えぴそーどおぶおーでぃなりー④
副反応で発熱中。
三角筋が痛いです…。
「よく撮れてるわね。」
「上からのも結構素敵よ?」
「こうなるとアップが欲しかったわ…。」
「今、笑ってもらえば良いんじゃない?」
「それじゃあこの時みたいな自然な笑顔にはならないでしょ?」
「そっかぁ…。」
教室に戻って来て明日以降の相談を、という話だった筈なのですが…現在、皆の撮った動画の鑑賞会になっています。この動画をPCにコピーして編集するのだそうで、取り敢えずどんな映像があるかのチェックを行おうと、そういう流れになりまして。みんなで観ている訳ですよ。
自分達のダンス映像を延々と見せられるって、ほぼ罰ゲームなんです…見れば見る程アラが見えて… あまりの不出来さに、さっきまでとは違う意味で顔が熱くなってくる。うわぁ…ボクこんな下手だったのかぁ…ヤバいなぁこれ。
「あ、あの、あのね、椿さん…この動画なんだけど…使うのやめてもらっていい、かな…?」
あぁ、なづなは不出来さに耐えられなくなったか。
うん、そうだよね。わかるわかる。
ボクもダッシュで逃げ出したいもん。
「え?何故ですか?…何かまずいモノでも映ってました?」
「…拙いもの…ではあるね…。」
え、なになに?何が映っているの?と、みんなしてリピート再生を繰り返して、画面に何度も何度もボク達の拙いダンスが映し出される。
ウヒィぃ!やめてとめてやめて!恥ずかしいから!ホントに!ゴリゴリ精神が削られていくから!
たまらずボクも口を挟む。
「あの、あのね、正直言うとね、これ、すんごい下手なの。
下手過ぎて見てらんない、っていうか…自分がこんなに下手だと思ってなかったからショックというか…そんな感じなの。」
ボクの説明にも皆さんきょとん顔で。
あれぇ?!伝わってない?!
「でも楽しそうだし。」
…クラスメイトのひとりが首を傾げながら、そう言った。
え?あ、ありがとう?
「そうよね、ダンスの良し悪しは解らないけど、可愛いし目を惹くし、とても良いと思うわ。」
「華やかだし!」
「楽しそうに踊ってるなって思うわ。」
あ、いや、あれ?…あれれ?!
楽しかったのは事実だけれど、そうじゃなくてね?こう、下手な踊りをね、お見せするのが忍びないといいますか…
「なづなさん達の言いたい事はよくわかったわ。」
おぉ!わかってくれましたか彩葵子さん!
「自分達の目から見ても技術が足りていない。拙い、人前に出せるモノではない、と。そういう評価だ、と。」
そ、そうなんです、が…改めて言われるとキッツイな。
「ならば尚更、これは使わせて貰います。」
なんで!?!
ちょ、ちょちょ!ちょっと!なんでそうなるの!?
あんまりにも下手だから使わないでって話なのだけれど?!
衝撃的なひと言に、なづな固まっちゃってるよ!顎が外れたみたいなあんぐり顔で!
なづなが、こんな顔するの珍しいな!
そんな顔も可愛いよ!うん!
イヤイヤそうじゃなくてね?!
なんとか理解を得ようと言葉を発しかけた時、彩葵子さんがピッと手の平を此方に向けて制止した。
「確かに上手な人から見たら、拙いし下手に見えるのかもしれないわね。」
「でも。」
「正直、私達には技術云々はさっぱりわからないのよ。この動画を見る限りじゃ『楽しそうだな』とか『まぁ可愛い』とか、そんな感想しか出て来ないわ。」
「で、質問なんだけど。」
え?はい。…質問?
「我がクラスのコンセプトはなんだったかしら?」
「…それなら『楽しい学園生活』でしょう?」
自分で言ったんだもの忘れる訳ないじゃない、と続けようとした時、ボクの横で「あ…!」と小さく叫ぶ声が聞こえた。
驚いて横を見ると、額に手を当て天を仰いだまま「そうかぁそういう事かぁ… 」と、ぶつぶつと独り言の様に呟き、再び固まってしまった なづながいる。
ええ?なに、どういう事?
それを見た彩葵子さんは、肩をすくめて
「まぁ、そういう事よ。」
だから諦めて頂戴、と。
え、なんで?なづなには伝わってるみたいだけれど、よくわかんないぞ?あれ?ボクって理解力乏しい?!
「…後で解説してあげる、よ…いやぁ参ったなぁ…。」
ボクの肩に手を置いて、がっくりと項垂れながら降参を口にした なづな。彼女曰く、ホントに言葉通りだから『理』は彩葵子さんにあるからここは諦めよう。恥ずかしいのは仕方がない、悪いのは未熟だった私達だ、と。
わかる…いや、わかるけれど。
なんで突然納得しちゃったのかは、ちゃんと説明してね!?
後でね?!
その後はボク達以外の皆を写した写真や動画の確認をしたのだけれど、これがなかなか。みんな自然に振舞えていて…というか、みんなの自然な姿を捉えていると言うべきだろうね。
撮られているという意識がないからだろうか?いつもボクが目にするような、普段通りの皆の笑顔が切り取られている。
それを見た皆の反応も上々だ。
私ってこんな大口開けて笑ってるの?だとか、私こんな癖があったんだ…だとか、意外と知らない自分の姿を見て照れたり笑ったりと、実に楽しそうだ。
…あ、この場面も撮っておけばいい素材になったんじゃないのかな?
