三章 第8話 失せ物探し
ケイサルの北門から出ると、そこには領都から伸びているとは思えないくらい細い道があった。他の領地や主要都市と繋がる街道は東西南の門へ接続しており、この門から向かえるのはさびれた寒村1つとケイシリル沼地という無人の沼地だけ。その沼地にしても有用な植物や生物はおらず、重たい色あいの泥水と毒性のある低木などがある程度。
「ケイシリル沼地に薬になるような植物ってあったかなぁ……」
歩きながらエレナが首をかしげる。お互い初の外界だが、思ったほど感動もなにもなかったのは依頼のためか。あるいは北側が畑さえない手つかずの草原だからかもしれない。これが他の門から出たなら、広がる農地と街道が牧歌的ながら立派な景色を作っているのだが。
ところで毒と薬は表裏一体という言葉がある。表裏一体というか、多くの場合同じ物だ。なので沼地に生える植物が薬の材料になっているということはありえない話ではない。とはいえこんなに近くにある沼がそんな有用な植物の自生地ならもっと注目されてしかるべきだと思うのだ。
「俺たちが知る限りはないな」
依頼内容の意図的な隠蔽が発覚したあたりから大分きな臭くなってきたからか、ガックスがすぐに情報を共有してくれる。
彼等「夜明けの風」は2度ほど依頼でその周りに行ったことがあるそうだ。2度とも内容は植物標本の採取をする学者の護衛だったらしい。その際に学者からケイシリル沼地の植物は全て毒性をもっており、その元は沼にある有害鉱物なのだと教えてもらったそうだ。植物性の毒は多く薬でもあるが鉱物性の毒はただの毒であることの方が多い。
「怪しい」
「だね」
「それでも行くんだな」
怪しい怪しいと言いながらも引き返すそぶりを見せない俺たちにトーザックが苦笑気味な声をかける。たしかにこれだけ不備が多い依頼なら完遂しなくても評価にマイナスはつかないし、報酬はなくても迷惑料くらいなら貰えるだろう。
「興味がある」
「興味って……」
「それに私は領主の娘。毒植物の宝庫で怪しい行動なんて、放ってはおけない」
などともっともらしい理由を言う俺だが、事実そういう気持ちは3割ほどある。俺たちがここまで生きてこれたのには領民からの税収が大きく関与している。将来的に家を飛び出して使徒の仕事に専念する俺は領主になることもできないし、他家に嫁入りして利権を勝ち取ることもできない。だから少しだけ今のうちに果たせる義務は果たしておきたいのだ。
「立派だねぇ……王都でタダ飯喰らってる馬鹿貴族にも聞かせてやりたいよ」
「これでもユーレントハイムは腐敗貴族の少ない方らしいぞ」
「ま、たしかに四大貴族を筆頭に最上位の連中は真面目ぞろいだわな」
ユーレントハイムの国政は可もなく不可もなく、ただしいささかスキル主義に傾倒している。そんな印象だ。獣人に対する強い差別心と身分制度への異常なまでのこだわりを持つ100年前のアピスハイムに比べればかなりいい部類だろう。
それでも一番いいとは言えない。この世で最も腐敗とは無縁の国はどこかと聞かれれば、徹底した総合実力主義を掲げるロンドハイムと俺は答える。皇帝と帝国貴族が統治する最古の封建主義国家の1つである、ロンドハイム帝国を。実力を失えば爵位も失うから貴族の真剣さが違うのだ。
「そろそろ林」
雑談に花を咲かせる、というほど喋ってはいないが、まだ北門が後方に十分見える程度の距離で目的地の林に辿り着いた。何の変哲もない木々の生い茂る、森というには小さいが木立というにはそれなりに鬱蒼とした、まさしく林と呼ぶのがふさわしい場所だ。
「野犬がいるって言ってたけど、あの様子だとほんとに犬かも怪しいと思う」
「狼だってあり得る。気を付けよ」
野犬だって十二分に危険だが、狼はやはり別格だ。
俺とエレナはしっかりと気を張って林に足を踏み入れる。やること自体は小さいころから屋敷の庭でやってきたことと大して変わらない。それを外敵の存在に気を配りながらするだけのことだ。
「エレナ、火以外でおねがい」
「あ、そうだね」
こんな街の近くの林が燃え上がるのは勘弁願いたい。
「複数属性が使えるのか」
