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四章 第14話 お爺さま

 3週間の滞在を終え、俺たちは領地への帰路についた。アベル主催のお茶会以降、俺は父に連れられて何人かの貴族が催すお茶会や晩餐に参加したり、街に出て色々と見て回ったり、約束通りエレナを連れてもう一度アベルたちのお茶会に行ったりと忙しく過ごした。

 幸いなことにエレナと少年少女は馬があったらしく、たった一度のお茶会で友達になってしまったようだ。生まれてこの方、友達は俺しかいなかったので少し心配していたのだが杞憂だったらしい。最初のお茶会で冒険の話をしたことも影響しているだろう。エレナの跳び抜けた魔法の才能が輝いたシーンは山とあったので、当然それについても語ったから。

 王都を旅立つとき、親父殿は結局見送りには来なかった。丁度王都についた日と同じで、どこかへ出かけていた。新しい友人たちも予定が合わなかったが、その代わりに屋敷の使用人たちがしっかり送り出してくれた。女性の使用人を中心に3週間で俺の評価は大きく向上したらしい。間違いなく差し入れまくったお菓子のおかげだ。


「こちらでお待ちください」


「ん」


「は、はい」


 仕立てのいいお仕着せに身を包んだ男に案内されて扉をくぐる。俺とエレナは今、ネヴァラの中心地のとあるお屋敷に来ていた。

 侯爵の軍艦に乗せてもらえた行きと違って帰りは普通の船。2泊かけてアポルトへ到着し、少し観光をしてからネヴァラへ移動した。滞在は侯爵の迎賓館で、初日には事前にアポイントを取っておいた創世教会へ行った。


「エベレア司教さま、元気だったね」


「ん、相変わらずだった」


 といっても記憶にあるより少し喋りのペースが遅かった。1時間ほどの面接で感じたのは確かな衰えだ。

 もうあれから6年……子供には長い成長の時間でも、大人には短い老いの時間だ。中身がどれだけ円熟に向かおうと、体は衰えていくよな。

 それでも老神官は楽しげに俺たちの話を聞き、自分の話をし、たっぷりのお菓子を持たせて帰してくれた。やっぱりエネルギッシュで陽性な人であることに変わりはない。俺が使徒であることを知ってなお普通に接してくれる。総本部への報告も年齢を鑑みて、成人するまで個人情報の一部をネヴァラ大教会預かりにしてくれたらしい。

 ほんと、頭が上がらない。

 そして今日。ネヴァラ滞在の2日目、俺たちはある男に会いに来ていた。ビル=ケイラ=シュタープ、ラナとイザベルの実の父親でありネヴァラの商人を束ねる大物中の大物だ。会うのは俺たちだけなので、護衛のガックスには別室で待ってもらっている。


「ね、アクセラちゃん。お爺さまってどんな人だろ?」


 微笑みに困惑を少しだけ混ぜたような表情で訪ねるエレナ。彼女の心で期待と不安が領土争いをしていることが手に取るようにわかる。しばらく前の彼女なら無条件に期待と好奇心で胸を一杯にしていただろう。不安や警戒がわずかな領土を占めることもなく。それが違うのは、世の中にいる全ての人が優しさと思いやりを胸に生きているわけでないと知ってしまったからだ。誘拐事件と俺の父親の一件は慎重さとともに嫌な現実を少女に教えてしまった。

 蝶よ花よと育てたいわけでもないし、必要なことだけど……あんまり気分のいいものじゃない、子供が世界の醜さを知っていくというのは。


「いい人らしい」


 なんとも言えない気持ちを胸に返事をする。

 実際ビルという男は侯爵が自分に並ぶ権力を領都に持つことを許している人物で、貧民にも買いやすい値段で必需品を売る放出市も主催している。それとなく同行している侍女や執事、侯爵家に連なる使用人なんかに聞いてみても人格者だと口を揃えて答えた。


「むぅ……」


 とはいえそんな評判なら彼女だっていくらでも聞いている。俺に聞きたいのはそういうことじゃないのは分かるが、俺だって会ったことのない人物の人間性を当てることはできない。


