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三章 第1話 冒険者ギルド

 この世界には冒険者ギルドというものがある。その名の通り冒険者による冒険者の為の組合で、本拠地は創世教の総本山でもあるガイラテイン聖王国にある。

 そもそも冒険者とはなにかというと、実は冒険をしたり魔物を狩ったりする者のことではない。特定の国に籍を置かず、自らの才覚だけでなんの後ろ盾もないまま世界を旅する者を、尊敬半分揶揄半分で冒険者と呼んだのが始まりだ。

 冒険者ギルドもまた、元をたどればそういった本当の意味での冒険者たちが生存率を上げ、情報共有や仕事の円滑な処理を図るために創設されたものだ。ガイラテインに本拠地を置いていても創世教の下部組織というわけではない。

 ギルドは本拠地である総本部の下に本部と支部、出張所という3種類の拠点を持っている。本部は各国の王都や主要都市に、支部はそれ以外の都市に、出張所は町や村に置かれていて、それぞれが下の規模の拠点を複数傘下に収めたピラミッド型の秩序を有する。

 さて、オルクス伯爵領領都ケイサルに置かれているギルドはなにかというと、支部にあたる。しかしただの支部ではない。俗に拡張支部や増強支部と言われる標準より大きめの支部だ。なぜ拡張支部なのかというと、ケイサルを囲むとある立地上の理由があった。


「着きましたぞ」


 事前知識を反芻していると渋いバリトンで扉の外からそう告げられた。

 俺と乳兄弟のエレナ、食客魔法使いのレメナ爺さんは今まさにその冒険者ギルドケイサル支部へと馬車で来ているのだ。念願のギルド登録のために。ちなみに今日はトレイスが回復してから4日後、つまり予定より2日遅れての到着である。


「どうぞ、お嬢様」


「ん、ありがと」


 馬車の扉が開き騎士甲冑を着た紳士的なクマ、もとい紳士的な雰囲気のクマのような騎士が手を差し伸べてくれる。我が家の騎士を束ねる豪傑、トニーだ。渋い樫色の瞳に優しさと知性を宿した男の岩のような手を取って俺は外へ出た。そして振り向き、エレナに手を差し伸べる。


「アクセラちゃん、ありがと」


 胸元に銀の三日月、補助魔導具アクセサリーをつけたエレナは俺の手を取って下車する。


「ようやく登録だね」


「ん、ようやく」


 本当にここまでが長かった……気が急いていてそう感じるだけかもしれないが。

 ギルドの建物はしっかりとした石造りで、正面の扉は大きく開け放たれている。そこを様々な格好をした人が出入りしているのだが、そのうち半分以上がこちらをそっと窺ってから入る。旨い仕事に対する期待がこもった視線だ。

 残念だが貴族様発注の旨い仕事ではないのだ、すまん。


 誰に助けられることもなく1人馬車を降りたレメナ爺さんの先導で扉をくぐると、中は外から想像されるよりもずっと広かった。正面にはしっかりとした造りのカウンターがあり、それを挟んでギルド事務官と冒険者や一般人がやり取りをしている。依頼の受注や受諾、報酬の受け取り、ギルド登録、その他もろもろの処理をする受付だ。

 左側は会議室やその他の施設に繋がっているだろう階段があり、右側には半分別室のような作りの武器防具屋が設けられている。そこではギルドが扱う数打ちの武器や防具、冒険に使う道具や規格物の薬などが売られている。


「のう、お嬢ちゃんや、古い本を持って来たとギルドマスターに伝えてくれんかのう」


 爺さんは空いている受付で声を潜めてそう言った。相手はまだ少女と言ってもいい歳の事務官だ。


「古本ですか……?あの、ギルドマスターにお会いになるのでしたら身分を証明できるものを提示していただかないと」


 いきなり言われた一見意味の分からない要件に怪訝そうな表情で彼女は答える。


「伝えてくれればそれでいいんじゃが」


「すみません。ギルドマスターはただいま手が塞がっておりますので、ご用件は事務官の方で窺わせていただきます。それとその、身分証を出していただきませんと……」


 若干マニュアルをそのまま読んでいるような言葉の選び方だが、この歳でこれだけしっかり対応ができるのは素晴らしい。さすがはギルドの顔である受付を任されているだけはあるな。

