すいんぐばい⑪
「…おお、言われてみれば…!」
言われなくても理解りそうなものだけれど、まぁ“教師”だと一般的な『プロ』のイメージとは少しズレるかな。
プロって言うと『スポーツ選手』みたいなのが普通のイメージだもんね。まぁボクの場合は『宮大工』とか『庭師』とか『刀工』みたいな
、いわゆる『職人』の方をイメージするんだけれど。ほら『職人』って言うとさ、『プロフェッショナル』って感じするでしょう?
いやまぁ“専門職”という意味では両方間違いなくプロな訳なんだが。
「すずな姉ちゃんも多才な人なのにさぁ、なんで先生になったんだろう? 」
確かに多才な女性だし、その気になれば日舞の先生とか書道の先生とかだってなれたはず…あ、日舞の名取って、お弟子さんは取れないんだったっけ? あぁいや、お師匠さんから試験受けろって薦められてたからそれだけのウデはあるはずなんだよなぁ…実際、すずな姉ちゃんならサクッと取りそうな気もするし…。
う〜ん…なんでだろう?
なづな 知ってる?
「知ってるよ? 」
だよねぇ。
…ん?
…知ってる?
いま知ってるって言った?!
は? え!? 知ってるの!?
ええ?!ホントに?!
「え、えぇ? すっごい気になる!なんで!? なんで先生になったの?!教えて?!もしかして口止めされてるの?!大丈夫、誰にも言わないから!こっそりでいいから!」
く…食い付くなぁ桂ちゃん…。
ボクも気になるっちゃあ、気になるんだけれど。
「別に口止めはされてないけど…良いのかな言っちゃって…? 」
「大丈夫!平気平気!」
うん。それを決めるのは桂ちゃんではないと思う。
何を持って平気と断言するのか、その根拠もわからん。
「え…えぇ…? 聞いたらがっかりするかも、よ?」
「うんうん、それで!?」
…何が何でも聞きたいのね。
それで なづな、なんでなの?
「……私達に『先生』って呼ばれたい…って言ってた。」
「『先生』って呼ばれたいって…んん? どゆこと? 」
え~と、つまり最初から教師を目標にしてたって事かな?
書道や日舞なんかは、嗜みとしてやっていたら上手くなってしまった…みたいな?
「ほら私達さ、初等部に上がる前に すずな姉ちゃんに勉強を見てもらってたでしょう? 」
うん、あったねぇ。
国語の音読とか算数の四則演算とか、基本的な事だけだった気がするけれど教えてもらったっけ。ボクと なづなは大人しく教わっていたけれど、桂ちゃんは直ぐに集中力切らしてたよなぁ。懐かしい。
…ん? そういえば桂ちゃんも一緒だった…な?
「…あ、あ~!そうだ、そうだった!私も すずな姉ちゃんの授業受けてた!よく覚えてたね?!あれ幼稚舎の頃でしょ?!そうだよ、なづなン家で見てもらってた!」
「そうそれ。その時にね、桂ちゃんがすずな姉ちゃんの事を『姉ちゃん先生』って呼んだらしいの。…すずな姉ちゃん、それが凄く嬉しかったんだって。」
「へぇ~…え、まって?!じゃあ私の“ひとこと”で教師を目指したって事なの?!」
「…そういう事になるんじゃないかなぁ…。いや、それが根本的な理由なのかはわからないよ? わからないけど、切っ掛けのひとつだとは思ってるんだ。だって すずな姉ちゃん… 」
『先生…先生かぁ…妹たちに先生って呼んでもらえるの…良いなぁ。呼んでもらいたいなぁ…。』
「…って言ってたんだよ。これだけは鮮明に耳に残ってる。」
…『先生』って呼ばれたかった…
『お姉ちゃん』…『先生』…
小さい子の面倒…?
あれ…? なんか、どこかで…あれ?
「せり? どうかした? 難しい顔して。」
ここに皴寄ってるよとボクの顔を覗き込みながら、眉間に手を伸ばしこしこしと擦ったり、グニグニと広げてみたりする なづな。うひひ、くすぐったい。
どこかの武将みたいに眉間に皴を寄せっ放しにしたりはしないから。
何でもないよ。
うん。大丈夫、何でもない。
なんかちょっと…思い出しそうで思い出せない事がある様な無い様な…まぁそんな感じなだけ。大事なコトならそのうちに思い出すでしょ。思い出せないんだったらそれ程重大な事じゃないんだよ。問題ない問題ない。
「そう? ならいいけど。」
「…あの、ちょっといいかしら? 」
おずおずと手を挙げて『質問をしたいのだけど』と小梅さん。
はいはい、どうぞ。なんかこういうパターン多いね? 気の所為かな?
…あ。しまった、こういう時はあれだ、『いいわよ。スリーサイズ? 』って応えなきゃいけなかったんじゃないか!?
うおぉ!お約束の事忘れてたぁ!
…次は気にしておこう…。
「…すずな姉ちゃんって…もしかして鈴代先生の事? 高等部の? 」
「そうだよ~。鈴代すずな先生。明之星女学院卒業生にして明之星女学院高等部教諭!そして伝説の生徒会長!」
「え、勉強を教わってた、って…知り合いだったの? 三人とも? 」
…ん?
知り合い…って…え?
なづなと桂ちゃんと、三人で顔を見合わせて首を傾げる。
暫くたって突然 桂ちゃんが『…あ!』と何かに気付いたように顔を上げた。
なんだなんだ?
「あ~そっか、そういう事か。なるほどなるほど。」
なになに? 何が解かったの?!
「いやぁ久しぶり過ぎて頭から抜けてたわ。そうだよね、そういう反応だよね。うんうん。」
『当たり前だよねぇ』と桂ちゃんは笑っているけれど、なんだかよく理解らない…ボクがおかしいのだろうか? なづなは…あ、よかった、はてなマーク飛ばしてる。やっぱり理解ってないみたい。
「ね、小梅さん。」
桂ちゃんが身体ごと小梅さんに向き直って、少し真面目な顔をする。
「え?あ、はい。」
「すずな姉ちゃんのフルネーム、聞いてたよね? 」
「え? うん。」
「言ってみ? 」
「…鈴代すずな先生…。」
うん、そうだね、と神妙な顔で頷き、今度はボク達の方を手で示して…
「なづな達のフルネームは? 」
……ああ!
そうか、なるほど!
当たり前になり過ぎてて気付かなかった!
あー、そっかそっか。なるほどねー。
なづな も同じ様な考えに至った様で苦笑している。
「鈴代なづな さんと鈴代せり…さん、でしょう? それがどうか……あ!」
お。気付いた?
「親戚…従妹? もしかして本当のお姉さんなの?!」
そうです。
『鈴代すずな』はボク達のお姉ちゃんなんです。
優秀過ぎてプレッシャーが凄いんですが、自慢の姉ですよ。
桂ちゃんじゃないけれど、いやぁそっかぁ、なるほどねぇ…。
知らなきゃそういう反応になってもおかしくはないよなぁ。
初等部高学年とか、中等部に入ってからのクラスメイトは知ってるこが多かったから…てっきり小梅さんも知っているものだと思い込んでいたよ。
いやホント。ごめんね?
「いえ私こそ…そうよ苗字同じじゃない…何で気付かなかったんだろう… 」
“ずぅ~ん…”というオノマトペが見えそうな程ガックリしている。
そこまで気にする事はないんじゃないのかなぁ…?




