あふたーすくーるあくてぃびてぃ⑳
「終わらないねぇ… 」
「…だね。」
蓬お姉さま達の遣り取りは話題を二転三転させながら、なおも続いている。既に最初の話題は影も形も無くなってしまったが。
言い争いに参加していない、もう一人のお姉さま。
マユミお姉さまは、というと…悠々とお茶を飲んでいらっしゃいますね。
…いつもの事だから気にするだけ損とか飽きたらやめるでしょみたいな態度で、お二人の言い合いなど、どこ吹く風と言わんばかりの無関心っぷりです。
一向に止めようとする素振りすら無い。
これも信頼の成せる技…なのかどうかは分からないけれど。
さて、どうしたものか。
当初の予定ではサクッとご挨拶を済ませて、椿さん達に合流するはずだったんだけれど…さすがにこの状況で『お先に失礼しま〜す』って言うのはなぁ…そもそも、ちゃんとご挨拶してないもん。
いや確かにね? なづなは名乗ったよ? 名乗ったけれどもね? なんてゆーか…違うんだよぅ、あれじゃダメなんだよぅ。
とはいえ蓬お姉さま達の話を遮って…ってのも、お行儀悪いしなぁ。
う〜ん…。
トン。
ん? 肘で突かれた?
突いてきたのは同然なづな な訳だが、今度は何?
視線だけを向けると、なづなも一瞬だけボクと目を合わせて、すぐ前方に視線を戻した。んん? これは“余計な事を考えるな”…って意味じゃないな。“前を見なさい”…か? 前?
前ったって、前は蓬お姉さまとオキクお姉さまが戯れているだけ…ああ、いや。今、マユミお姉さまがチラッとこっちを見ていたな。
何かご用事だろうか?
お茶のお代わりとか? ふむ…。
何にせよこれは停滞した現状打開のチャンス!
再び なづなと目配せして、ソファーの背後側を周りマユミお姉さまの傍へと移動。その間も蓬お姉さま達はずっと戯れている。
…ホントに仲良いな。
「御用でしょうかマユミお姉さま。」
「お茶でしたら、すぐにお持ちします。」
ボクはソファーの背凭れ側から腰を折って、なづなは お姉さまの横で傅く様に声をかける。執事とか侍女みたいに。
「いいえ、ありがとう、お代わりは結構よ。それより… ごめんなさいね、せっかく顔見せに来てくれたのに…こんなんで。」
クイッと親指で言い合いを続けている二人を指し示し、申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
正直なところ困惑気味ではあったけれど、お姉さま方の仲が良い事が知れましたし、なんとな~くキャラクターも見えてきたので…有益だった気がしますね。
「とんでもありません、私達こそ突然お邪魔したのに…マユミお姉さまは、わざわざ戻って来て下さったじゃありませんか。」
「…や、それは、まぁ…そうなのだけど…コホン…か、可愛い後輩が挨拶に来ていると知ってはね、戻るのも吝かではないわ。ええ、そうですとも。」
…はて?
マユミお姉さま、ちょっと歯切れが悪いですね?
なにか含みがあると言うか何と言うか…?
一寸焦っている様な何かを誤魔化そうとしている様な、そんな感じ。
…そういえば最初はこそこそっとしていたっけな…あ、もしかして、内緒で集合してボク達を脅かそうとしてたから、感謝されたりするとバツが悪い…みたいな?
あり得ない話じゃないなぁ…誰の発案かはわからないけれど…。
っていうか寧ろそれっぽい?
「コホン…それより、なづなちゃん…あ、なづなちゃんって呼んでいいわよね? 」
「はい。是非なづな とお呼びください。」
「ありがとう。でね、聞きたかったのだけど…なぜ私の名前を知っていたの? 蓬に聞いたのしら? せりちゃんにも名乗っていなかった気がするのだけど…。」
前回は名乗っていなかったわよね、とボクに振ってきた。
そうですね、セリナ様の件でわちゃわちゃしてましたし花乃お姉さまに蓮お姉さま、彩葵子さんも同席してましたから。それに元々は先生のお使いで来ただけですし、そんな生徒にいちいち名乗ったりはしないでしょう。
「それならば、ボクが…私が先程のお姉さま方の会話から知ったので、それをなづな…姉に伝えたんです。」
「あぁ、なるほど。よく聞いていたわね。」
そうだ折角名前の話が出たんだから、ついでに聞いておこう。
…本人に直接確認するのって、別に失礼じゃないよね? 知らなかったり間違えて覚えてる方がかえって失礼だよね? そうだよね、ね?
「あの、マユミお姉さま。少々質問をしても? 」
「ええ、どうぞ。スリーサイズ? 」
……嘘でしょ…? またこの返事がかえってくるとは…!この返し、ここ一週間で3回は聞いたよね?!もしかしてこれホントに明之星の鉄板ネタなんじゃないの? 誰だ流行らせたのは?
「ものすごく興味はあるのですが、それは後程ゆっくりお聞きするとして… 」
「…あ、興味はあるのね…。」
それは勿論です。
じゃなくて。
「あの…あちらのお姉さま…オキクというのは愛称、ですよね?」
「ええ、そうよ。そっか私達の会話から知ったのなら“お菊”の名前は出てないものね。」
そうなんです。
ですから、ちゃんとしたお名前をですね、お教えいただければ、と。
「彼女は菊乃。花の『菊』に乃木大将の『乃』で“菊乃”。寺田菊乃よ。私は立川真弓。真実の『真』に弓矢の『弓』と書くの。」
菊乃お姉さまに真弓お姉さま。よし覚えた。
あと知らない…お会いしていないのは高等部二年生のお姉さま方が3人と、セリナ様の同級生…中等部の3年生がもう一人。ふむ、まだ半分しか知らないのか…けれどまぁアウェーではなくなった、かな?