「はい。なにがどれくらい使えるのかは秘密ですけど」
ガックスが感心したように呟くとエレナはそう言って笑い返した。そして腰のベルトに着けられた剣帯から短い杖を抜く。青い結晶が石突にあしらわれた銀の杖。そう、出掛けにぞんざいな授けられ方をした一人前の証の魔法杖だ。
「探索に魔法は使う?」
「ん……まずは普通に探そ」
普通の系統の魔法にはなくしものを探すなどというものはないのだが、裏技的な系統でできなくはない。ただそれをしてしまうと魔法が使えない状況や魔法に反応しない物を探す時に困るので今は目で探すことにする。
「うん、わかった」
俺を先頭にエレナ、トーザック、ガックスという隊列で林へ踏み入った。
~★~
「あったよ!」
探し始めてからわずか小一時間ほどで俺たちは見つけるべき道具のほとんどを見つけていた。どこからどう見ても毒草にしか見えない植物の詰め込まれた壺や、まだ空の試験管などが主な発見物だ。ただ試験管の方は大部分が割れてしまっていたが。
「発見した時点で割れていたならそれはこちらの責任にはならない」
そうガックスはいってくれたが、あの変な依頼人なら難癖をつけてきそうな気がする。まあ、そうなったとしても俺たちが意図的に道具を、それも買い替え可能な試験管を割る意味もないんだし、お咎めはなしだろう。
「あとは……2つ?」
携帯式の小さな薬研と拳3つほどの大きさのある黒い魔導具だ。魔導具の方が何に使う物なのかは、一応商売道具であることだし聞いていない。
「あと探してないのは向こうだね」
「ん」
俺たちは最初から丁寧に茂みをかきわけて捜索をしていた。探す物がある程度大きいからといって雑な探し方をすると帰って時間がかかる。
「これならお昼ご飯までに帰れそう」
「そうだね。うっかり食べる物持たずに来ちゃったし」
街の近くという事もあって食料を持ってくるのを忘れていた。ラナたちは屋敷で軽食を持たせようとしてくれたのだが、ピクニックでもあるまいしと断ったのだ。ギルド商店かどこかで保存食なり軽食なりを仕入れればよかった。
「にしてもあの魔導具なにに使うのかな?」
まだ探していない茂みをかき分けていると、ふとエレナがそんなことを言い出した。用途不明の魔導具は彼女の好奇心を大いに刺激するのだろう。
「エレナ、依頼内容の詮索は禁止」
「むぅ……そうなんだけどさ」
未知のものに出会うと既知へと塗り替えたくなってしまうのがエレナという少女である。それでも変に依頼内容を詮索する冒険者は信頼を得られないし、無用のトラブルに巻き込まれることもある。それが立場や道徳的に踏み込まざるを得ないトラブルでもないかぎり無視するのが冒険者の鉄則なのだ。
「……ん?」
「おい、ちょっと止まれ」
俺がなにか変な気配を感じたのとほぼ同時、トーザックが小さく声を上げた。
「なにかいるぜ……全員こっちに、静かに集まれ」
彼の指示にしたがって俺とエレナは足音を消してゆっくりと集合した。たしかに何かが近くにいる。ただ動物とも魔物ともつかない変な気配だ。
「何が出てくるかわからない、俺が前衛だ。アクセラは遊撃、エレナとトーザックは後衛に徹してくれ」
パーティーリーダーとして迅速な指示を飛ばすガックスに俺たちは頷いて隊列を組みかえる。盾を持っていなくとも彼の腰に下げた頑丈そうな剣なら十分壁役を担えるだろう。
「野犬の雰囲気じゃないな」
「来るぜ、リーダー」
彼の呟きを聞いたからというわけでもないだろうが、奥の茂みをガサガサと揺らして気配の正体が姿を現す。どこかぎこちない足取りの3頭のソレはたしかに犬の形をしていた。しかし、それを野犬と称せる人間はまずいないはずだ。
「こ、これは……」
思わずといった様子でガックスが息をのむ。
「アンブラスタハウンド……?」
図鑑で見たことのある犬の魔物に似ている。だが本の中では全身を覆っていたはずの茶色の短毛は大部分が抜け落ち、同じく茶色とされている瞳は白く濁っていた。特徴的な2列の牙が覗く半開きの口からダラダラと流れ出る涎は薄く黄色味を帯びている。熱に浮かされているかのように荒い息をたえず吐き続け、ほとんど見えてないだろう目の代わりに鼻の穴が激しく収縮と拡大を繰り返しているのがわかる。