 まあ、根本的に問題があるんだが。

 事務官の要求にレメナ爺さんは苦笑を浮かべる。隠遁しているらしいし賢者の身分を示せるシロモノを人目につく受付で出したくないのだろう。

 用事が済んだ風でもないのに沈黙が流れたことを不思議に思ったのか、隣の窓口で大柄な冒険者の対応をしていた青年が横目でこっちを窺う。そして苦笑いする老魔法使いと困惑しつつもじっと、緊張のせいか傍からは少し睨むような目つきで見上げる同僚を視界に収める。


「どうかなさいましたか?」


 ちょうど自分の対応すべき客も途切れた彼はこちらの窓口にやってきてにこやかに尋ねる。なんだか男性の事務官には珍しいやたらと丁寧な言葉遣いが胡散臭い。おおかた仕事の手助けをしてやって後輩の関心を買うつもりでちょっと気取った口調になっているのだろうが。


「あ、ロム先輩、こちらのお客様がギルドマスターにご用事と……」


「ギルマスに?失礼ですがどういったご用件でしょう?」


 会いたいと言う奴を片っ端から合わせるわけにもいかないので対応としては当然だ。


「古い本を持って来たんじゃよ」


「うぇ!?」


「え?」


 気取った雰囲気を漂わせていた先輩事務官から頓狂な声が上がる。


「お、お前、何考えてんだよ!?早くギルマスに伝えに行ってこい!」


「え、え、え?」


 急に焦りだした先輩事務官に困惑を深める後輩。


「いいから行って来い!ほら、はやく!」


「え、わ、わかりました!」


 怒鳴られた彼女はわけもわからず2階への階段を駆け上がっていった。


「しし、失礼しました、彼女は先月から働き始めたばかりでして……!」


 いきなり心配になるほどの汗を流し出した青年は腰の低い態度で謝罪する。


「いや、符丁がすぐに伝わらんかったくらいで怒ったりはせんのじゃが……」


 そう、レメナ爺さんがさっきから言っていた「古い本を持ってきた」というのはいくつもあるギルドの符丁の1つなのだ。登録から10年以上たっている古参の賢者が身分を隠してギルドマスターに会いに来た、という意味の。ちなみにこれが同じく身分を隠したい古参の剣士などになると符丁は「古い剣を持ってきた」となったりする。

 賢者とギルドマスターのどちらが偉いのかというと、それぞれ個人的な経歴によるところが大きいが、一般的には賢者に軍配が上がる。この事務官の焦りはそんな人間に不便をかけさせたらどんなお叱りが来るかと想像してのことだろう。


「お、おまたせしました!どうぞ、こちらです!」


 冷や汗と営業スマイルしか浮かべられなくなった先輩事務官が緊張で小刻みに震えだすころ、さきほどの新米事務官が戻って来た。2階でもこちらの素性は教えてもらえなかったのか、いまだに何が何やらわからないといった顔だ。

 それでも別に彼女が事情を承知している必要があるわけでもなく、俺たちは黙ってその先導に従って2階へと上がった。ちなみに後ろからは取り越し苦労な心労から解放された男の吐く安堵の音が聞こえてきた。


~★~


 2階は長い廊下の左右に扉がいくつもついた、どことなく某天上の宮殿を思い起こす有様だ。さすがに比べるべくもなく向こうの方が荘厳で広いが、何も違うのはそこだけではない。1つ1つの扉には青か赤のプレートがかけられているのだ。確かこれは使用中かどうかを示すものだったはずだ。


「ギルドマスターはこちらでお待ちです」


「ほほほ、ご苦労じゃった」


「い、いえ」


 触らぬ神に祟りなしと判断したのか、事務官の少女は言葉少なにいそいそとその場を去ってしまった。


「怖がられてしもうたわい」


 肩をすくめておどけてみせるレメナ爺さんは、そのまま軽くノックをしてから扉を開いた。

 ギルドマスターの待つ部屋に返事も聞かず入る輩なんてそうそういないぞ。 

 生前の自分を棚に上げてそんな感想を抱く。


「ノックするなら返事を待ちなよ、ったく」


 そうごもっともなことをぼやいてみせたのはこぢんまりとした会議室の奥側に腰掛けた人物、間違いなくギルドマスターだろう。簡素な机と椅子がよく似合う質実剛健な雰囲気を纏った女性だ。暗い灰の髪には僅かに白髪が混じっていることから歳は初老手前だろうが、その厳つい顔は全く老けて見えない。

