あふたーすくーるあくてぃびてぃ㉕
「ではお姉さま、お先に失礼致します。」
最後に軽くカーテシーでご挨拶をすれば、蓬お姉さまはあらあらと手を叩いてお喜びのご様子。
「はい、ご苦労様。来週からよろしくね。」
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「……っ、ぷはぁぁぁぁ〜…… 」
生徒会室から退出して廊下へ出た瞬間、なづなが それはそれは大きく息を吐き出した。まるで肺の中の空気を全部吐き出すみたいに。
なに、どうしたのさ?ずっと息を止めていた訳でもあるまい?
「そんなに緊張してたの? しっかり対策してるんだと思っていたんだけれど。」
「あぁ、平気平気。緊張してたって訳じゃないんだ、よ。」
緊張ではないのか。
じゃあなんだろう?
ホントに息を止めていたとか?
いやぁそれはないだろう。そもそも意味がわかんない。
「来週からここでお仕事するのかぁって思ったらね、なんかこう、わくわく? しちゃってね。力、入っちゃってソワソワしてさ、抑えるのに必死だった。」
テヘヘ、なんて言いながら胸の前で拳を握って、ふんって小さくファイティングポーズを取ったりしてる。あらやだ可愛い。
…こほん。
なるほどね、緊張とかアウェー感を期待が上回った訳か。
そういえば、ボクのネガティヴ感情も なづなの膝枕やらの影響か相当に薄れている…普段とあまり変わらないくらいには気分が浮上してきてる感じだ。たったあれだけで持ち直すなんて、我ながら随分と安い精神構造してるよなぁ。
「ね、帰ったらちょっと身体動かそうか。」
うずうずしちゃって一寸運動しないと眠れなそう…ってとこかな。
まぁ、気分転換はボクも付き合ってもらってるし否やは無いのだけれど、こういう時の なづなはしつこいからなぁ。
明日は凛蘭さんをダンス教室に誘ってるって事忘れてクタクタになる迄付き合わされたり…しそうな予感がするぞ?
『明日動けなくなったらコトだから、このくらいにしとこう』って言うまで続けて、『あ、そうだね。忘れてた。』までありそう。
…ちょっと釘刺しとくか。
「明日に響かない程度なら。10時に駅前、忘れてないよね? 」
「…自分で誘っておいて忘れるわけないよぅ。」
左様で。
いやいや、今一瞬の間があったのはなんなの?
…充分気を付けておこう…。うん。
「ところで。」
「うん?」
「みんなは何処にいるんだろうね?」
「…さあ? 」
さあって。
まぁ知ってるわけがないのは理解っているんだけれど。
一応ね。一応、聞いてみただけ。
「メールしてみる? 」
「そうだねぇ。電話の方が気付き易いと思うけど…撮ってる最中だったら、まずいかな? 」
むう、気付かれないんじゃ本末転倒だもんなぁ。
じゃ、かけてみるか…って、ボク携帯持って来てないよ!?
「…だと思った。大丈夫、私が持ってるよ。」
おお。流石は なづなだ。
抜かりないネ!
「携帯してなかったら意味ないと思うんだけどなぁ… 」
いやまぁ、仰る通りなんですがね。なんか持付けないというか、異物感が凄くてさぁ…ついつい鞄の中に放り込んじゃうんだよねぇ。
などと、そんな言い訳を考えている最中も なづなは淀みなくスマホを操作し、クラスメイトに連絡を取っている様だ。
「……うん、あ、そうなんだ。わかった、なら私達がそっちに行くよ。…うん、詳しい事は合流してから話すよ。うん、じゃあ後で。」
「…だって。」
“だって”と言われても全然聞こえていなかったんですが?
そもそも電話の相手は誰だったんですかね、お姉様?
「皐月さんだよ。なんか手分けしてるみたいで皆一緒に居る訳じゃないみたいなんだけど…一応昇降口に集合する事になってるんだって。で、皐月さんがテニスコートにいるらしいから、先ず私達はそっちに合流、って事で。」
手分けしてて、テニスコートにいる…?
あぁ、運動部の子たちの練習姿を撮っておこうって言っていたアレ、実行したのか。へぇ許可取れたんだ。…いつの間に…。
テニスコートって事は桂ちゃんが被写体か。
あ、でも練習だからテニスウエアじゃなくて普通の体操服とかジャージなんだよなぁ。そこはちょっと残念。
「手分けしてるって事は他の部の子達のところにも行ってるんだよね? あとは何処なの? 」
「陸上部とソフトボール部に柔道部、だって。」
陸上部とソフト部は中央と南のグラウンド。柔道部なら武道館か体育館。
さっきまでなら柔道部の方が近かったのだけれど、歩いて来ちゃった所為で既に昇降口が目の前だ。ここまで来てしまったら何方に行っても大差ない。
それにテニス部なら桂ちゃんがいるとわかっているしね。
近しい友人の方を選ぶのは仕方あるまい。
「椿さんと彩葵子さんは別行動らしいけど、終わり次第昇降口に集合する予定らしいよ。」
そっか。それならボク達も昇降口で待っていても良かったんじゃ…と思わなくもないけれど、たぶん動いてないと落ち着かないんだろうなぁ。本人の自覚が有る無しは別として。
まぁボクもね、そのソワソワウキウキする感覚はよく理解るから敢えて口に出さないけれど、側から見ていると一寸子供っぽくて微笑ましいねぇ。少しだけお姉さん気分だ。
…あれ?
だとすると、ボクって なづなに子供っぽいって思われてるって事じゃない?
あれれ?
「ところで、せり。」
「ん? なぁに? 」
「…ウチのクラスって運動部の子、どのくらいいたっけ? 」
「…どうだろう? 10人いたかな? なんで? 」
「同じ部活の子ってどのくらいいるのかなぁ、って。」
「そりゃまた何故に? 」
「全員が違う部に所属してて、全部から許可貰ってたらさ、結構大変だなって。」
お、おぉ確かに。
許可を貰っておいて行かないのは失礼だしね。
よしんば全員が別の部になる程の部活数があったとしても、綺麗にバラバラには流石にならないんじゃないの?
あくまで確率的な話で。
「ま、彩葵子さんの指示らしいから効率重視でチームを分けたんだろうけど……もうちょっと、ちょっとだけ考えてあげれば良い、のに。」
「え? 何? もうちょっと何だって? 」
「ん〜ん。なんでもないよぅ。」
あ、そう?
ふむ。…ふむ?
最後にボソッと呟いた言葉は何やらよく聞こえなかったのだけれど、おそらく彩葵子さんに向けての言葉、かな?
いや、文脈からそう思っただけなので間違っているかもだけれど。
「それよりほら、早く行こ? ぐずぐずしてると何にもしない内に全部終わっちゃうよ? 」
ぴょんと前に一歩跳ねて振り返り、ボクに向かって左手を差し出してくる。
「え? あぁ、そうだね。行こう。」
ボクは なづなの手を取り、引かれるままに走り出した。