「病気持ちなのか?」
「魔物も病気になんのかよ……?」
魔物が病気にかかると言う話は聞いたことがないが、かからないと証明されてもいないな。
「病気か毒か……なんにせよ手早く倒したほうがいいな」
「ん、賛成」
「グルル……グルルルル……」
うわ言のような唸り声を洩らしながら、3頭の先頭に居た個体がこちらめがけて走り出す。
「ふん!」
効率的な動きをする魔物には似つかわしくない、ばたばたとした動作で迫るそれにガックスが鞘ごと抜いた剣で殴りつける。
「ギャン!」
「な!?」
顎の骨くらいなら砕けそうな重たい鉄の一撃に怯むかと思いきや、アンブラスタハウンドはそのまま突進を敢行した。慌ててガックスも剣を引き戻してその爪を受け止めるが、羊と牛の間ほどもある犬に伸し掛かられて動きが止まってしまう。
「エレナ、牽制!」
「わかった!」
俺も腰の剣を抜き放ち、身をかがめて走り出す。ガックスの脇を潜り抜けた俺の横を掠めて何かが飛んでいくが、そちらには気を向けずに自分の獲物を見据える。上半身を起こしてガックスへと爪と牙を向ける魔犬の無防備な腹……ではなくそれをささえる後ろ足に加速のついた剣を突きこむ。
「ギャイン!!」
筋線維に垂直にあてた刃を左右にブレさせず引くイメージで斬り払い、かなり落ちた加速を地面についた片手も使って殺す。そしてたわめきった足で地を蹴り加速をつけながら振り向きざまに反対の後ろ足の筋線維も斬り裂いた。
「氷の理は我が手に依らん!」
移動のエネルギーが尽きて一拍の停止に入った俺の耳に、エレナが呪文を結ぶ声が聞こえた。体を支える力を失った1頭目をガックスがねじ伏せるのを横目に背後を振り返れば、氷の枷に4つの足を囚われて地面にもがく2頭目が見える。走り出そうとした直前に魔法をかけられてぶつけたのか、鼻面から血がだくだくと溢れていた。
「はっ」
ガックスが抑え込んだ1頭目の首をへし折る。
「凍てつけ、霜の檻よ。氷の理は我が手に依らん」
エレナが2発目の氷魔法を放ち、2頭目の全身にうっすらと霜が浮かんでくる。動きも鈍り、ほんの5秒ほどで完全に凍死した。
3体目はというと……頭から6本ものナイフを生やして息絶えていた。
「トーザック、ナイスだ」
立ち上がったガックスが後ろの斥候に親指を上げて笑う。
「おうよ」
トーザックもそれに笑顔で答える。俺の横をすり抜けて飛んでいったのは彼が投げたナイフだったようだ。近くに2本ハズレが落ちていることから考えて8本中6本命中。加えて魔物の頭蓋骨を貫通する威力、『投擲』や『ナイフ術』を持っているのだろう。
「はぁー」
エレナが大きく息を吐く。一瞬の出来事だったが初めての対魔物戦闘で緊張したのかもしれない。
「2人とも良い判断と腕前だった」
「あ、ありがとうございます」
「ん。そっちもおつかれ」
「さて、諸々の評価は帰ってからにするとして、まずはこの魔物をどうするかだな……」
体毛をかなり失い目も白濁し涎も止まらなくなっていた、病気か毒に侵された魔物の死体。正直触りたくないし触らないのが吉だろう。
「エレナ、2体は凍らせて」
「保存用だね、まかせて。凍てつけ、霜の檻よ。氷の理は我が手に依らん」
先程も使っていた氷魔法中級・コアフロストは本来攻撃の魔法ではなく狩りの成果などを芯から凍らせて保存する魔法だ。普通に放っても生きている相手は体温や生来の魔法耐性に阻まれて凍死まではいかないところ、エレナは体毛の抜け落ちた部分に氷の魔力糸をたっぷり巻き付けて凍らせたのだろう。
魔物の魔法耐性は毛皮が担っていることが多いからな。よく考えている。
「1つは凍らせずに置いておく」
「そうだな、凍らせて検分に差しさわりがでないとも限らん」
安全上の理由から触りたくないこの死体を、俺たちはギルドに報告して引き取りに来てもらうことにした。危険な外見の物を見つけたら報告するのもまた冒険者の仕事であり、それを検分するのもギルドの仕事だ。
「探索は……エレナ、魔法でしていいよ」
「はーい」
