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1-16 冒険者協会の聖母 

 本日も引き続きダンジョンへ潜る事にした。


 俺のバージョンは段々と上がりにくくなってきているようなので、もうスライム狩りなんて眇眇(びょうびょう)たる事はやっていられない。


 早く次のバージョン4・0まで上げたいところだ。


 とりあえず能力を五人力まで強化できるとたいしたものだと思うので、まずはそこまでバージョンを上げていくのが当面の目標だった。


 猿などの力の強い動物なんかだと、それくらいの腕力がある奴もいるようだし。

 それは人間の腕を引き抜けるほどの圧倒的なパワーなのだ。


 それくらい力があるとオークと力比べしたって、そうそう負けないのではないだろうか。


 あのオークの軍勢なども、コーリングが止まって奴らが一旦湧かなくなるくらいまでぶち殺しまくれるはずだ。


 俺は痩せている感じにみえるが、農民として厳しい父親から鍛えられていたために力は強い方なのだ。


 スキルのバージョンを5.0にまで上げれば、オークと真っ向から力比べをしても勝てるのではないか。


 またブライアンにも、この一年間は徹底的に鍛え上げられたからな。

 身長は百八十センチあるし、余分な肉をつけていないだけだ。


 俺よりも体格が一回り上の荒くれ者のような相手を素手でぶちのめせる腕前だった。


 やらないと、後で俺がブライアン達にぶちのめされるだけなので、人間相手の戦い方なども自然に体で覚えた。


 酒場でその手の馬鹿と揉めた時なんか、必ず俺が代表選手なのだ。

 後の新入りは女のシグナしかいないからな。


 あの人の鍛え方は半端じゃない。

 だからレーティングの上の方の奴しか新人として取らない方針らしい。


 半端な奴では、彼の与える訓練や仕事に耐え切れず逃げ出すのが落ちだからな。


 俺も一度逃げ出したのだが逃げ切れるはずもなく、あっさりと捕まってしまい、思いっきり上級冒険者四人がかりで折檻を食らった。

 さすがに、あの時は死ぬかと思ったわ。


 とりあえずはオークでも狩るとするか。

 この間は格好をつけて金は全部くれてやっちまったしな。


 どうも俺にはそういう感じで、めったやたらと格好をつけたがるところがある。

 そいつは親父譲りの気質なんで一生治らない不治の病だろう。


 まあ、あいつらの場合はあれくらいしておかないと一瞬にして人生が終わってしまうのだが。


 食い扶持が稼げなくなった冒険者は街で低賃金労働か、ダンジョンで無理して討ち死にか。


 生き残っても惨めな暮らしに耐え切れずに犯罪者落ちする奴も後を絶えない。


 更にそっちの道へ向かっても、犯罪者向けのスキルでなければ、やはりうだつが上がらない万年前座の生活が待っているという無限地獄のサイクルなのだ。


 まあ俺は、この素敵そうなスキル頼みで頑張らせてもらおうかね。

 当分はソロ冒険者なのだろうけれども。


 という訳で昨日つつがなく返却した棍棒を今日も持ち出した。

 うむ、これは昨日と同じ、俺の愛用品だな。


 頑丈な重い材質の木を削った細工の一つ一つの具合や、俺が命を贖うために作った、特徴のある鳥型のような傷に見覚えがあるぞ。


 しかし、こいつは本当に頑丈にできているな。

 俺が大量のオークをぶんなぐって作った、命の勲章たる傷の数々が愛おしいわ。


 こうやって歴代の新人達が命の勲章を刻み込んでいくのだろう。

 そして、そいつを渡してくれた協会の美人職員さんからは、このような素敵なお言葉を頂戴した。


「昨日、あれだけの目に遭いながら、またオーク狩りなんですか。

 さすがはあのブライアンさんに鍛えられただけの事はありますね。

 その根性をラビワン冒険者協会は大いに称えましょう。


 でもまああまり無理はしないようにね。

 昨日みたいな奇跡はそうそうありませんよ」


 あるわけがない。

 というか二度と試したくない。


 サイコロを転がして、二度続けて最高の目が出るなんて、いくら俺が能天気な性格でも信じないぞ。


 バージョン2.0であのスキルを派生させてくるなんて、俺のスキルもブライアンに負けず劣らずにスパルタな性格だわ。


 まあ、お陰様で無事に昨日は生き延びたんだけどね。


「わかっていますよー。

 昨日だって俺一人なら、あのような事にはならないのですがね」


 にこやかに手を振ってくれる職員さんに向かって、棍棒を担いで同じく手を振り返す俺。


 あのライザさんは一児の母なので、親元から離れてこの厳しいダンジョンの街へやってきた冒険者の卵には、若い美人の職員さんとはまた違った人気がある。


 なんというか、俺達に自分の子供のように包容力を持って接してくれるのだ。


 中には無事に帰って来れない子も大勢いるのだが、それでも優しくアドバイズをくれて見送ってくれるので、まるで聖母のような人だ。


 俺なんか、うっかり一度「いってきます、母さん」とか言ってしまって、シグナから蹴りが飛んできたことがある。


 他の連中からも坊や扱いされて、しばらく弄られたもんだ。

 今はもう、ただただ懐かしいだけの思い出だけれど。


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