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デルタ・スクランブル  作者: かんな らね
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第三章 血の気が多い奴ら(その2)


『……第二二地域を出発した巨大旅行シャトル、ジャルダンはワームホールに巻き込まれた可能性が高い模様です。しかし、第一陣の調査団の行方も不明となってしまったため、調査は中断しています。無人探査機での調査の上、第二陣の調査団の派遣が検討されています。さて、次のニュースです。現在大ブレイク中のイグアナ会のアイドル、イグ美ちゃんがドラマ化されることになりました! 本日はイグ美ちゃん役に決まった、新人女優のクリステル・クリスタンヴァルさんのインタビューを……』

「ヴァン、浮遊ボート運転中に、テレビ見るのは危ないですわよ」

「ああ、悪い悪い」

 ユミディナに注意されて、携帯型三次元テレビの電源を落とし、ポケットへしまう。リサイクル品回収施設への道のりも慣れてくると結構退屈なのだ。


「お~い、ヴァンにユミディナじゃないか」

「ああ、セドリック。どうしたんだ?」

 クラスメイトのセドリックが、オレとユミディナの姿を見つけて駆け寄ってきた。

「それはこっちの台詞だよ。お前ら大丈夫だったのかよ?」

「……まぁ、何とか無事に帰ってきたよ」

「今、コロニー中大騒ぎだぞ」

「え? オレたちの決闘でか?」

 まぁ、中断してしまったけどなかなか良い闘いをしてたと思うんだよな。自分でいうのも何だけどさ。

「バカ、そうじゃ無くって、デプリがコロニーにもダメージを与えたんだ。ちょっとしたダメージみたいだから、警戒態勢にはなってないけど、この安全宙域でこんなこと初めてだろ?」

「あれ? でもテレビは普通だったけど」

 オレはポケットにしまった携帯型三次元テレビを再び出してスイッチを入れる。女優のインタビューが流れている。

「各チャンネル交代で特番になってるぞ」

「ああ、そうか」

 確か、どこのチャンネルでも同じ映像を流しても意味がないからと、規制がかけられているのだった。

 暫く映像を眺めるが、そんなに大事ではないらしく、新しい情報は無さそうだった。

「ああ、そうだ。オレたちリサイクル品出しに行く途中だったわ」

「そっか、引き留めて悪かったな」

 セドリックとわかれて、再びリサイクルを出しに進んでいく。


「ねぇ、ヴァン」

「なんだ?」

 文句以外でユミディナがオレに話しかけてくるなんて珍しい。こいつもリラちゃんの前じゃちょっといかれたテンションだが、教室とか他のところでは意外と大人しいんだよな。だからかも知れないが、やたらともてている。確かに黙っていれば美人の典型だろうな。

「ヴァンは、どうしてフラム先輩にライバル心を燃やしているんですの?」

「はっ? なんのことだよ?」

「とぼけなくても結構ですわよ。チームの全員が気づいていますわ。あっ、全員って言ってもフラム先輩以外ですけどね」

「そうなのか?」

 オレって、そんなに露骨にライバル心燃やしてたかな?

「ええ、たまにお姉様が困っていますもの」

「ってか、ユミディナはフラムのことは気にならないのか?」

「あたくしが愛しているのはお姉様ですわよ。貴方も同じかと思っていましたけど」

 さらっととんでもないことを言われたが、それに関してはスルーさせて頂こう。

「そうじゃ無くって、リラちゃんとフラムはすっげー仲良いじゃん」

「あの二人は仕方ないじゃありませんか」

 ユミディナが寂しそうに微笑む。まるで全てを受け止めたような表情だ。

「仕方ないって……」

「あの二人の絆には勝てませんわよ」

 ユミディナがそんなこと言い出すなんて、オレは浮遊型ボートハンドルを握りしめる。

「何言ってるんだよ! お前はそれで諦めちゃうのか!」

「だって仕方ないじゃありませんか! あの二人は……」

「わかってる。オレだって、あの二人の幼なじみだ」

 そうだ。あの二人が群を抜いてわかり合っていることは認めざるを得ない。もしかしたら既に恋人同士なのかも知れない。そういえば、リラちゃんがみんなを風呂場から追い出した時もフラムだけはすぐに動かなかったし。考えたくないけど、もうそういうことに照れない関係とかそういう可能性も否定できない。

