いて捌き、相手の体勢を崩す
2、引きながら回転力を利用して側面から反撃を加える
3、振り下ろされる剣を砕いて正面から蹴り飛ばす
…ってね。
剣を砕くって選択肢があるのは正直どうかと思うのだが…あるものは仕方ない。選ばなきゃ良いだけの話だし。
まぁ、それを瞬時に選択しなきゃいけない訳なんだけれど、一瞬迷ってしまって、どうしても上手くいかない。その所為で動きがギクシャクするんだよねぇ…。
要は、そのギクシャクを早く解消したくて、毎夜毎晩、連日連夜、鍛錬しているって訳。
当然、昨夜もね。
「ミアがどの辺まで覚えてるか知らないけど、突然電源が落ちたみたいに動かなくなったんだよ。」
バツン!って、とエマがスイッチをOFFにする様な身振りで言った。
…なにそれ、怖いんだけれど!?
あ、ちなみにこの世界では電気の存在は知られているし、電池と呼ばれる物も存在するが、電球や電灯といった物は未だ発明されていないので、エマの言った『電源が落ちた』という言葉はボク以外には通じないと思う。他の人が聞いたら『何言ってんだコイツ 』って顔されるんじゃないかな?
「最初は何事かって焦ったよ? けど、よくよく見たら寝起きみたいにボ〜っとしてただけでさ、脈も呼吸も正常だったし、まぁ疲れて寝落ちしてた感じ? 」
寝落ち!
訓練中に!?
そんな事ある?!
いや、あったんだけれど!
「話しかけたら『大丈夫、眠いだけ』って答えるし…でも、そのままにしておく訳にもいかないから、井戸まで引き摺って行ってひん剥いて汗を拭って…ベッドに放り込んだ、って訳。」
ひん剥い…!
そ、そうですか、それはお手数お掛けしました…。
しかも、だよ…水かけても目を覚さないのに、『冷た〜い』とか『もっと優しく〜』とか甘えてたっていうんだから…我ながら頭イタい…。
ズボンのボタンを留め、裾を編み上げ、シャツのウエストを絞れば着替え…着替えでいいよね?…終了である。
ちなみに靴は履いていない。
訓練場所として借りている井戸のある中庭は芝生で覆われているため、ボク達みたいなのがソールの堅いブーツを履いて訓練すると芝が抉れちゃうんですよ。それはちょっと申し訳ないので裸足で…という事ですね。
裸足で芝や土を踏むのは、慣れないと変な感じがするってよく言われるんだけれど、ボクやエマは小さなころから裸足で駆け回っていたので、逆に懐かしい気分になるんだ。
まぁ、ボク達の実家が田舎領地だっていうのもあるんだけれど。
中庭に出て最初にするのはストレッチとラジオ体操。
朝と言ったらこれだよね。
とはいえ、ボク達には馴染み深い体操であっても現世の人達には奇異に映るんだろうね。数日前エマと二人でやってたら団員の人達に『その踊りは何ですか?』って聞かれまくったもの。
そっかぁ、踊りに見えるのかぁ…って、二人で笑っちゃった。
一応、『故郷に伝わる準備運動なんですよ』と答えてはいるけれど、かなり珍しがられたよ。
それが終わったら次は肩稽古。
まんま空手の型だ。
実はこれ、小さい頃エマに教わったものなんだよね。
今にして思えば、エマはあの頃すでに なづなの記憶を持っていたんだねぇ。せりが、なづなの事を“あの子だ”と知っていた様に、エマもボクが せりだと知っていた。
でも、そんな事は誰にも言えない。
…寂しかったろうなぁ…。
え?
ボクもせりの時はそうだったろうって?
いやいや。ボクはほら、せりの前の世界では“あの子”とちゃんと姉妹になれなかったからさ、せりと なづな になった時は嬉しいとしか思ってなかったもん。
ずっと幸せだったからね。
エマとは違うよ。
…まぁ、なづなが以前を思い出して『酷い妹だ』って思われたら…嫌われたら嫌だなぁ…って心配はしていた気がするけれど。
…うむ。相変わらず脱線気味だな。
修正。
型稽古が終わると、だいたい四半刻が過ぎている。
ここからは組み手だったりイメージトレーニングだったり、その日その日で変えている。
今日は『瞑想』だ。
エマと隣りあって結跏趺坐…あ〜…えっと、座禅の様に足を組んで座って、自分の内側へと意識を向ける。
体内を流れる『力』を感じ取る様に、深くゆったりと呼吸をし、少しずつ、少しずつ…
「 お 」
血流に載った力が
「 ね 」
身体の中心に
「 え 」
オレンジ色の光を伴って
「 さ 」
集まって来るイメージで…
「 まーーーーーーーーーーー! 」
どーーーーーーーーーん!
