表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪の王妃  作者: きりしま
3/4

0.桃

 メラニー・グートマン。アドルフとはまた違う、プラチナブロンドの長く緩やかなウェーブを描いた髪が特徴的な16歳の少女は、白亜の城の中で我が物顔のように廊下を歩いていた。

 桃色のドレスが、彼女が前を歩くたびにゆらりゆらりと波を打つ。16歳にしては成熟した体は、社交界でも甘く色気のある女性として定評があった。

 彼女の後ろに控え歩く付き人の男は、彼女よりも10年上で、彼女が生まれた時から守るよう現侯爵に命じられた人物だ。


「ゼフ、お茶菓子を用意して頂戴。陛下とお茶をする約束をしたの」


 後ろに控える付き人に沿う命令すると、彼は一言返事をしてその場から姿を消した。

 メラニーにとって付き人は自分の所有物であり、侍女は自分を着飾るアクセサリーのようなものだった。そのため、彼らはメラニーの中古のドレスやアクセサリーを身に着けさせるようにしている。結果として、付き人たちも貴族と間違えられそうなほど、派手な一行として社交界では名をはせていた。


 メラニーという少女は、生まれながらアドルフとの結婚が当たり前だと思ってきた人物だった。当然のように王城を闊歩し、当然のように先王にかわいがられ、当然のようにアドルフと手をつないだ幼馴染だった。さらに侯爵家の令嬢であり、王室が放っておけない教皇庁の関係者であるとするならばなおさらのことだった。

 しかし、そんな彼女ですらどうしても勝てない人物がいた。イリーナだった。

 隣国の王女であり、初対面の時に感じた威圧感、清廉な美しさ、聡明な受け答え。どれを取っても自分に勝てる気がしない相手だった。父親が推薦したために一時的に公的ではない婚約者候補になったこともあり、メラニーには私的な王妃教育が行われていた。そのため、彼女にも誇りがあり、カルシュ国では一番の淑女である自信があった。

 しかし、イリーナはメラニーのその努力をあざ笑うように、当たり前にようにアドルフの手を取り、この白亜の城でウェディングベールで顔を隠し登場したのだ。


 メラニーには少なからずアドルフへの淡く甘い恋心があった。純粋ゆえに初恋を大切にする気持ちが彼女にはあった。それこそが、彼女のイリーナへの敵対心に火をつけた。

 さらにそれを加速させたのは、父親であるグートマン侯爵の策略だった。

 グートマン侯爵は、メラニーとアドルフの婚約を実現させる狙いがあった。それはイリーナと結婚した今も、彼の野望は潰えていなかった。

 お父様は、私に側室になれとおっしゃりたいんだわ、と廊下を歩きながら父親のことを思い出す。


『陛下は、王妃様のことは愛していない。お前のことを愛しているんだ』


 アドルフがどれだけかわいそうな結婚を強いられたのかを、メラニーは彼らの結婚式の夜に父から聞いてしまった。

 国のため、外交のために約束を反故にすることができず、アドルフ一人が犠牲となって国を守った。そんな英雄譚を聞いたメラニーは、さらにイリーナへの憎しみを強力にしていく。

 メラニーは大切な幼馴染であり、初恋の相手が苦しむ姿など見たくなかった。だが、彼を理解できるのは自分以外にほかに誰がいるというのか。


「側室でも何でもいいわ、アディを助けましょう」


 ぽつりとつぶやいた言葉は、白銀の城に溶け落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