「エレナ、悩んでも仕方ない」


「それはそうだけど」


「なんとかなる」


 そもそもあのラナとイザベルの親なのだ。頭の回転が速く情に厚い人物の可能性が高い。


「それよりエレナ、明日もう一度孤児院に行きたい」


「いいよ?」


「明日は工房が空いてるらしいから、そっちも視察させてもらう」


「あ、そういうことか。じゃあまたお菓子持っていかないとね」


「ん、昨日エベレア司教がくれたお菓子と同じの買わない?」


「あれ美味しかったもんね!」


 そんな話をしてしばらく時間を潰していると、俺たちをこの部屋に案内した執事がノックの後に姿を見せた。


「お待たせいたしました、ご案内いたします」


「ん、よろしく」


 立ち上がって彼の後に部屋を出る。侯爵家のそれにも引けを取るほど高価そうな調度で彩られた廊下を進み、階段を上り、さらに進んだところで扉に突き当たる。その扉を執事が軽くノックした。


「旦那様、お連れいたしました」


「入れ」


 中から返事が聞こえたので執事が扉を開け、中に入って俺たちに道を開けてくれる。

 いよいよだな。

 その部屋は応接室だった。壁際の棚には繊細な絵の描かれた皿が数枚、その表面を見せるように専用の台に乗せられている。シャンデリアは魔導具の光を複雑なカットのクリスタルで柔らかく散らす設計。赤い絨毯も毛足の長い高そうな物だ。

 この部屋だけで紅兎が何振り買えるんだ……。

 頭が痛くなるような予想額の部屋に圧倒される。いや、一つ一つの品が実際に最高級品だからこそこれだけ圧巻なのだ。ただ高いだけの物にこれだけの存在感は放てない。しかもそれらがバランスよく感じる配置になっている。さすがに商会長自身が部屋のセットをしたとは思えないが、相当なセンスの持ち主を抱えているのは確かだ。


「よく来たね、エレナ」


 シルク張りのソファから立ち上がった部屋の主が微笑んだ。白い物が混じったダークブラウンの髪に冬の空のような深い青の瞳をもった紳士だ。切り揃えられた口ひげが柔らかい印象を与えている。どこぞの侯爵のように厚い筋肉に覆われているわけでも、獰猛な獣の如き覇気をまとっているわけでも、まして状況を噛み締めて楽しむような笑みを浮かべているわけでもない。ただただ優しそうに微笑んでいるだけ。それでも奇妙な気配があった。一筋縄ではいかない強者の気配だ。

 男はエレナに向けた微笑みを今度は俺へと向けた。少しだけ優しさが薄れ、目の青が深みを増したように思えた。


「君がアクセラだね。二人ともよく来てくれた」


「はじめまして、アクセラ=ラナ=オルクスです。お招きありがとうございます」


「は、初めまして、エレナ=ラナ=マクミレッツです。お招きありがとうございます」


「これは丁寧にありがとう。知っていると思うが、私がビルだ」


 短い自己紹介をした彼はそれまで座っていたソファに腰を落ち着けなおし、テーブルを挟んだ対のソファを俺たちに勧める。断る理由もないので座ると、ちょうどいい弾力が軽い俺たちを押し返してきた。


「まずはお茶にしよう。積もる話もあるが、それはこの後で」


 朗らかな表情のまま、テーブルに備えられた鈴を鳴らす。言わずと知れたあの魔導具だ。


「今日はペイル海の向こう、東部群島諸国から輸入された面白い飲み物を用意したんだ。侯爵家に逗留して、教会にも足を運んでいるのなら並の高級品は飽きていると思ってね」


 それが何かをはっきりとは言わず、実物を見たときの反応を楽しみにしている。そんな少しもったいぶったようなところがふとビクターを思い起こさせた。そう思ってから見てみると落ち着いたしゃべり方も似ている。

 異性の好みは異性親に似るって師匠が言ってたっけ……。


「お待たせいたしました」


 俺が目の前の初老とビクターの共通点探しをしていると、執事が侍女1人を連れて部屋へとやってきた。侍女の押すカートにはカップが人数分とお茶菓子、そして黒褐色の液体の入ったガラスポットが乗っている。


「ぜひ飲む前に香りを楽しんでほしい。君たちはもう下がっていい、あとは私が一人でする」


 カートを運び入れ終えた使用人をかえして、男は自らそれを配膳し始めた。カップを3つ置いてから慣れた手つきで黒い液体をそこに注ぐ。ふわりと広がった匂いは香ばしく、独特の苦みを含んでいた。

 コーヒー?


