あふたーすくーるあくてぃびてぃ㊵
「せりさん…何かしたの…? 」
去ってゆくお姉さまの背を見送りながら、小梅さんがポツリと呟いた。
「…何もしてない…と、思うんだけれど…ちょっと自信ない。」
知らない所で何かやらかしたかなぁ…? 『揃っているところを見てみたい』って事は、なづなと一緒の時の出来事で噂になる様な何かがあった、という事なのだろうが…う~ん…何かしたという自覚は特に無いのだけれど……あ、いや、あれかな? それともあっちか…? 待てよ? もしかしてあの事か? いやいやしかし…
「…随分と心当たりがあるのね…。」
うえ?!
ボク声に出してた?
「しっかりと。」
いやホントにやらかしたつもりはないんだよ? そういう心当たりがある訳じゃなくて、周りの反応からね? これの事じゃないかなぁ~ってね? 予想しただけでね?
「つまり何かをやらかしてる、と。まぁ、せりさんだから大体想像はつくけど…程々にね? 」
小梅さん?
いやね、確かにお姉さま方に聞かされたエピソードはね?『あ~そんな事したかもなぁ』程度には覚えていますけれどね? それはほら、ボク達が日常的にやっている行動がね? 周りから見るとちょっと変わっている風に見えているらしいって事であって、特段奇異な行動をとっている訳ではないんですよ?!
「今更と言えば今更よね。私達は慣れっこだけど、やっぱり高等部のお姉さま方からすると珍しいんでしょうね。」
慣れっこ!?
え、まってまって?!ボク達、そんな風に見られていたの?!
「“そんな風”がどういう意味なのかわかないけど…『一風変わった子』とか『一寸変な子』って言われていたいたわよ? 随分昔から。」
ず…ずいぶ…ん、昔から…。
そ、そうですか…。まぁ“変わった子”って言われた事もあったし“変な子”であったのは事実だが…そっかぁ…同級生に面と向かって言われたのはたぶん初めてだなぁ…。親御さんとか先生方にそう言われたのは憶えてるが…うむぅ…。
「…あ、あの!ご、ごめんなさい!でも、決して悪い意味じゃないのよ!? ほら!せりさんって初等部低学年の頃は、なんていうかその、エキセントリックな言動が多かったじゃない?!そ、それもあってね、えっと… 」
少し慌てた様に両手をブンブンと振りながら、一生懸命弁解をする小梅さん。
いやいや悪意がないのは理解っていますよ。
前にも言ったかもしれないけれど、ほらボク以前の記憶持ってるじゃない? で、小さい頃は記憶と経験がごっちゃになってたからさ時々言動がね、おかしかったんだよ。小梅さんはエキセントリックってカッコよく言ってくれたけれど、まぁ周囲の大人からすれば奇妙奇天烈摩訶不思議、奇想天外妙竹林だっただろうねぇ。
…と、自分の中では納得出来ていても、やっぱり同級生から聞くとねぇ、なかなかにクるものがあるなぁ。落ち込むとか凹むって訳じゃないのだけれど何と言うか、こう……上手い言葉が見つからないな…語彙量が少なくてごめんね。
まぁボクはその程度で傷付いたりはしないのだが、かえって『つい口に出してしまった』という風な小梅さんの方がダメージを受けている様だ。“同級生の口から”というのが一寸だけではあるが衝撃だったので、ついつい驚いた顔をしてしまった。それを小梅さんはボクがショックを受けたのだと思ったのだろう。これはボクが悪かった。『そこまで言わなくても良くない?!』とでも言ってむくれてみせるくらい機転がきけば良かったんだけれど…。
まだまだ心の大らかさとか度量とかが全然足りないなぁ。
いやほんと気にしてないから平気平気と、小梅さんを宥めていると、直ぐ近くの一団から『はいラスト!』という声が上がるのが聞こえて来た。
どうやら、漸く休憩に入るらしい。
「ほら小梅さん!お仕事お仕事!」
「そ、そうね。」
未だ申し訳なさそうな顔の小梅さんを引っ張って御目当ての集団へと近づいてゆけば、丁度、最後の2人がスタート位置についたところだった。
「はい!」という号令と共にスタートを切り、数十メートルを一気に駆け抜けてゆく。
おぉ、速いな!
スターティングブロックって言うんだっけ? あれを使わなくてもこんなに速く綺麗に立ち上がれるものなんだね。はぁ、流石本職。…この場合も本職で合ってるのかな? それとも専門家?
「よーし、じゃあ15分休憩!」
おっと、休憩は15分しかないらしい。
さっさとクラスメイトと合流して写真を撮ってしまわねば、モタモタしていたら皆に迷惑をかけてしまうからね。
……で、そのクラスメイトは…何処に?
「小梅、せり!お待たせ!」
キョロキョロしていると、先程のゴール地点から走りながらボク達を呼ぶ子の存在に気がついた。あ、そっか彼女か。て言うか短距離にいるとは思わなかった。
桂ちゃんよりも更に短いショートヘア、後ろを刈り上げたショートボブ…なんていう髪型なんだろ…? 刈っていなければ司お姉さまと同じ髪型の様だけれど…呼び方がわからないや。
まぁそれは置いといて。
ショートカットにジャージの上着、ショートパンツから伸びる脚はスラリと長く、ほど良く焼けた肌の色も相まって正にガゼルの様。う〜ん、陸上部って感じ。
あ、因みに『カモシカの様な』は誤訳なんだってさ。
実はカモシカって脚太いらしいよ?
「桃萌香ごめんね、休憩なのに。」
「ぜ〜んぜん。最初から聞いてた話だからね。問題ないよ。」
武井 桃萌香さん。
何気に同じクラスになるのは初めてなのだけれど、面識はあったりする。っていうかガッツリ知り合いである。
何故か。
それはねぇ。
初等部の頃マラソン大会で何度も順位争いをしたり、運動会の徒競走で勝ったら勝ち逃げは許さないって言われたり、中距離の記録出した時にライバル宣言されたり…まぁ色々あったんですよ。
で、クラスは違ったけれど、そこそこ交流があって仲良くなったわけ。桃萌香も性格が竹を割ったようなさっぱりした子なので、割と直ぐに仲良くなったんだ。ちょっと桂ちゃんに似てるのだけれど、それを言ったら『あんなに騒がしくない』って反論されたっけなぁ。
え? 桂ちゃんは“ちゃん”付けなのに桃萌香は呼び捨てなのは何故かって? あ、あ〜…うん、それは、あまり明確な理由がある訳じゃないので…上手く説明出来ないんだ。強いて言えば『桂ちゃん』は癖になっちゃってて呼び方を変えるのが大変だから…かな?
ま、その辺はいつか、そのうちに。
「で? どういう写真が欲しいの? 」
「桃萌香がカッコ良く写ってればOK 」
「陸上部で撮る意味なくない? 」
言うねぇ。
けど桃萌香はまだ可愛いが勝ってるから、制服だとカッコ良くは写らないよ? やっぱり陸上やってる時の真剣な表情じゃないと。
「む…くぅ、可愛いと言われて怒る訳にもいかない…いかないけど釈然としない。」
褒めてるのに。




