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Warriors Carnival!(結)

団長との無謀な戦闘をなんとか続けるも、直撃をもらってしまった「俺」

このまま殺されてしまうのか?


戦士たちの悲しい狂宴編、最終話。

「手加減したとはいえ、まさか、本当にこれに耐えるとはなぁ。」

遠くで声が聞こえる。テレビの向こうで喋っているような。

「大丈夫!ねえ大丈夫なの?」

エディアが泣いている。どうして?

「当たる瞬間に飛んだな?まさか貴族のお譲ちゃんがそんな技を身につけてるなんてな。」

この男はだれだろう、何を言って。

「おれはバカの振りをしているだけで、貴族の野郎どものよりも頭が良いつもりでいた。」

いままで、何をしていたんだっけ?

「でも、そんなこたぁなかった。貴族の中でも弱い奴に勝ってのぼせ上ってただけなんだな。つええやつは、魔力があってそのうえ技術も身につけている。当然か。」

そう、「ボク」はこの人と戦って?


瞬間、もう何も入っていない胃から、胃液がこみ上げてくる。そうだ、「俺」は殴り飛ばされたんだった。

自分で後ろに飛んだからとはいえ、部屋の端から端まで。もといたエディアの場所まで吹っ飛ばすとはなんていう剛腕。

倒れたい倒れたいと言う体を無理やり内股にして耐える。ここで倒れたら意識を失う。こんなところで気を失っては死んだも同然だ。

エディアが回復魔法をかけてくれるが、焼け石に水だ。恐らく肋骨が何本か折れた。壁にぶつかったときに腰の骨もだめになっているかもしれない。「俺」が生前やっていた武道での受け身がなんとか取れた為にぎりぎり立っていられるが、膝が笑っている。恐らく痛みがないのは「痛すぎて神経が麻痺しているから」だろう。

ネコが姿が見えないながらも俺の前に立ちふさがってくれている。本当ならば「俺」と見えないネコによって隙を作るはずだったのだが、もう無理だ。


「ほら、約束のものだ。」

男が動いた時、やられると思ったが、何かを投げてよこしただけだった。良く見るとそれは鍵。この部屋を開けた時の鍵と同じものだった。

「そこの赤毛の小娘。お譲ちゃんをつれていきな。ドアからでて左に行けば兵どもには見つからないさ。」

どういうことだ?と目線で訴える。内臓がおかしくなって喋れないのだ。物を吐かないでいられるのは、単純に行きの馬車で全部戻したからだ。

「賭けだといったろう。譲ちゃんは賭けに勝った。商品はあんた自身だ。持って帰れといってるのさ。」

まさか本当に勝つとは思わなかったけどな、と彼は言う。

「俺は結局バカなだけだったけど、賭けごとを反故にしたことがないのだけはまだ誇りに思ってるんだ。ほらさっさと行け。どうせすぐに騎士団が攻めてくるんだろう?戦場になったら逃げれんぞ。」

そういってあごでドアを指したあと背を向けた。何もしないという証なんだろう。

エディアは何か言いたそうではあったが、「ボク」がぼろぼろなのを見て黙ってドアへと「ボク」を連れていく。

ドアを出る瞬間、男の方を確認するとさっきから微動だにしていなかった。だが、「俺」にはその背中が泣いているように見えたのだった。「俺」には分かった。この男は死ぬつもりなのだと。こんな反乱の首領になどなったのはただの意地で、初めから成功する気などなかったのだろう。

死なせたくは無いと「俺」は思う。だが完全に内臓をやられてしまっている「ボク」は一言も声をかけることは出来ず。


そして、「俺」は意識が途切れた。


気が付くとそこは、行きに乗ってきた馬車の中だった。横にはブルーノが居て、ヴェルナーが居た。砦での話は夢だったのかとも思ったが「ボク」の手を握っている人間を見てそうではないことに気がついた。

「エディア」

そう、行きにはこの馬車に居なかった筈の彼女が「ボク」の手を握ったまま眠っていることに気がついたのだ。

「アニキ!気が付いたんだね!」

「こら、ブルーノ君。気持ちは分かるが少し静かにしたまえ。」

はしゃごうとするブルーノをヴェルナーがたしなめる。どうやら回復魔法をずっとかけつづけてくれていたらしいヴェルナーは少し疲れているようだ。いつもなら一番変態なのに真面目なことしか言っていないのだもの。

