あふたーすくーるあくてぃびてぃ㉔
病院の御飯って意外と美味しいんですね。
びっくりしました。
「さて、私はそろそろ教室に戻るとするわ。」
「ああ、そうよね。呼び立ててごめんなさい。来てくれてありがとう。」
お茶一杯分という蓬お姉さまの言葉通り、なづなの紹介とちょっとした雑談をした程度のところで、菊乃お姉さまが席を立った。
どうやら新歓祭の準備をしていたところを呼び出されたとかで、もう一度戻らないといけないらしい。そっか、そういえば作業中のところを抜けて態々来てくれたんだっけ。まぁ半分は騙されたみたいなモノだった様ではあるけれど。
高等部のお姉様方はどんな演し物をやるのかな?
去年のボク達の時は確か…部活紹介の他は手品や寸劇、あとは…あれ? なんだったっけ…? なんかあったっけ?
ボク達のクラスで作ってる様な映像作品…ショートムービーみたいなのはあったはずだけれど、MV的な物ってなかった気がする、な? いや…どうだったけ? 新生活が始まったばかりで緊張してたのは、なんとなく覚えてるんだけれど…。
新歓祭の内容はイマイチ覚えてないなぁ…。
「じゃあ、なづなちゃん、せりちゃん、また週明けに。」
「はい、来週からお世話になります。」
「よろしくご教授下さいませ。」
菊乃お姉さまはクククッと笑って、少し乱暴に なづなの頭を撫でた。
「…そうね、先ずはその馬鹿丁寧な喋り方から、かしらね。勿論二人ともよ。」
えぇ?!
喋り方、ですか!? ボクも!?
馬鹿丁寧な、って…普通に話しているつもりなのですけれど?!
た…確かにちょっと畏まった口調ではあるかもしれないけれど、殊更いわれる程に硬かった…硬かったかな? 硬かったかもしれない…そ、そっか馬鹿丁寧…馬鹿丁寧かぁ…。
あまりに丁寧すぎる敬語は距離を感じるとか、壁があるみたいとか、
心を許してないみたいな印象を与えたりするって…漫画や小説なんかにはよくあるネタなのだけれど…よもや自分がそれを言われるとは。
し、しかしですよ、やっぱりお姉さま方には敬意を持って接するべきなのではないかと思う訳でですね、敬語をやめるというのは…
「ちょっとづつ直していきましょう。もっと砕けた話し方をしてもらえる様に、ね。」
蓬お姉さままで…そんなに硬いか…むぅ。
菊乃お姉さまは、その言葉に『うん』と短く応え、通り抜けざまに なづなに続いてボクの頭も撫でて応接間の扉をくぐり抜けていった。
「私も一度戻るわ。あまり残っていると なづなちゃん達が戻れなくなっちゃうものね。」
真弓お姉さまも、そう言って立ち上がる。
あう、お気遣いありがとうございます…。
「あぁ、蓬。書類は残して置いてちょうだい。後で私も目を通すから。」
「はいはい。ちゃんと残しておくわ。」
『ほんとかしら』と呟いて、自分と菊乃お姉さまの分のティーカップを手に取り奥の部屋へと入って行く。
真弓お姉さまがカップを手に取った時に『ボクがやります』と言いかけたのだけれど、蓬お姉さまに静止されてしまってお手伝いし損ねた。
あれはどういう意図なのだろうか? いつもならばボクより早く動き出す なづなが大人しく座っていたところを見れば、何らかの意図を汲み取っていた様に思えるのだけれど…よく分かんないや。後で聞いてみよう…。
「なづなちゃん、せりちゃん、また来週…試験明けだから火曜日かしらね。」
真弓お姉さまも、ぽんぽんと順にボク達の頭に手を置いてそのまま応接間を出て行く。
さて、それではボク達もお暇するとしますかね…?
なづなに視線を送ればコクリと頷く。
「蓬お姉さま、カップをお下げしても? 」
「…2人もいい加減戻らないといけないでしょう? 私がやるから
大丈夫よ。」
「いいえ。蓬お姉さまはまだお仕事中なのですから、雑事は私達の仕事です。お任せ下さい。」
「その通りです。正式には週明けからですが、私達も執行部の人間です。このくらいのお手伝いはさせて下さいませ。」
そう。ボク達とて既にメンバーなのだ。
仕事の出来ない下の者が出来る者世話をするのは至極当然。
それでもまだ客分だからと言われるのならば、来週以降かけるであろう迷惑料の前払いだと思って頂ければ。まぁこの程度では足りないかもしれないが。
「……ふっ 」
ふ?
「ふふふ……、あはははは!」
突然、蓬お姉さまが声をあげて笑った。
うえ?!
な、何故笑われたの?!
なんだかよく分からないのだけれど、蓬お姉さまが爆笑してらっしゃる。え? なんでなんで?!
ボク何かおかしなこと言った?!
「…本当に真面目ねぇ。いえ…真面目過ぎるのかしらね?」
『真面目すぎる』というのは初めて言われたな。
自分では極めて普通の事、至極当然の事しかしていないつもり…なのだけれど…?
「さっきお菊に言葉遣いの事を言われたばかりなのに、言われた時より丁寧な言葉になっているわよ。」
「え? 言葉遣い、変わっていますか?」
「変わっているというより…そうね、お菊風に言えば『より馬鹿丁寧になってる』…かしらね。」
…なんということでしょう。
「いいのよ。まだね。これからゆっくり馴染んで貰おうって話だから、今は気にしないで頂戴。」
笑ったのは貴女達の“無意識の頑固さ”が可笑しかっただけだから。貴女達が何かしたという訳ではないのよ。だそうです。
あぁ、うん、なるほど? 微妙に頑固なところがあるのは自覚してますが…そっか、無意識に丁寧な言葉遣いを崩さない様にしてたのか…
『目上の人には敬語』というのを、小さい頃から当然の様にやってきていたからなぁ、相当意識してないと崩すの難しそうだね。
逆に以前のボクだったら敬語なんて使わなかった…いや使えなかったろうね。
たぶん『ボクがやるって言ってんだから任せりゃイイんだよ…です…。』とか、変な言葉遣いになってたんだろうなぁ。
「じゃあお言葉に甘えて、食器を下げるのだけお願い。洗い物は後でやるから水に晒して置いてくれれば良いわ。」
「承知致しました。」
「ふふふ。」
あ、また丁寧過ぎる言葉を使ったっぽい。
蓬お姉さまの反応で気付くって事は、それだけ身に付いているという事で…本来ならば喜ぶべきところなのだけれどなぁ。う〜む。
もう少し砕けた態度と言葉遣い…かぁ。
意識しちゃうとかえって出来なさそうな気もするし、かといって意識しないと馬鹿丁寧なままいっちゃいそうな気もするんだよなぁ…。
それだといつまで経っても外様の感覚が抜けないなんて事も…
いやいや、今はまだ無意識に構えちゃってるのかもしれないじゃないか。そうだよ、お姉さま方と一緒にいる時間が長くなれば自然と砕けてくるんじゃないの?
うん、そうだ。そうに違いない。
そうに決まってる。
そうじゃないかな。
そうだといいなぁ。