他にもこんな状態の魔物がいるかもしれないし、手元の3頭だけでもさっさと帰って報告したい有様だ。
「根源たる力よ、我が意を映す鼓動よ。脈打ち染み渡る波となれ」
そっと詠唱したエレナから魔力の波が波紋状に数回放たれる。その気配を邪魔しないよう俺は自分の魔力をできるだけ抑える。
系統外魔法初級・マナソナー、属性を持たずスキルにもなりにくい非常にマイナーな魔法の1つだ。極めれば『系統外魔法』になるのだが、地味過ぎて知っている者もほとんどいない、賢者レメナでさえレベルをマックスまで上げていないらしい魔法なのだ。
「…………あった」
放射した魔力の波を感知しながら魔眼でも観察していたエレナがすっと茂みの向こうを指さす。
「魔導具も薬研もあそこにあるみたい。近くに魔物、というか生き物の反応はないよ。虫以外はだけど」
小動物もいないのは少しおかしい気もするが、エレナが視て感じていないと言うならいないのだ。この魔法を覚えた直後から彼女は庭の木に住んでいる虫の数まで正確に数えられているのだから、今更ミスする心配はない。
「よし、これで依頼の方は達成だな」
「さっさと帰ろうぜ、こんなわけ分んねえとこさ」
「ん」
エレナのナビゲーションに従って残った2つのアイテムを回収した俺たちはさっさとケイサルへ取って返した。
~★~
「ギルマスはいるか?」
昼時になって短い依頼から帰ってきた冒険者が増えてくるギルド内、受諾の窓口にも相談の窓口にも数人が並んでいたがガックスはそれを無視してカウンターの向こうのギルド事務官に話しかけた。ちなみに昼は依頼人が少ないので依頼の窓口は呼び鈴だけが置かれている。
「おい、あんた目はついてんのかよ?ちゃんと列に並べや」
列の最前に立っていた男が不愉快そうにガックスに文句を言う。そのパーティーメンバーやさらに後ろに並んでいる者たちも咎めるような視線をこちらに向けてきた。
「すまんが急ぎの報告をギルマスに持ってきた。すぐに奥に引っ込むから待ってくれ」
「……まあ、それなら」
ギルドマスターに直接報告することなどそう多くない以上、こちらの要件が重要だということは察しが付く。それを邪魔したとなるとギルマスの心証も悪くなるだろう。そんなことを考えたのか、思いのほかあっさりと男は引き下がった。
「すみませんが一応ギルドカードを提示ください」
ギルド事務官の男性に求められてガックスは銀色の金属カードを差し出した。それを見た他の冒険者から小さなざわめきがおきる。銀のカードはBランク冒険者の証。つまり中堅の壁を乗り越えたベテラン冒険者だということだ。ケイサルがダンジョンに近い増強支部といってもBランク冒険者は多くない。
「はい、確認が取れました。今、事務官にギルドマスターの部屋まで案内させます」
「わるかったな」
「い、いや……」
奥側で書類仕事をしていた事務官が案内についてくれたので俺たちはその後をついて行くことになった。去り際に一言詫びてから行くガックスに悪感情を覚えた者はここにはいないだろう。ああいう細やかさは意外と上級冒険者に求められるのだ。
「ギルドマスター、お客様です」
「はいりな!」
扉のなかからでもよく聞こえる銅鑼声に許可を得て中へと入る。そこには大柄な女丈夫と共に痩せ形の中年男性がいた。
「ああ、こいつとは初対面だったね。このケイサル支部の支部長エド=マイアさ」
「これはどうも、エドと申します。ケイサルのギルドを預からせていただいております。伯爵様の御息女様と家宰様の御息女様でいらっしゃいますね、以後どうぞよろしくお願いします」
ニッコリ笑って腰を折る支部長のエド氏。マイルズ=リオリーのような大仰さはないが落ち着いた声で囁くように馬鹿丁寧な言葉を垂れ流すさまは支部長とは思えない腰の低さだ。
「威厳に欠けるし冒険者上がりでもない昼行燈だけどね、これで人を見る目だけはギルドでもずば抜けてる。こいつは頼りにならないだろうけどこいつの選んだ人間は信頼していいよ」
「そう言っていただけますとわたくしとしても大変うれしい限りです」
皮肉でも何でもなく本当にうれしそうに微笑むエド。今までに会わなかったタイプの変人だ。
