聖女は隣国でトロピカルジュースを飲めることを夢に見るぐらいお疲れなので365日の勤務は二度としません。自分たちでなんとしたらどうですか?
大広間に、第一王子ルカダウスの汚い高笑いが響いた。煌びやかなシャンデリアの下、勝ち誇った顔をしているのは婚約者であるルカダウス王子。やたらと露出の多い男爵令嬢がへばりついている。こういうの流行ってるのかな?
「聖女レビティ!お前のような陰気な女はもういらない!おれは真実の愛を見つけたんだ。この可愛らしいザザリーリこそが、新しい聖女であり、次期王妃だ!」
ルカダウスは鼻息荒く宣言した。
「よって、お前との婚約を破棄し、聖女の称号も剥奪する!国外追放だ!今までおれに偉そうに説教してきた報いだ。ははは!」
会場中の貴族たちが公爵令嬢を嘲笑の目で見ている。普通なら、泣き崩れる場面かもしれないが扇子で口元を隠し、ニヤリと笑った。
「……承知」
「は?」
ルカダウスが間の抜けた声を出す。
「力が不要とのこと、確かに承った。これにて聖女の役目を降り、今この瞬間からただのレビティに戻らせてもらう」
「あ、ああ。そうだ!二度とおれの前に顔を見せるな!」
「わかった。では、達者で」
優雅にカーテシーを決めると、くるりと背を向けた。会場を出ていく背中に「負け惜しみめ」という嘲笑が飛んでくる。
だが、誰も気づいていなかった。扇子の下で「やっと休める!!」と歓喜の表情を浮かべていることに。
寝不足ノイローゼのせいでカタコトだったのに誰も気にしないから国はなくなるのだろう。
翌朝、意気揚々とバルコニーに出たルカダウス王子は空を見て絶句した。
「な、なんだあれは……?」
空がドス黒い紫色の雲に覆われている。さらに、遠くから「グオオオオオ!」という魔物の雄叫びが聞こえてきた。
「おい!これはどういうことだ!」
側近が顔面蒼白で駆け寄ってくる。
「で、殿下!大変です!王都を守っていた聖なる結界が消滅しました!」
「は?結界なんて、なんとなく空気中に漂っているものだろう!?」
「いいえ!レビティ様が、二十四時間三百六十五日、寝る間も惜しんで魔力を注ぎ続け、維持していたのです!」
「な……!?」
さらに、神官長が血相を変えて飛び込んでくる。
「報告します!新しい聖女のザザリーリ様が祈るのめんどくさ~い、爪が割れちゃうと言って儀式をボイコットしています!」
「なんだと!?聖女ならそこにいるだけでなにかをキラキラさせていたら国が平和になるんじゃないのか!?」
「そんなわけありません!レビティ様は歴代最強の魔力を持ち、さらに超人的な事務処理能力で教会運営も回していたのです!いなくなった今、魔物は入り放題、怪我人の治療も追いつきません!」
「う、嘘だろ……そんなこと?」
ルカダウスはガクガクと震えだした。今まで、自分の国が平和なのは自分のカリスマ性のおかげだと勘違いしていたが、実はハイスペック聖女という名の最強セキュリティソフトに守られていただけだったのだ。
セキュリティをアンインストールしたパソコンがどうなるかバカな彼でも今ならわかる。
一方その頃、レビティは。
「あ~、空気がうまい」
隣国のリゾート地でトロピカルジュースをすすっていた。激務から解放され、目の下のクマもすっかり消えたのだ。魔力を搾り取られることもなく、好きな服を着て、好きなものを食べる。
魔導技術が進んだ国で聖女としての知識を高く評価してくれ週休二日、残業なし、給料三倍という夢のような条件で迎えてくれたのだ。
そこへ、ボロボロの鎧を着た男が這いつくばってやってきた。すすと泥にまみれたルカダウス王子だ。
「見つけた、ああ!レビティ!レビティ!頼む、戻ってきてくれぇぇ!!」
彼はリゾートホテルの警備員に取り押さえられながら、必死に叫んだ。
「悪かった!ザザリーリは役立たずなんだ!魔物が!国が滅んでしまう!お願いしますぅ!」
ビーチチェアから彼を見下ろし、サングラスを少しずらす。
「結界も張れないのなら追放されれば?」
「お前ええええ!!調子に乗るなああああ!」
そして、あの日、彼が言った言葉を最高に冷ややかな視線と共に返してやったら彼は叫び警備の人に連れて行かれた。
「おぐ!?やめ、やめろ!帰国したら!したらあああ!!」
隣国の研究機関で楽しくスローライフを満喫しながら伝説の大聖女として崇められ、騎士団長から熱烈なアプローチを受けているのが後日、目撃された聖女。
元王国は隣国に頭を下げて属国となり、ルカダウスは王位継承権を剥奪され、平民として魔物討伐の最前線へ送られた。日夜、剣を振るいながら婚約者の偉大さを噛み締めているという。
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