すいんぐばい⑥
パカーン!
スコーン!と小気味好い音が場内に響き渡りこだまする。
ああ、良い。
良いねぇこの音!
このボウリング場に来たのはまだ3〜4回程度抱けれど、この音は何というか…気分が高揚するね。
ボクも大して上手い訳ではないのだけれど、ボールがピンを倒す音を聞くとさ、無性にやりたくならない? ならない…あ、そう。
あれ? ボクだけ? おかしいな… あれぇ?
…ま、まぁそういう事もあるさ。うん。
「じゃ私、受付してくる。」
いや桂ちゃん、ボクらも靴借りなきゃいけないから一緒に行くって。受付しないと靴を借りられないし、貸靴機も受付の所じゃん。
「あ、そっか。何時も任せっぱなしだったから忘れてた。」
えへへ〜と笑い、ぽりぽりと頭を掻いて照れ隠しの仕草。
うんうん、そうやって順序を覚えるんだから良いんですよ〜。
命に関わる事だったら失敗しちゃ駄目なんだけれどさ、これは遊びだから。間違えたって命に関わる訳でもなし、失敗して覚えるのは悪い事じゃない。
っていうかボク的にはなのだけれど、何事も失敗した方が結果的に早く覚える気がするんだよね。
いやまぁ、なんとなくそう思っているだけです。はい。
このボウリング場は、所謂アミューズメント施設の一角にあるモノなので、まぁ狭い。レーン数も八つしかないので、混んでいる時は結構待ったりするのだけれど、土曜とはいえ未だ夕方と言うには早い時間だけあって、埋まっているレーンは半分だけだった為すんなりと取ることが出来た。
まずは4人で1ゲーム。その後は混んできたりしなければ人数を変更して続けるかもしれない…って感じだ。
なんで人数を変えるのかって?
そりゃあ……ボクのお財布の事情です…。
2ゲーム目をplayするとですね、お小遣いがですね…今月分は頂いたばかりなのですが他に使う予定があるので、ですね…えぇまぁそんな感じでして…ボクは1ゲームオンリーなのですよ。
靴を借りて指定されたレーンへ移動。ボク達がとったのは左端の一番レーンだ。
端にしてもらったのは正直助かる。明之星の制服姿は少々目立つからね、ボクらの腕前はどうあれ注目されちゃうと思うんだ。注目されちゃうと…恥ずかしいじゃない?
「じゃ、私からね!むふぅ!久々で緊張する~!」
ぴょこぴょこと跳ねるみたいにアプローチへと上がってゆくのは桂ちゃんだ。実に楽しそうである。それぞ自体はとても良い事なのだが…二つ隣の女性方がこちらを見て微笑ましそうにしていらっしゃるのがなんとも面映ゆい。
早速注目されていますが…うむ、桂ちゃんにはあまり関係ないみたいだな。マイペースで非常によろしい。周りのボク達だけが照れ臭い思いをするのは少々納得がいかないものが有るが…まぁ桂ちゃんだからね、仕方ないね。
桂ちゃんが持っているのは10ポンドと軽めのボールだ。
いつもテニスラケットを振り回しているから、握力や腕力はそこそこありそうなものだけれど…意外と軽いのを選んだね?
アプローチの真ん中に立って、
ボールを胸の前に構えピンを見据えて、
一歩二歩と進みながらゆっくりと大きく腕を振り、投げる。
放たれたボールは真っ直ぐにピンへと向かっていく。
おお凄い!ど真ん中だ!
…うん、ど真ん中だ…。
真ん中のピンの真正面に真っ直ぐに、まるで吸い込まれるように転がっていく。
パコーーーーン
おお、いい音!
…なんだけれど、残念。ストライクにはならなかった。
真ん中に当たったボールはピンを搔き分けるようにして直進した為に、両端のピンが立ったままだ。
この状態はスプリットというヤツでプロでもスペアを取るのが難しいんだって。
当たった所がまずかったねぇ。
「あー!ダメだぁ、真っ直ぐは行くんだけどなぁ。」
「桂ちゃんが真っ直ぐだからね。」
またそういう事を言う…褒めるならちゃんと褒めないと、桂ちゃんには伝わり難いって知ってるでしょうに。ほら、桂ちゃんは意味がわかっていなさそうだよ? 首を傾げているじゃないか。…まぁ今のは伝えるつもりが無かったというか、伝わらなくてイイやって感じなのかもしれないけれど。
「ん? どうゆこと? ん? 」
「何でもな〜い。さぁさ、二投目二投目。」
ゴトンという音を立ててリターンラックに戻ってくるボールを指差し、ニ投目を促す なづな。
「これは無理だよ〜…。」
理屈で言えばどちらか一方を弾き飛ばして、もう片方にぶつければ取れなくはない、はずだが…まぁ無理だよね。流石に狙って出来るモノではないと思う。
出来たら気持ちいいんだろうけれど。
桂ちゃんの二投目は、右端の一本を狙ってやはり真っ直ぐに投げた。左端のピンは最初から諦めている様だ。当然の判断だね。
それでも9本倒しているのだから充分上手だと思うよ?