 俺が現役だったころは女性のギルドマスターはそう多くなかったが、これも時代か。

 とはいえ、女性といっても尋常な風格ではない。椅子が子供用に見えるほどの巨躯をギルド高官の印である黒いコートに包んだその姿は、かつて刃を交えたロンドハイム帝国軍の前線将校を彷彿とさせる。叩き上げの戦士特有の、爆発しそうな戦意と破壊力を理性と規律のタガで制御しきった気配もよく似ている。


「ほほ、儂とお前の仲じゃろう」


「どんな仲さね……と、アンタの茶番に付き合ってちゃ用件までに3日は取られちまう。さっさと入って席につきな」


「あんまりな言い様じゃのう」


 不平を零しながらも爺さんはガラガラとした声に従う。俺とエレナも続いて席に着いた。


「ふん、面白いガキじゃないか」


 早速飛んできた値踏みするような視線。ガイラテインに住むセントグリズリーの毛のような淡い灰色の目は、その迫力において聖なる灰色熊を凌いでいる。なんの心得もない少女がこの目で見られたら最悪その場で失禁して意識を失うだろう。

 まあ、俺には通用しない。真っ直ぐに見返してやる。エレナも一瞬身震いしただけでしっかり耐えている。


「ワタシの視線に耐えるとは、そっちの金髪は見どころがあるじゃないか」


 にやりと笑ってギルドマスターはそう言った。


「で、そっちの余裕そうなのはなんだい?魔族かい」


 誰が魔族か。


「ほほ、いくらお前でも止めておくことじゃ。そっちのはうちのお嬢様じゃからな」


 爺さんも「そっちの」とか言ってる時点で似たようなものだろうに。


「初めまして。アクセラ=ラナ、9歳です」


「は、初めまして、エレナ=ラナ=マクミレッツです。わ、わたしも9歳です」


「ふん、あのボンクラ領主とタヌキ家宰の娘どもか。確かに肝は座ってるようだが、ほんとにこんなのを冒険者に推したいのかい、アンタは」


 先程から散々な言葉が降り注いでいる。しかも一切俺たちに対しては話しかけず、ひたすらレメナ爺さんとのみ会話すギルマス。認めていないという態度なのだろうか。


「本当の本当じゃよ。お前とてそれが分かっておるからここに居るんじゃろうが。儂が耄碌した老いぼれジジイじゃと思うなら態々ネヴァラからケイサルまで出向いたりせんはずじゃ」


 ネヴァラはレグムント侯爵領の領都である。このケイサル支部はネヴァラ本部の管轄なので、ギルドマスターも普段はそちらに居るのだろう。支部には支部長こそいれど、ギルドマスターはいないのである。


「……ふん」


 面白くなさそうに鼻を鳴らして、ギルドマスターは机の上に置かれていた鈴を指ではじいた。リンと小さな音がして、ほどなく初老のギルド事務官が部屋へとやってくる。屋敷で食事の時間を知らせるのに使われているのと同じタイプの魔導具らしい。


「お呼びでしょうか」


「登録書類と魔導具持ってきな」


「かしこまりました」


 短いやり取りで事務官が下がるとギルドマスターはようやくこちらに話しかけ始める。


「アクセラとエレナだったかい。ギルドについてはどれくらい知ってる?」


 それは実に穏やかな口調だった。巌のような重さと鉄の剣のような質実さは変わらないが、俺たちを受け入れるつもりがあるというニュアンスを感じる。さっきまでの否定的な言葉からてっきり厳しいことでも言われるかと思っていただけに驚きだ。