「で、ワタシに直接話をしにくるなんて何があったんだい?」
「話が早くて助かる。今ちょうどこの子たちが依頼をこなしていたんだが……」
それからガックスは俺たちが依頼を受けて依頼人に会いに行ってからおきた出来事を、時系列に整頓し自分の印象も添えて報告した。ベテランの冒険者による推測はかなり鋭いのでこうして事実に私見を加えた報告をしたほうが喜ばれるのだ。
「ふん……エド、事務官の教育が行き届いてないんじゃないのかい?」
「大変申し訳ない限りでございます」
「しかしそのアンブラスタハウンドの状態は気になるね。魔物が病気になるって話は聞いたことがないし、十中八九は毒物だろうけど……エド、『分析』や『鑑定』を持ってる職員は今何人いるんだい?」
検分を行うのも普通はスキルでだ。スキルを用いずに調べることも可能だが、これに関しては俺もスキル優先派だったりする。手っ取り早くて感染や汚染の心配がない。
「事務官に分析系を持つ者は3人おります。鑑定系はギルドにはおりませんが職人街の薬師の方と提携させていただいていますので、その方に来ていただくのがよろしいかと思います」
「あとは教会のシスターを呼んできな。もし万が一呪いの類だったり検分中にアンデッド化したりすると厄介だからね。億が一にも病気だったときのために火属性の魔法使いも連れて行くんだよ」
「はい、すべて準備させていただきます」
マザー・ドウェイラの指示を聞いたエドは俺たちに短く礼を言って足早に部屋を出て行った。これから薬師とシスター・ケニーと手の空いている火魔法使いを呼んで検分の準備を整えるのだろう。
「トーザック、あんたが検分の連中を案内しな」
「えぇ……勘弁してくれよマザー、俺たちこのあと飯なんだぜ?」
「んなこと言ったって場所が分かる面子で使い走りに向いてるのはアンタしかいないじゃないかい」
「ひでえ……」
使い走り呼ばわりされたトーザックは目いっぱい顔をしかめながらも渋々支部長の後を追いかけた。なんだかんだちゃんと働く男である。
トーザックが減って3人となった俺たちにマザー・ドウェイラは向き直ると、腕を組んで不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ふん。で、その薬師のマルコスなんちゃらベリーは今ここで預かってるんだね?」
「そのはずだ、マザー」
「ならそっちからも事情を聞いておくべきだね……まあ、ちょうど暇だったしワタシが直々に絞り上げてやるとしようじゃないか」
「そ、それはありがたいが……一応この子らの依頼人だ、報酬と違約金を払える程度には絞る物を残しておいてくれると助かる」
たしかにこの叩き上げのギルドマスターに絞られたら、それが物理的であっても精神的であってもあのマルコスくらい秒単位で死んでしまいそうだ。
「ふん、後ろ暗いことが出てきでもしない限りワタシ自身は何も言いやしないよ」
逆にいえば後ろ暗いところが見つかれば林檎を手で絞って果汁とカスにわけるように、マルコスは必要な情報とカスに絞り分けられてしまうということだ。
「……まあ、街のためになるならそれでもいい」
「そうだね」
どうせ今後も依頼は受けるんだし、今回を逃したからといって俺たちは飢えないし凍えないだけの身分を持っている。
ただ俺たちの言葉は意外だったのか、マザー・ドウェイラは目をわずかに見開いてぼそっと呟いた。
「……オマエたち、いい子だね」
二度目の人生を異世界で、アニメ化頓挫してしまいましたね。
忙しくなって読むのを止めてしまいましたが、原作は結構好きでした。
昔の発言がいつまでも残っていつまでも祟られる、ネットは怖いなと思いました。
まあ、そもそも常日頃から自分の発言に気を付けるべきなんでしょうね・・・。
なんにせよ、ヘイトスピーチは聞いていて悲しいですね。
~予告~
持ち込まれたのは異様な風体の魔物の死体。
分析班の解き明かす真実は、大きな事件への入り口だった。
次回、CSI:ケイサル
ミア 「ネタが雑なのじゃ」
シェリエル 「いいかげんなパロディ嘘予告ですし、雑じゃなかったことの方が少ないです」