「ありがとう。どうやらみんな無事に助かったようだね。」

そんな日常を見て、やっと実感する。なんとかあの非日常からは生還できたらしい。エディアも傷らしい傷は無いようだ。

そんなことを言っていると、2人にため息を吐かれた。

「どうした?なにかあったのか?」

あの場に居た他の人間は、恐らく助からなかっただろう。それは仕方がない。でもそれ以外になにかあったのだろうか?

「なにかって、キミが重傷じゃないか。」

そういってヴェルナーが「ボク」のおなかをこづく。痛い。

-そうじゃぞ、無茶をしおって。-

ネコにも頭を小突かれる。ずっと横にいてくれていたようだ。

「あぁ痛みがある。良かった良かった。このまま神経が死んだままだとどうしようかと。」

「あのねぇ。そもそも皇族が傷を負うこと自体が重大な事件なんだよ?助けに行くまで無茶をしないと信じたから置いて行ったのに。」

じろりと睨まれる。

「そうだよ。すごく心配したんだからね!」

普段は無条件で「ボク」の味方をするブルーノにすら怒られる。

-これはお主が悪いのう。謝っておくが良い。-

「いやその、ゴメンナサイ。」

今一納得できないが、ここは謝らない訳にはいかないようだ。

「俺」一人で対決することになったのは、成り行きでしかたがなかったのだが、その辺の言い訳は聞いてくれないらしい。理不尽だ。


「アニキのことはボクが守るんだからね!」

「いや、ブルーノ君。ハニーを守るのはボクさ。そこは譲れないね。」

「だめだよ!先輩にだってそれだけは譲れない!」

「俺」がネコに頭の中で説教されていると、目の前の2人は訳のわからないことで口げんかを始める。まぁ仲の良いことで。おそらく「ボク」のことが心配でいままで緊張していたのだろう。それが緩んだからだ。本当に心配をかけたようだ。


「んっ。」

「ボク」の手を握った少女が身じろぎする。そういえばまだ握られたままだった。そっと手を離そうともしたのだが、離してくれなかったのだ。

本当ならば彼女も別の専用の馬車で治療を受ける筈だったのだが、どうしても「ボク」と一緒に行くといって聞かなかったそうだ。

彼女を起こしてしまったことに気が付いた2人は喧嘩をやめる。しばらくすると彼女はむくりと体を起してこちらをみた。

「や、やあ。ありがとう、エディア。助けてくれて。」

寝起きで半眼になった状態でこちらを見てくる。普通なら怖いのだが、かわいらしいのはこの娘の素養故か。

数秒こちらを見つめたあと、座っていた椅子から立ち上がり布団に乗ってのそのそとこちらへ近づいてきた。もちろん半眼で睨んだままだ。いくらかわいい女の子でもさすがに怖い。

「え、えっと、ゴメンナサイ?」

怒っているのだろうか?とりあえず謝っておこう。何かはよくわからないが。そして顔が近い。

そしてまた数秒睨んだ後、今度は急に微笑んだ。そして握っていた手を離したかと思うと。

「良かったぁ。生きてたんだ。本当によかった。」

「ぐぇ。」

もちろん、前がエディアで後が「俺」だ。何を思ったか彼女は抱きついてきたのだが、「ボク」は肋骨他多数が折れている。なんとか回復魔法によって表向きくっついているが、内臓系のダメージには効果が低いらしい。そして神経が回復したことによって痛みがある。そう、今初めてあの時の痛みをちゃんと味わったのだ。

本当に不意打ち、しかも寝たきりで体力のない「ボク」にその痛みを耐えるだけの気力は無く、「ごめんなさい」と謝る彼女の声を子守唄に意識が遠のくのだった。



揺れる船。照りつける太陽。

砦の事件から約一年がたち、「俺」はやっと領地を得た。航海にでるための拠点である、帝国の南の端の島。今はそこへ向かっている。


あの事件が終わってからは大変だった。「帝国」的にも、「ボク」自身の周りも。

分かったことがいくつかあった。まずはとある貴族の要請で遠征見学の人数が増えたのだが、その貴族とはエディアの実家であった。だが、それは家としても身に覚えのないことだったらしく相当に混乱したらしい。

