あふたーすくーるあくてぃびてぃ㉜
「あ、ごめん。驚かすつもりはなかったのだけど…。」
なるべく平静を保って振り返ってみれば、背後にクラスメイトが立っていた。
いえいえ大丈夫です。
背後から声を掛けられたので少し動揺しただけです。
ええ少し。少しだけね? 少しなんだからね?
…うぅ、相変わらず背後の注意力がガバガバだなぁ、ボク…。
いや、それもそうなのだけれど、皐月さんに呼ばれてるって言ってたよね? って事は、呼ばれてるのにも気付かず話し込んでいたのか。
…ダメじゃん…椿さんの事を『危なっかしい』とか言えた義理じゃないなぁこれは。
まぁ椿さんと沙羅さんも慌てて振り向いていたところを見ると、ボク達と同じく気付いていなかった様子だし…ここはノーカンって事でひとつ。
でも、なづなだけは気付いてたっポイんだよなぁ。
「彩葵子さん達に連絡ついたの? 」
「ええ、つい今しがた。なんか向こうは梃子摺っているみたいよ? 」
なづなの問いに簡潔に答えてくれたものの、状況はよくわからない。梃子摺っている、とはなんだろうか?
言葉通りならば撮影が思い通りに進んでいない、という事だとは思うのだけれど…。例えば『休憩中に撮ろうと思ったが、なかなか休憩に入ってくれない』とか、そんな感じだろうか?
「じゃあ、手伝いに行く方向で纏まったのかな? 」
「皐月さんはそのつもりなんじゃない? 」
皐月さん、は?
みんなで行くのではなく?
「それをこれから相談するんでしょ。 」
あぁそういう事。そりゃそうか。
全員でゾロゾロ行くか分けるのか。或いは一旦解散して行っても良いというメンバーだけで、という方法もある。だがまぁ、今ここにいる子達は遅くまで残っても構わないと了承を得ている子ばかりだし、『少しでも手伝う』とか『帰ってもする事ない』とか『部活ないから暇』だとか…理由は様々だけれど、皆一様に終わるまでは付き合うと言ってくれているので、途中で抜ける子はいないんじゃなかろうか。
ボク達が皐月さんの近くまで歩み寄って行くと、少し散らばり気味だった皆んなも集まって来る。
「なづなさん、せりさん、やっと連絡つきました!」
「なんか梃子摺っているって? 」
「そうみたいです。よく解らないんですけど…取り敢えず合流しようと思うんですが…みなさんこの後お時間は… 」
そう言いつつ、集合したクラスメイト達の顔を見回す。
『当然行く』『ちゃんと終わるまでいるわよ』等々、全員が参加を表明してくれたので、結局みんなで突撃する事と相成った訳だ。やる気がある様で何よりです。
…まぁ中には『大丈夫、暇だから』なんて身も蓋もない答えもあったりしたけれど…理解ってたことだから特に言うべきことは無い。うん。
「では行きましょう、先ずは第一グラウンドですね。」
第一グラウンドというのは、中等部の校舎のすぐ南側に位置する所謂校庭の事で、先日始業式を行った場所だ。
400mのトラックがあり結構広いのだが、明之星の陸上部は人数が多い為にほぼこの第一グラウンドを占有しているような状態になっていて、種目別にだろうか、あちらこちらで小集団を形成してそれぞれが勝手に練習している。
流石に高等部中等部合わせて最大部員数を誇る部だけの事はあるね。この中からクラスメイトを探すのはなかなか骨が折れそうだ。それに見つけたとして、練習の邪魔にならない様に内側の集団まで辿り着くのも大変そう…。
それもまぁ先に来ている子達と合流してからの話…なのだけれど…あれ? どこにいるのかな…?
えっと、制服姿の子の集団を探せばいいんだから…
おや? それらしい集団が見当たらないな?