「ギルドは来るものを拒まない。ワタシの所見とは関係なくね」


 俺たちの、というよりエレナの表情から察したのか目の前の女丈夫はそう言った。ギルドの職員である以上、登録する者にはちゃんとした説明を行う義務があると。


「それにお前の父親は鷹の家に生まれた蝙蝠だが、鷹の息子に違いはない。その娘がまた鷹である可能性は十分にあるってわけさ」


「……?」


 1つ年が上がるごとに加速度的に父親の悪い評価ばかり聞くようになるな。会ったこともないし元々親に多くを期待するような性格でもないので気に障ったりはしないが、それでもかなり夏が待ち遠しくない気分にはさせられる。

 臣下の貴族をほとんど失い家の財政もかつかつで、10年近く領地に戻って来やしない。あげく鷹の家に生まれた蝙蝠とまで言われる始末。人格的にも能力的にも明るい期待がなにも持てやしない。


「ドウェイラ、その話はまだしておらんのじゃ。悪いが控えてくれんか」


「はあ?自分の親のことも知らされてないのかい!あの腹黒は何考えてんのさ、ったく」


 話の流れ的に腹黒とはビクターのことだろう。俺たちの前ではちょっと優柔不断で不器用な優しいお父さんだが、それが彼の正体でないことくらいは俺にも分る。伯爵家の家宰なんて腹黒くなければ務まらないだろう。

 身近な話で言えばビクターとラナたちは俺が生まれたばかりの頃から何か目的を持って行動している節があるしな。いや、身内に対して優しい人物であることだけは本当なんだが。


「はぁ、まあ、そんなことはいい。ワタシには関係ないことだしね。で、ギルドについてはどれくらい知ってる?」


 面倒くさくなったとばかりに肩をすくめて話を戻すギルドマスター。


「ギルドの成り立ちと目的とかは」


「仕事は?」


「一般からの依頼受諾と冒険者への依頼斡旋、物資や情報の支援。あと銀行業務」


「その通りだ」


 そこらへんは大人なら大体知っている常識の範疇。


「なら登録時の説明だけでいいかね」


 大前提がすっ飛んでいる箱入り娘でないことだけは確認したかったのだろう。ギルドマスターはそのままギルド登録時に事務員が誰でもする説明を始めた。


「ギルドに所属する冒険者はGからA、Sの8ランクに分けられる。このうちGは非戦闘員だから、お前たちはFから始めることになるね」


 Gランクとは魔物狩りや調査、護衛、採取などの専門依頼と呼ばれる依頼を受けない冒険者のことだ。その内訳は専門依頼を受けられないと判断された若年者、旅先での身分証明がほしいだけの一般人、そして特定の国に籍を置かない本当の意味での冒険者。配達や雑用などの専門でない依頼を受けることはできるが稼ぎが少なく、実際は前2つのパターンがほとんどを占めている。ギルド以外に寄る辺のない者の方がむしろ高ランクの冒険者資格を持っている場合が多い。


「依頼にもランク分けがされてるから受けるときは受付の奴とよく相談するんだね」


「ん」


「はい」


「ないとは思うが、重犯罪やギルド規約に違反することをやれば剥奪だから滅多なことをするんじゃないよ。一度剥奪されたらまず再発行はできないし、事によっては国とは別にギルドから指名手配をうけるからね」


 ギルドは大陸中に拠点と人員を持つ巨大組織、指名手配されれば逃げるのは至難の業だ。

 まあ、よほどのことがない限り冒険者資格を取り消されて放逐されるだけで、指名手配なんて金と労力のかかることはギルド側もしないのだが。


「で、ギルドが保証する権利だが、まず依頼の斡旋だね。手数料は取ってるが依頼の信頼度はこっちで担保してる。ギルドを通さない依頼を受けるのは止めやしないが、それで騙されたりおっ死んだりしても自業自得さ」


 具体的には依頼側に不備があった場合違約金が依頼主から回収され、その一部が冒険者へ補填されるそうだ。これは俺の時代にもあったが、その違約金の内訳を聞いて驚いた。昔は悪質さと被害を大まかに勘案しての額だったのだが、最近では依頼で消費したアイテムや破損した武具の修理交換費用まで計上できるらしい。見せしめの厳罰化ということだろうか。