うぼぉふぉわぁ?!!
ななな!何事?!
突然背後から何か降って来た?!
っていうか、伸し掛かられた?!
座禅を組んだままくの字に折れた身体を起こしつつ首を回すと、肩越しに輝く様な笑顔が見えた。
「おはよう、ルーチェ。今日も元気だね。」
「はい!おはよう御座いますエマお姉様!」
エマが、くすくすと笑いながら挨拶をするとルーチェも一層笑顔を輝かせて応える。
うおぉ…眩しい…
あ、そうだ、先ずは挨拶挨拶。
おはようルーチェ、今日も可愛いね。
「…うふ、うふふ、本当ですか? 嬉しいです!」
ボクに覆い被さったまま、背中の上でモジモジしている。
うん、可愛い。
いや、それは兎も角。
ちょっとルーチェ?
「はい、なんでしょうミアお姉様? 」
いくら宿の中とはいえ、一人で彷徨いていたのかい?
「いいえ? 侍女がそこに…あとアルベルタさんも、直ぐにいらっしゃいますよ? …たぶん。」
え?
あ、そう?
あれ?
全然気付かなかったぞ?
…って、たぶん?
「ミアは集中し過ぎて、ルーチェが叫びながら走って来たのにも気づいてなかったもんね。」
ぐ、ぐ…その通りです…。
「まぁ、今のミアは注意力が散漫になっている訳じゃなくて、集中が深くなり過ぎているんだよ。これは悪い事じゃ無いから、維持しつつ外側にも… 」
エマの解説が始まってしまった…うん、言われている事は理解るし、そうするべく研鑽しているのだけれど…言葉で聞く程簡単じゃ無いんだよなぁ、これが。いや、がんばるけれどさ。
「おぉ、エマ様にミア様、こちらにいらっしゃいましたか。おはようございます。おや、お嬢様もご一緒で。」
中庭に通じるドアから顔を覗かせたのはアルベルタさんだ。おはようございます、今日もよろしくお願いします。
「はい、よろしくお願いします。あぁそうだ、あと四半刻程後に打ち合わせをしたいと思いますので、広間の方へお越し下さい。お食事はそのあとになりますが…よろしいですか? 」
「わかりました。わざわざすみません。」
アルベルタさんは『いえいえ』と笑ってドアの向こうに消えていった。…あれ? まさか、その伝言を伝える為にボク達を探してたの? そ、それはいくらなんでも申し訳なさ過ぎない?!団長さんだよ?!団長さん自ら伝書鳩して
「あ〜すいません、本題を忘れていました。お嬢様、侍女頭のクロエが角を生やしてましたよ? 戻りませんか? 」
アルベルタさんが再びドアから顔を覗かせて、少し照れた様にそう言った。
ですよねー
ルーチェを探しに来たついでにボク達に声をかけたんだよね。あ〜、びっくりした。
当のルーチェは笑顔のままダラダラと冷や汗を流し、側付きの侍女さんもあわわ…って顔をしている。
あ〜…黙って出て来たのかぁ…。
よく見ればルーチェはゾロっとしたワンピース姿に裸足…まぁ寝巻きのままって事だ。
「そ、そうですね。そろそろ戻りましょうか? 」
侍女さんもコクコクと頷いている。
続けてアルベルタさんの方に向き直り、祈る様に手を組み上目遣いでお願いのポーズを取った。
そして
「あ、あの、アルベルタ、一緒に来てくれませんか? 」
くわっ!可愛い!
計算でも何でもなく、なんの含みもなく、ナチュラルにコレが出来るのは子供の特権だよなぁ。これは守ってあげたくなる。
「ええ、ご一緒しますよ。」
くっくっと笑ってアルベルタさんは了承してくれた。
う〜む、クロエさん怖いのかぁ…ボク達はすましている顔しか見た事ないから今ひとつ想像出来ないのだけれど…そっか、怖いのか。
「ではエマお姉様、ミアお姉様。お先に失礼致します。またのちほど。」
ワンピースの裾を摘んでふわりとカーテシー。
おぉ様になってるなぁ。
流石は公女様である。




