あくしでんと④
「凛蘭さん!!!」
限界まで手を伸ばし、正面から背中へと腕を回して自分の方へと思い切り引き寄せる。
…辛うじて倒れきる前に抱き留める事が出来たけれど、やはり落下する衝撃には抗いきれずに膝をついてしまった。
膝立ちのボクにもたれ掛かっている状態の凛蘭さんは完全に脱力している様だ。もしかして…いや、これはおそらく…というか、まず間違いなく失神している。この前の椿さんもこんな風にぐったり…というかぐんにゃりしてたもの。
横にさせた方が良いだろうか?
前の時は膝枕で寝かせてたけれど、今回の…この顔色を見ると貧血かもしれない。だったら足を上げる方がいいんだよね。えっとそれから…外傷は?ちゃんと抱き留めたから一応は何処にもぶつかったりはしていない…はず。怪我とかはないと思うけれど、保健室に運んじゃった方がいいかな?
…あぁ、なんか自分の中に焦りがあるのだけは理解る。理解るけれど落ち着けボク、何故焦ってるのかは後だ。今、最優先に考えるべきは凛蘭さんだ。
「なづな!凛蘭さん血に当てられて貧血起こしてるかもしれない!」
「意識は?気分が悪くなっただけ?」
「失神してる!」
「…あんまり動かすのは良くないけど…保健室に運ぼう。彩葵子さん悪いけど… 」
「ええ、わかってる。マキ先生と入れ違いになったら説明しておくから、心配しないで。」
むぅさすが彩葵子さん…!
よし…そうと決まれば早速移動しようか。
なづな、椿さんをお願いして良い?
「任せて。」
「ちょっと待って、椿さんは歩けるだろうけれど、凛蘭さんを支えて歩くのは一人じゃ無理でしょ?!」
クラスメイト達から心配の声を頂いてしまったけれど、なぁに支えて歩くとかそんな事しなくたって平気だよ、任せて。
「背負って行くの?手伝いがいた方が良いんじゃない?」
ありがと。でも大丈夫。
凛蘭さんくらいの子なら背負うなんて面倒な事しなくたって、こうして抱えれば…っと…ボクにもたれ掛かっている凛蘭さんの膝裏に腕を回してヒョイと抱え上げる。立ち上がるのも問題ない。完全に脱力しているのでバランスは取り辛いけれど、ボクの肩に頭を乗せて体を密着させてしまえば運ぶのに支障はなさそうだ。ね?大丈夫っしょ?
って言うか身長の割に軽いな?
なづなの方は…あ、もう椿さんを抱っこ済みな様だ。
「行こう。」
なづなと頷き合い駆け出す。
なるべく早く、けれど揺らさない様に。階段も凛蘭さん達に衝撃がいかない様に極力上下動を殺してスムーズに。
一階まで降りて廊下に出ると身体検査の列が見える。
申し訳ないけれど抜かさせてもらうよ。ちょっと急病人なんで許してね!列に並んでいる子達の視線を浴びながら横をすり抜け、保健室の前まで走る。幸い扉は開けっ放しだ。
「マリー先生!」
「急患です!」
ざわり、と保健室内に小さな動揺が広がるのがわかる。
マリー先生は手に持っていた指示棒をお手伝いの保険委員に渡し、何事かを指示してからボク達の方へとやって来た。
「どうしたの?貧血?あら、こっちの子は鼻血出ちゃったのね〜。」
「はい。血は止まった様ですが、ちゃんと診て頂いた方が良いと思いまして…。」
「はい正解~。花粉症の薬飲んでたりするとね、粘膜が渇いて出血しやすくなっちゃったりするの~。特に春先はねぇ暖かくなって血管も広がるから『ぷち』って破れちゃうのよ~。そういう時はちゃんと処置しないといけないからね~。」
へぇ…花粉症か…確かに鼻の中が充血して鼻が詰まるって聞いた覚えがあるなぁ。
じゃ、診るから二人ともベットに寝かせてね~と軽い調子で言い置いて、マリー先生は机の方に戻って行き、なにやら銀のトレーの上に器具や瓶なんかを載せているが…あれ、診察道具なんだろうか…?銀色の棒やらヘラやら…なんかの実験器具にしか見えないのだけれど…いやいや、そんな訳ない。…ないよね?