「わ、いい匂い」


「ん、香ばしい」


 そろってカップに口を付ける。苦みの中に酸味が見え隠れする特徴的な味はなかなか久しぶりで心地がいい。ユーレントハイムじゃ紅茶しか見ないので、パリエルの部屋で6年前に口にしてから一度も飲んでいなかったことになる。前世じゃ毎朝必ず飲んでいたのに。


「う……」


 思い出に浸っていると、隣からくぐもった声が聞こえた。ふと見ればエレナが眉間にしわを寄せて固まっている。


「大丈夫?」


「……うん」


 エレナはあまり大丈夫とは言いがたい表情で頷く。そのまま耐えていたが、10秒ほどして我慢できなくなったように小さく「苦い」とつぶやいた。


「はっはっは、すまない。少し意地悪をしてしまったね」


 本当に小さい声だったのに聞こえていたらしく、反対側の老紳士は笑いはじめた。子供の舌には苦すぎると分かっていてあえてブラックで出したようだ。


「ミルクと砂糖を入れなさい。それで美味しく飲めるはずだ」


 カートから角砂糖の壺とミルクの入った小ぶりなピッチャーを取り出してみせた。


「むぅ……ありがとうございます」


 さすがのエレナもお礼の言葉にやや棘が生えている。とても賢い子だが、これで結構ムキになりやすいところがあるのだ。


「君はブラックでも飲めるのかい?」


「ん」


 頷きながらもミルクを垂らしてカップの中の色を白寄りに変える。俺は昔からどっちも飲めるが、牛乳の味が単純に好きなのだ。


「ま、私も入れた方が好きなんだがね」


 彼は目じりの皺を深めながら自分もピッチャーを傾ける。


「これはコーヒーといって、あまりこの国では流通していない飲み物だ。東の島国か西のアル・ラ・バード連邦くらいしか育てていないはずだよ」


 エクセララで飲まれているのはアル・ラ・バード連邦産のコーヒーだ。大砂漠の西に位置する連邦はど真ん中にあるウチにとっていい商売相手、供給量も安定していた。


「君たちのことは色々と聞いている。とても面白い子たちだとね」


 ビスケットを1枚咀嚼し終えてから彼はそんなことを言った。


「そうなんですか?」


「色々と、ね。正直、私は君たちが冒険者をすることにあまり賛成的でない」


 瞬間、エレナの動きが止まった。真っ向から冒険者活動を否定されたことがないからなのか、家族からそう言われることが初めてだからなのかは分からない。


「危ないことの多い仕事だ。ロマンもあるがね、それはどの仕事にだってそれなりのモノがある」


「……」


「危なくとも一番チャンスのある道だというならそれもありだろう。でも君たちほどの家柄と才能なら渡らなくてもいい橋だと私は思う」


 自分のカップに目を落としながら彼はぽつりぽつりと言う。それは批判しているというには優しい眼差しだった。


「で、でも……!」


「さっき会ったばかりの年寄りにそんなことを言われても戸惑うかもしれないが、一人の男として娘や孫のことが心配でならないんだよ」


 カップから上げられたブルーの瞳が真っ直ぐにエレナを見た。


「しかし、今まで何もしてこなかった人間が嘴を突っ込むことでないのも事実だろう。だから、頭の片隅に留めておいてほしい。君たちにはいくらでも他の道があるということを」