「あ、いた。あれ彩葵子さんだね。一人だけみたいだけど…ああ、あっちにも一人…あれは…小梅さんかな? 」
なづなの指差す方を見てみれば、校庭の反対側に固まっているトレーニングウェアの集団の中に、セーラー服の子が混じっているのが確認出来る。
あのふんわりしたおかっぱ頭はなるほど小梅さんだ。
少し離れたところに彩葵子さんもいるが、こちらも校庭の向こう側だ。
つまり、あの2つの集団の中にウチのクラスの子が少なくとも1人づつ居るって事だね。どちらも距離にすれば百メートルちょっとという程度なのだけれど、練習中のグラウンドを突っ切る訳にはいかないからなぁ…行くのならグルっと回り込まないと…。
それに、あと3人いるはずなのだけれど…もしかして他の部活に行ってるのか? 確かソフトボール部とハンドボール部…って言ってた様な…。
え、じゃあ他の子は野球場と第二グランドの方に行っているって事? いや有り得る。大方全員で移動するより個別に動いた方が時間的にロスが少ないと判断した、というところか。
「皐月さん、ここで彩葵子さんと連絡取ろう。ゾロゾロ寄って行ったら迷惑になっちゃう。」
ボクもそう思う。
先ずは連絡を取って、何人で、何処に手を貸しに行くのか。それを決めてしまった方が良い。
「ですね。ちょっとかけてみます。」
慣れた手つきでサッとスマホを操作して電話をかけ始める。
と、グラウンドの向こう側に居る彩葵子さんが、一瞬ビクッとしたのがわかった。あー、わかる。マナーモードとかにしてて不意に震え出すとビックリするくらいよね〜。うんうん。
…キョロキョロしてる。
あ、こっち見た。
で、小さく手を振って…スマホを持った腕の肘を支えるように腕を組み、脚を交差させてシュッと立ち虚空に視線を飛ばしながら電話をする。おぉ…なんか出来るオンナって感じでカッコいいね。
…こうかな? こんな感じ?
「……何やってるの? 」
いや、彩葵子さんの電話してる姿が格好良いので真似してみようかな、と。どう?
…何故にそんな生温かい目で見るんです?
ねぇちょっと? 目を逸らすのやめて?!
「皆さん、」
おっと、皐月さんがお呼びだ。電話終わったのか。
「彩葵子ちゃんが言うには、休憩中に撮るつもりなのでもう暫く待たなきゃいけないけど、カメラは複数あった方が効率良さそうだから手を貸してくれたら助かる、との事です。」
ふむ。
ならば2人づつくらいに分かれて、それぞれ先に行っている子達の手伝いに入る、という感じだね? 了解。
じゃあどういう風に分けるか……って、ああ!!
「ど、どうしました? 」
ボクが突然声を上げたもんだから皆が一斉に注目する。ウヒィ…やっぱり注目されるの苦手だな、ってそんな事はどうでもいいです。ちょっとマズい事に気付いてしまったんですよ!
両手で頭を抱えて固まったボクに、なづなが重ねて質問をする。
「だから、どうしたの? せり? 」
あ〜、いや、ごめん、ボク…スマホ持って来てない…
行っても何も出来ない…
「…あぁ、あ〜…なるほど…。」
椿さんが『確かに、いつも持っていなかったですね…』と呟く。いえね、鞄の中には入ってるんですよ? 持って来てはいるんです、学校には。身に付けていないだけで。
「そういえば持って来てないって言ってたっけ…合流する前に教室に寄ればよかったねぇ… 」
だよね。“撮影”をするんだから撮影機材の数は多い方がいいに決まってる。ボク達はその撮影を手伝う為に合流するんだから、自前の機材くらいは持参するべきなのに…なんで持って来なかったんだ。
はい、持ち付けないからです。
というか持っている事に違和感があるからです。
あれ? さっきも似た様な言い訳した気がするな?
…まだ休憩に入る迄間があるんだよね?
なら、ちょっとひとっ走り教室行って取って来る!
誰に合流すれば良いかだけ決めて貰って良いかな?!
「そうですね、じゃあ… 」
皐月さんが皆を見回し、最後になづなに目を止めた。
あれはたぶん『一緒の方が良いですよね?』という問いかけだろう。が、しかし。
「私がソフト部に行く。もう一人誰か… 」
そう言ったのは なづなだ。
自ら一番遠い所に行くと宣言した。
一緒に行く子も直ぐに立候補があったのですんなり決まった。
他の子達からも『なら私があっちに』『じゃあ私はこっち』と淀みなく決まってゆく。大体の子が遠い所から順に立候補している様だ。
因みに沙羅さんと椿さんはハンドボール部に行くらしい。
「と、いう訳で。せりは戻り次第小梅さんと合流する事。で、良いよね皐月さん?」
「ええ、それでお願いします。」
いやホントサクッと決まったね?
なんなの? 皆んなチームワーク良過ぎじゃない?
「せり。遅れたお詫びはちゃんとするんだよ? 」
あ、はい。勿論です。
ん。じゃあみんな、また後で。
ちょっと行って来ます。
P.M. 15:45
加筆しました。
本日はここまで。
次回は明後日A.M.01:00予定です。
4/1
14:25
言い回しの修正を行いました。