…と、取り敢えず凛蘭さんを横にしよう…。
椿さんには窓際のベッドの縁に座ってもらって、もう一つのベッドの方に未だ気を失ったままの凛蘭さんを横たえる。やはり顔色は悪いままだ。
あ、そうだ、貧血かもしれないんだから足を上げておいた方がいいんだったよね?凛蘭さんの上履きを脱がせ、枕と畳んだ掛布団を重ねて脚の下に敷いて…20㎝程度上げれば大丈夫かな?それから、え~っと…ベルトとかを緩めるだよね?…って体操服だから平気か…なら、こんなものだろう。あとはマリー先生にお任せするしかない。
身体検査の方に目をやれば、マリー先生がお医者様と何かを話しているのが見える。おそらくは救護の為に抜ける事を詫びている…ってところだろう。
…お忙しい時に申し訳ありませんです…。
「はぁ~いお待たせ。どれどれ?お、ちゃんと足を高くしてるんだ~。立派立派。」
よかった。正解だった。
マリー先生がベッド脇で熱を計ったり、脈を診たりしている間も凛蘭さんは一向に目を覚まさない。こんな長い間意識がないって…大丈夫なんだろうか?
「この子は貧血で倒れたの?」
「いえ、たぶん椿さんの血を見てショックを受けたんじゃないかと。青褪めてカタカタ震えていたので。」
「あ~ビックリしちゃったんだ。なるほど~。」
ふむ、と頷いて
「もともと貧血気味なのかしらね?まぁ暫く寝かせておきましょう。」
あとでチョコレートでも食べさせてあげれば大丈夫だと思う、だそうで。今は単に睡眠状態なんだってさ。失神したのは、ショックに加えて朝御飯ぬいたとか寝不足なんかもあったんじゃないかって。
複数の要因が重なって倒れちゃった、って事らしい。
「鼻血ちゃんの方はどうかな~?」
鼻血ちゃんて…
椿さんの鼻に鼻鏡…?鼻腔鏡?を突っ込んで中を眺めて
「ん、ちょっと腫れがあるけど大丈夫そうね~。一応お薬塗っておこうね~。」
そう言って取り出したのは長い綿棒のような物。その先で茶色の瓶の中の軟膏を掬い取って鼻の穴の中に塗りたくってゆく。…お、おぉ、痛くはないんだろうけれど…苦しそう?やられている方の椿さんはフガフガいってる。そりゃそうだ。
「はい、これで良し。ただ、あなたも貧血気味だから少し大人しくしてなさい。20分くらい横になっていくと良いわ。」
はいこれ、と個別包装のクッキーか何かを2つ3っつ手渡して、食べておきなさいと言って今度はボク達に向き直った。
え、と?ボク達は調子悪かったりはしませんよ?
あ、それともクッキーくれるのかな?
「さて、鈴代さん~?」
はい。
「急病人を手早く搬送してくれたのは、ありがとう。」
はい、どういたしまして。
「でもねぇ…その格好で走り回るのは…正直どうかと思うわよ~?」
ピッと指を指されたけれど、何の事かよくわからなくて首を傾げる。
…その格好って…?
言われて なづなと顔を合わせ、お互いの姿を見て…
顎が外れるかと思った。
あ。
ボク達下着姿でした。
なづなは上半身下着にスカートという姿で、ボクは…上半身下着にスパッツという姿…履いているとはいえ、身体の線はばっちりわかる格好だ。
…いや!だって!着替えるところだったんだよ!?ちょうど短パンを脱いでスカート履こうかなったところでね!?話に花が咲いちゃったんだもん!
しょうがないよね!?
しょうがないって言って!?
「友達思いなのは良いけど、乙女的にはもう少し考えた方がいいんじゃないのかしら~?」
うう、その通りです…!
そっか、どうりで保健室に来るまでの間随分と視線を浴びた訳だ。そりゃそうだ、ほとんど下着姿で女の子を抱っこして走ってればね。注目もされるってものですよ。
……あああぁぁぁ、またやってしまった…!
本日も途中投稿で失礼致します。
日中、加筆投稿する予定です。
PM14:25
本日は以上となります。