「それからギルド商店で少し割安に装備や薬が買える。オーダーメイドしにいくレベルまではここで揃えた方が安くて品質もいいから、ま、上手く使いな」


 数打ちの装備だがギルドお抱え鍛冶屋謹製の品は品質を保証されているし、大量仕入れのおかげか普通に買うより安いのだ。問題は抜きんでた装備やピーキーな装備がないことだろう。刀が欲しい俺としては結構な問題だ。


「あと説明がいるのは……ああ、銀行だね」


 今日のもう1つの目的だ。


「銀行ってのはザックリいえばギルドに金を貸すようなもんさ。どこのギルドでも貸しただけの金が返してもらえる。利子はつかないがね」


 これもまたギルドの圧倒的な組織力があればこそだ。預けた金が絶対に返ってくるという確証がなければ成り立たず、どこの支部でも概ね引き出しに応じられるだけの資金を蓄えている。もちろん強盗を企む馬鹿などいない。世界で一番安全な金の保管場所と言えるだろう。


「銀行業務は冒険者登録とは別モンだから一般人でも使ってるが、冒険者なら一括に登録する方がいい。依頼の報酬やギルド商店の支払いもそっちに紐付けできるからね」


 なに、ギルド商店の支払いまで口座から落とせるのか?そんな便利な機能俺の頃にはなかったぞ。良い時代になったものだ……。

 俺が小さな衝撃を受けている間にもギルドマスターの説明はどんどん続く。


「これだけ色々とできることがあるわけだが、もちろん義務もあるのさ」


「義務ですか?」


「ふん、流石にそれは知らなかったようだね。ま、どっちみちお前たちに関係のある話じゃないさ」


 そう前置きしたギルドマスターは指を3本立てた。


「1つ、緊急依頼を拒めないこと。緊急依頼といって魔物の大量発生や大規模な盗賊団の接近、その他ギルドが緊急事態だと判断したときに出される依頼があるのさね。これはランクやパーティーを指定して発行するんだが、指名されたら断ることはできない。もし逃げればよくて剥奪、悪けりゃ指名手配だね」


 魔物の大量発生は普段通り冒険者が仕事をしていれば中々起こらないし、盗賊の接近で緊急依頼が出るのはもっと小さい支部でのこと。今のところ俺たちには縁もゆかりもない話だ。それにFランクのひよっこを指定する緊急依頼なんてものはない。


「1つ、3年間で最低1つは依頼を受けること。依頼を受けないまま3年たつと活動を止めたと判断して登録が消されるから気を付けな」


 これが俺たちと関係ないのは冒険者じゃなくてなっても食うには困らないだろうからだ。最悪Fランクからコツコツやり直しても儲けがなくて命にかかわるということはない。


「そして最後、もし死んだ冒険者の情報や持ち物を見つけた場合は届け出ること。冒険者ってのは死と隣り合わせの仕事だからね、依頼に出たきり消息不明なんてことも珍しくない。もし冒険者の死体をみつけたら証明できるものと、できればその位置情報を持ちかえってほしい。死体じゃなくても持ち物や目撃情報でも構わないよ。多少の報酬は出すからちゃんと守っておくれ」


 なお依頼の最中に行方不明になって3年以上経過しても一応は仕事中扱いになるので、運よく生還しても登録が消えているということにはならない。


「そのくらいかね。質問はあるかい?」


「ん、ない」


「今はないです」


「あとから聞きたいことができれば窓口で聞きな」


 コンコン


 ギルドマスターが説明を締めくくるって数秒すると、扉が軽くノックされた。


「入りな」


「失礼します」


 ギルマスの許可を得て部屋に入ってきたのは先程と同じ初老の事務官と、彼に連れられた2人の事務官。

 さて登録の時がきた。


唐突ですが最近カズオ=イシグロにはまっています。まだ2冊目ですが。

あんな見事な時間の描写をいつかできるようになりたいもんです。

「日の名残り」は個人的な事情と相まって、切なくて泣けてきました。

あれはいいものです、本当に。


~予告~

今始まる、アクセラとエレナの冒険!

憧れはもう誰にも止められない!!

次回、侍女・イン・アビス


マザー 「駆け出しをダンジョンの深層なんかに入れるつもりはないからね!」

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