「……」


 唐突な苦言に込められているのが否定ではなく善意であることを、エレナも感じているのだろう。だから遮られた反駁の続きを口にしない。

 実際、他の道があることを忘れてほしくないのは俺も同じなんだけど……そうか、ちゃんと彼女にそれを教えたことはなかったな。


「さて、何時の時代も鬱陶しがられる年寄りの小言はこれくらいにしよう」


 彼は空気を入れ替えるように大きく呷ってカップを空にし、2杯目を注いで見せる。


「飲み物も食べ物もたっぷりとある。折角だからその冒険譚を私にも聞かせてほしいね」


 白い歯を見せて笑う姿に毒気を抜かれたのか、エレナが困ったようにこちらに視線をよこした。俺は肩をすくめて任せるという意思表示をする。彼が聞きたいのは孫娘の語る冒険譚だ。

 言葉では俺たち2人を指していたが、実際のところ彼が見ているのはエレナだけだった。俺にとってエレナはいつでも姉妹で、屋敷に帰ればビクターとラナは父と母だ。それでもこの男、ビルにとって俺は孫じゃない。俺にとってもきっと彼は祖父じゃない。良くも悪くも家族は血で繋がるものじゃないということだ。

 エレナがおずおずと冒険の話を始める。ビルはそれを聞いて、どんな小さなことにでも驚いたり笑ったりして見せた。段々と彼女も持ち前の明るさを発揮して舌の回転速度を増していく。いつのまにか部屋は二人の話声と笑い声に包まれていた。

 楽し気に笑うエレナを見て、俺はなぜか少し胸がもやもやした。アベルやレイルに紹介したときのように心から彼女の笑顔を喜べない、そんな自分に奇妙な感触を覚える。それがなにかは、分かっている。大切な人が楽しそうにしている空間に自分の入る場所がない居心地の悪さと、拗ねたようなどうしようもない不快感。通しで優に一世紀も生きているジジイが抱くには幼すぎる感情だ。

 人間が進歩しないって言われるわけだ、まったく……。


 ~★~


 ビルお爺さまとのおしゃべりはとっても楽しかった。大部分を占めてる冒険のことはお友達とのお茶会やエベレア司教さまとの面会で繰り返して、わたし自身が結構上手にできるようになったのもある。それにお爺さまはどんな細かいことにも驚いたり感心したりしてくれて、とっても話しやすかった。まるで父さまやアクセラちゃんとおしゃべりしてるみたい。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン……。

 丁度いくつめかの依頼のことを話し終えたときに、重たい金属の音がした。反響の尾を引いて15回、どっしりした鐘の音だった。


「おや、もうそんな時間か」


 お爺さまがはっと顔を上げてそう言った。それから残念そうにわたしを見る。


「すまない、そろそろお別れの時間のようだ」


「あ、はい」


「本音を言うなら夕食も一緒にしたいのだがね、実はこの後大事な会合があるんだ」


 お仕事なら仕方ない。父さまもよくお仕事で忙しくしてるし、そういうことにはわたしも慣れてる。


「がんばって、ください」


「ああ、頑張るとも。こんなに可愛い孫に言われたのでは3倍は頑張ろう!」


 そんな風に言ってお爺さまは笑う。


「実にやりがいのある仕事だよ、商人というのは」


「そうなんですか?」


「ときどき体がもう2つほど欲しくなるくらい忙しいこともあるがね」


 そういえばわたしが知ってる商人の人ってマイルズさんだけかも。あの人はなんとなく忙しそうな感じがしない。

 あ、でも今魔法店の開店準備中だからホントは忙しいのかも。

 わたしが内心で首を傾げているあいだもお爺さんは誇らしそうに言葉をつづける。


「それでも面白いし、なにより人のためになることができる。正しい心を忘れなければ」


「正しい心?」


「そう、商売は相手がいてこそだ。だから相手も自分も、そして周りの人も幸せになれるように努めるのが正しい商人の心なのだよ」


 それを忘れた商人は悪い商売をして相手を困らせる。相手が困る商売を続ければ周りも困る。そして最後には自分が困ることになる。そうお爺さまは言った。


「まあ、その正しい商人でいるというのが意外と苦労の多いことなんだがね」


 やっぱりいい人でいるのも大変みたい。正しいことを正しいと言い張って、正しいと思うままに生きるのはとっても難しいことだ……ってレメナ先生がいつか言ってた。


「賢いエレナに手伝ってもらえると、私の仕事も幾分楽になるのだが」


 お爺さまの視線が少しだけ鋭くなる。それは真面目な話をしてるときのアクセラちゃんに似た強い視線だ。その強さと、母さまや伯母さまのような綺麗な青の目がわたしにほんの少し想像をさせる。