「…良いですね。全部使いたいくらいです。」
「まだこれから増えるのだから流石に全部は無理ね。」
「…ですよね。」
椿さんと彩葵子は動画のチェックをしながら図書室や講堂ではどんな映像が撮れるのか、どんな映像が欲しいのか等々の意見を出し合っている。
他の皆も意見は言うのだけれど、ノリで言っちゃう子もいるので『それは無理だろう…』という意見も散見されるね。
例えばどういう意見かって?
そうだなぁ…学校の全体像を空撮で、とか、そんな感じのやつ。
機材があれば出来ない事は無いのだろうけれど、肝心の機材は何処から調達してくるの?って話でさ。ね?無理っぽいでしょ?
「せりさんはどう思います?」
「そうだねぇ…図書室なら中央階段は外せないよね。二重螺旋の階段なんて珍しい物があるんだから、紹介しない手はないと思うよ?」
「でもあれ、映像だと伝わりにくいんじゃない、かなぁ…?」
む。確かに。
実際に歩いてみると『なんじゃこりゃあ?』ってなるんだけれど、写真とかだとイマイチ面白さが伝わらないんだよねぇ。う~ん。
「でも学院の紹介PVのつもりで作るんなら外せないわよね。どう見せるかは後の課題として候補には入れましょう。他にはある?」
「ミルクホール、というか生徒館かな?」
生徒館かぁ。上の合宿所は入った事ないもんねぇ。出来るなら入ってみたいな。
「上の階を使ったことがあるのなんて運動部の子ぐらいでしょ?っていうか許可おりるのかしら?」
ダメ元で聞いてみるのはアリだと思うけれど…
ダメならミルクホールだけでも良いんじゃない?
あそこなら静止画でも映えそうだし。
そんな風に皆でワイワイと相談?していたら、いつのまにか結構な時間が経っていたようで、誰ともなく“お腹すいた”とか“喉が渇いた”とか言い始めてさ、じゃあ今日はここまでにして、今度こそ解散しましょうという事になった。
で、ボク達はそのまま帰宅出来るように鞄を持って、ミルクホールに移動中です。ちょっと飲み物欲しいなぁって言ったら、家まで我慢するか、正門前のコンビニ迄行くか、ミルクホールで飲むかという選択肢を提示されまして。
それで、どうせならミルクホールで買おうという事になった訳なんです。まぁそうだよね、値段も安いし最も早く喉を潤せるのはここなんだから。実質一択ですよ。
「なづな姉様、抹茶ラテでよろしくて?」
「ええ、よろしくてよ。」
「承りました。」
このあいだは、なづなが買ってくれたので今日はボクの番。
と言っても交互に買っている訳じゃなく、何となくその場のノリで、なのだけれど。今日は何となくボクの番かなって思っただけ。
隣あった席に座って、ちゅ〜〜っとストロー吸う。
あー美味しい。自分で思ってたよりも喉が乾いていたらしい。染みるぅ…。あ、因みに今日はボクも抹茶ラテにしました。思ったよりお茶感が少なくて甘かったです。
やっと一息つけた気がする。
「で、動画の件の解説、お願いします。」
一瞬きょとんとした顔をしてボクを見て、はぁ…と溜息を吐いた。
むぎっ!?
『何?まだ解ってなかったの?』って顔に書いてある!
ごめんね!察しの悪い妹で!
「まず、今回のコンセプト『楽しい学園生活』これは良いよね?」
うん。
「で、私達の動画。あれを見て皆がなんて言ってたか憶えてる?」
…可愛いとか、楽しそう、とか?
「そう『楽しそう』。コンセプトに合致しているよね?そこがひとつ。」
え、いや、それは理解るけれども、もう少し上手に踊れるし、上手に踊っても『楽しそう』は伝わると思うよ?アレじゃなくても良くない?上手で綺麗な踊りの方が良いんじゃないの?
「そこ。」
どこ?!
「上手じゃダメなんだよ。」
…ん?んん?
下手な方が良いって事?
「より正確な表現をするなら『下手でもいい』かな。」
下手でもいい…?
………あ。
『下手だけど楽しそう』っていうのが良いって事?!
「たぶんね。」
回りくどい!
言って!?
そう言って!?
「彩葵子さん言ってたじゃない『ダンスの良し悪しはわからない』って。だから正面切って下手とは言わなかったんだよ。」
ぬぅ?!お気遣いありがとう!
「わからない人には『楽しそう』、ダンス経験者には『下手だけど楽しそうに踊ってる』って見える。それが良かったんじゃないのかな。」
むむ…そんな考え方が…
でも、そうか。拙くても楽しいっていうのは、何事も最初はそうだもんね。何だって『面白そう』『楽しそう』が入口で、始めてから上手になりたいと思う様になるんだもん。
ダンスだって『ただ踊っているのが楽しい』から、ステップが踏める様になった、姿勢が良くなった、動きが綺麗になってきた、って段々と出来る様になって“楽しい“が増えていくのだから。
まだまだこれからの一年生の子達に、最初は下手だって良いんだよと、楽しいだけでも良いんだと。伝わればいいなって、彩葵子さんは考えたのかもね。
流石、委員長。
けど。
あのダンスは下手過ぎて見られたくないなぁ〜。
「諦めてって、言ったでしょ?」
いつのまにか背後にいた彩葵子さんが、ニヤリと笑ってそう言った。
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次話は21日01:00投稿の予定です。