「最初はスペアくらい取りたかった〜。」
「あれは難しいよ。絶対とは言わないけど…まぁ無理だねぇ。」
戻って来る桂ちゃんが愚痴り、ボールを拭いていた なづながそれを慰める。
「なづなでも難しい?」
「100回投げて1回成功したら上出来じゃない、かな?」
「そっかぁ。じゃあしょうがない。」
少々乱暴に腰を掛けた桂ちゃんに向かって、『あの…』と小梅さんが手を挙げた。
「はい、小梅さん。どうぞ。」
すかさず桂ちゃんがピッと掌を上に向けた頂戴のポーズで応える。
「今の会話を聞く限りだと、桂さんの出来る出来ないのラインって “なづなさんが出来るかどうか”っていうのが基準になってるみたいに聞こえるのだけれど…。」
「ああ、うん、基準っていうか…なづなが難しいって言ったら大抵の人には無理なのよ。ホントに難しいの。逆に“出来る"って言うなら直ぐには無理でも大体出来る様になるんだよね。教え方も上手だし。」
うんうん、確かに。
「次点で せり。この子も似たようなもんだけど、なんかこう、教え方が下手って言うか、雑? みたいな? 」
雑!
突然のdis!
「この子達に“出来る”って言われて出来ないままの事ってほとんどないもの。まぁ…すんごい苦労した事はあるけどさ。」
「そうなんだ…。」
う〜ん…実際のところ なづなは『ちょっとまだ難しいかな』ってラインで“出来る”って煽ってるんだと思うんだよね。でも桂ちゃんは、頑張ってやっちゃうからさぁ…その成功体験が積み重なって『なづなが言うなら出来る 』って刷り込まれてるんじゃないのかなぁ…?
要は、桂ちゃん自身のスペックが元々高いんだと思うんだよね。
まぁ…これを言うと天狗になりそうなので黙っておくけれど。
パカーーーーーン!!!
うお!? びっくりした!
あ、なづなが投げたのか。見てなかった。
…って、ストライク取ってるじゃん!
天井に設置されたモニターに七色に光る星マークが踊っているのが見える。これはストライクを取った時の演出だ。因みにダブルやターキーを取った時はまた違った画像が表示される上に、パターンも数種類あるので見ていて楽しい。
『いえ〜い 』と桂ちゃんが両手を挙げると、なづなもトトトって走り込んできてハイタッチをキメる。当然ボクと小梅さんもだ。
「次、せりの番だよ。」
おっと、そうでした。
桂ちゃんがスペア成らずとはいえ、9本倒した。なづなはストライク。小梅さんも自信ありそうだし…情けない投球は出来ないな。
自分のボールを手に取りアプローチへ。
久しぶりに持つ14ポンドは意外に重く感じるが、軽いボールを力で投げるよりも、重いボールを転がした方がスコアを取り易いと知ってからは、ずっとコレだ。
まぁ微妙なコントロールは出来なくなっちゃうんだけれど。
取り敢えずは一投目、いきます!
アドレスもそこそこに一歩を踏み出し
ボールを後ろに振り上げ
振り子の様に腕を回して
前に押し出すが如く
投げる!
…あ。
ちょっとリキんじゃった?
手を離れたボールは勢いよくレーンの上を滑ってゆくけれど、ボールが前進する力の方が回転より強いかもしれない…これだと曲がり切らずにピンに到達しちゃう…曲がって、もうちょい、もうちょっとでいいから…!
うわっ!? 狙った所より少し奥側に当たっちゃっ…!
バガァーーーーーン!!!
大きな炸裂音と共にピンが飛び散り、踊る。
そして天井に埋め込まれたモニターに七色の星が映し出され、ストライクである事を知らせてくれた。
お…おぉ、おおおおお!
予定通りとは言えないけれど結果オーライ!
よっしゃ!
先ずはひとつ!
P.Ⅿ.22:25
加筆および修正を行いました。