 お爺さまのお仕事、商売を手伝う。マイルズさんのところの人たちみたいに制服を着てお客さんに商品をお勧めするんだろうか。それとも売ったり買ったりしたお金の記録をつけるんだろうか。商売をするための会合にも出て、父さまがしてるみたいに調整とかもするんだろうか。そのどれもが大変そうで、同時に楽しそうだ。きっとお客さんとお話するのも、喜んでもらうのも気持ちがいい。


「えへへ」


「おや、満更でもなさそうだ。その気があるならいつでも言いなさい、私が手ずから商売を教えてあげよう」


 わたしの反応が嬉しかったのか、お爺さまは今日一番の笑顔になった。


「ありがとうございます」


 商人の道も楽しそう。でもたぶんわたしは冒険者を辞めないと思う。アクセラちゃんと一緒にいたいのが一番だけど、それ以外にも理由はある。わたしは魔法が大好きだ。魔法を自由に使いたいなら冒険者が最適だってレメナ先生が言ってた。それに大事なことは商人も冒険者もきっと変わらない。

 商人はお客さんに良い物を売って、周りの人たちも幸せにする仕事だってお爺さまは言う。冒険者だって依頼人のために色々働いて、所属するギルドや街の安全を守る仕事だ。モノを売るか、自分の力を売るかの違いしかないと思う。半分くらいアクセラちゃんの受け売りだけど。


「さて、それでは行かなければ。ビクターとラナにもよろしく伝えておいておくれ。それとあまり危ないことをしてはいけないよ?」


「はい」


「ん」


 わたしとアクセラちゃんが頷くのを見てお爺さまは立ち上がる。そのタイミングで扉が開けられて、最初に案内してくれた執事さんが入ってきた。


「旦那様、ご用意が整いました」


「ご苦労。このお嬢さんたちにたっぷりお土産を持たせてあげてくれ。アレも忘れないように」


「かしこまりました」


「それじゃ、名残惜しいけど失礼するよ。また近くに来たら足を運んで、この年寄りに面白い話を聞かせておくれ」


 お爺さまはテーブルを回り込んでわたしたちの頭をそっと撫で、かがんでそっと私の額に口を付けた。愛情をもって接してくれているのは痛いほど分かる。でも、なんでアクセラちゃんにはそうしてくれないの?という疑問が心の片隅に引っかかった。


「では」


 とうとうお爺さまは部屋を出て行った。そして残された執事さんが代わるように一歩前に出る。


「お土産をご用意いたしました。護衛の方にもご用意しております」


「ん、ありがと」


「ありがとうございます」


 二人でお礼を言う。ガックスさんの分まで用意してくれたのはとっても嬉しい。護衛はいない物として扱われることが多いから。

 まあ、それを含めての依頼料なんだろうけど……。


「それとこちら、旦那様からお嬢様のお父上宛のお手紙です」


「あ、わかりました」


 お爺さまが最後に言ったアレというのはコレかな。

 執事さんがそっと差し出したのは父さまに宛てた手紙だ。中に何が書いてあるのかは分からないけど、わたしたちに預けるんだからきっと大事なことなんだろう。普通のお仕事や私的な手紙ならギルドに出せばいい。

 それにしても、なんだかこの旅あっちからこっちに手紙を運んでばっかりな気がする。


~予告~

伯爵領から王都へ、王都から伯爵領へ。

手紙を届ける、その大切さを彼女たちが知るのはもう少し先のこと。

次回、テガミ屋ハチ


パリエル 「一文字入れるだけでここまで雰囲気が死んでしまうとは」

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