死者は反乱軍は全員、マックスの部隊の犠牲はゼロ。犠牲者はあの時部屋で死んでいた護衛の教師と生徒数名。砦を乗っ取られると言った規模の割には犠牲者が少なかったが、それでも本来あってはならない事件だった。安全な筈の生徒達が危険にさらされる。安全を守るはずの「帝国」がみすみすそれを許す。後から思えば、事件を起こした連中の本当の目的はそこにあるのかもしれない。

そしてここからが「ボク」にかかわる話。

本来ならその後2カ月程度で卒業し、この島へ向かう筈だったのが半年以上伸びたのは理由がある。

「帝国」としては起こったことは仕方がないとしても、なんとか面子を保つ必要があった。もちろん黒幕捜しは行っているが、成果がでていない。そのために行ったのが「英雄譚」づくりだ。


そう、「ボク」は英雄にされたのだ。

自らの危険を顧みず、愛する臣民を守る皇族。これは、皇帝は、すなわち「帝国」は「自らが先頭に立って危険から守っているのだ」というメッセージになる。そうやって大いに喧伝されたのだ。

また、それに伴ってもう一つ厄介なことが増えた。

「ボク」とエディアが婚約者となっていたのだ。

「俺」としては寝耳に水ではあったが、事件の前からそんな話も無いこともなかったらしいが、「ボク」とエディアの仲が悪かったので立ち消えになっていた。だが、事件の首謀者にされかけたエディアの実家であるシュライヒ家は、エディアを皇帝に差し出すことで家の安泰を願った。皇帝としてもシュライヒ家ほどの家を疑わしいだけでつぶすのは大ごとだ。下手をすれば国が割れる。なにせ証拠が出てこない。そのために人質を受け取ることで手を打ったのだ。

そんなことが結婚式の日程まで決まってから教えられた。「ボク」が16歳になる年の「大月の儀」だそうだ。いや皇族の結婚は政治だって分かってはいたけど、せめて事前に教えてほしかった。

「何考えてるの?辛気臭い顔をして。」

横に居る彼女が声をかけてくる。婚約者なんだからという理由で付いてきたのだ。まぁ彼女にとっては家に売られたも同然で居づらいというのもあったようだ。本当ならリィンのこともあって断ろうとも思ったのだが事情を知ってしまっては断れなかった。

「いや、なに。これでボクも名実ともに領主となったんだなと、気合いを入れていたところさ。」

キミのことを考えていた、なんて言えるわけもなく、そうやってお茶を濁す。

「ふぅん。まぁあたしも手伝ってあげるから。感謝しなさいよね。」

実際助かっている。航海のことしか考えていなかった「俺」にとって、領主経営は予想以上に手間のかかる作業であった。地元の人間に任せてもよいのだが、それでは航海のための資金などをねん出など出来ない。そこで幼いころから領主となるべく勉強してきたエディアが助け船をだしてくれたのだ。

「うん、頼りにしてるよ。」

「当然よ!」

そう言って彼女はそっぽを向く。最近分かってきたことだが、素直に感謝の意を、言葉で表すと彼女は照れるらしい。所謂ツンデレ、というやつだろうか?

「わたしもがんばる。」

逆側に居るリィンが負けじと気合を入れる。

皇帝の許可を得てエディアにはリィンの経緯を大まかに話してある。一緒に生活するのに、さすがに秘密のままは大変すぎるからだ。

「もちろん、姉さんも頼りにしてる。」

そういうと嬉しそうにほほ笑む。


問題は山済みで、時間も限りはある。けれどなんとか頼りになる人も得れた。

この心地よい生活を守るために「ボク」は。

「俺」は。

地平線の先に見えてきた自身の領地を眺めながら、覚悟を新たにするのだった。

漫画であれば、○○先生の次回作にご期待ください。などとコマに書かれそうな終わり方になってしまいました。

なお、まだ話は続きます。次は領主編となります。

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