「わかっていても貴方は……」

「逆に聞くが、フラムに敵わないからって、お前はリラちゃんを諦めるのか?」

「……そうですわね」

 ユミディナの瞳にいつもの自信が戻る。

「あたくし、貴方のこと少し見直しましたわ」

 そう言って初めてオレに向かって微笑んだ。成程、男子生徒が騒ぐほど魅力的な微笑みではあるな。

「なんですの? 人のことそんなに見るものじゃありませんわよ」

「いや、やっぱりお前綺麗だなと思ってさ」

「なっ! 何、世迷い言を仰っているのですか! 早く行きますわよ!」

 その後、何故かユミディナは真っ赤になって目を合わせてくれなかった。

 何か起こらせるようなこと言ったかな?

 女子は難しいな。



 リサイクル搬出が終わり、格納庫に戻るとメンテナンスが始まっていた。まだオレ一人で満足なメンテナンスが出来ないから、三号機に詳しいリラちゃんが手伝ってくれている。

「いつもお世話になっている機体だから、大事にしてあげないとね」

 リラちゃんが丁寧にコックピットの中をチェックする。

 体にフィットしたパイロットスーツのままで狭いコックピットの中に二人で居ると、本当に目のやり場に困る。

 何か、遠慮無くこっちにお尻を向けてしゃがんだりとかするし……。

 あ~もう……。

 嬉しいんだけど、少しは俺の事も男として認識して欲しい。ってか、さっきからちょいちょい体がぶつかるし、やばいって、マジで。


「あのさ、やっぱりこの機体って凄いの?」

 何か他の話をしないと、オレの精神が持たない。

 丁度良いので、前から疑問に思っていた事を尋ねてみる。

「そうね、やっぱりフェノメノンドライブを積んでるから、使いづらさはあるけど、他の機体より性能は良いわよ」

「何か、普段はあんまりそういう実感が湧かないんだよね。組み手とか、模擬戦闘してもいっつもフラムやシャンス先輩にこてんぱんだし」

「まぁ、あの二人は凄腕だから。でも、ヴァンだってもう立派なパイロットよ。きっと私と戦ったら物足りないんじゃないかしら」

「……そうかな?」

「そうよ。それにね、このアズライトも普段は癖の強い機体って印象だと思うけど、本当に凄いのよ」

「そう言われてもなぁ……」

「実はね、フェノメノンドライブには隠しモードがあるのよ」

「隠しモード?」

「ここの出力装置を全部一気に最大値にするとね、エネルギーの過剰供給を行って、無理矢理性能を引き上げる事が出来るの。でも、隠しモードは三二秒しか耐えられないけどね」

「たったそれだけの時間なの?」

「ええ。それ以上続けるとオーバーヒートを起こしてしまうのよ」

「ふぅん。でも、そんな危険なシステム作って大丈夫なの?」

 素直な疑問を口にすると、リラちゃんの動きがぴたっと止まる。

 あれ?

 まずい事言っちゃったかな。オレの疑問にリラちゃんは振り返り、魅力的な笑顔を見せる。形の良いお尻が見えなくなって残念だが、代わりに可愛らしい顔がこちらを向いたのだから、良しとしよう。

 そして、名言は避け、話を続ける。

「まぁ実際には、アズライトの隠しモードは今まで使ったこと無いけどね。ちょっとした戦闘が有っても、フラム達が全部やってくれていて、情けないけど、私なんてアズライトに座っていただけなのよ」

 ちょっとしたなんて言っているけど、戦闘に立ち会って、しかもHUBに乗るなんて相当な覚悟が必要だ。きっと謙遜してるんだろうな。

 と言うか、リラちゃんが動く度に体がぶつかるんだよね。


「あのさぁ」

 意を決して、リラちゃんの瞳を見つめる。

「なっ、何?」

 リラちゃんが驚いたようにオレを見つめる。

「そんなに積極的にすり寄られちゃうと、反応に困るって言うか……。特にその何て言うか……」

 と言って、オレはリラちゃんの申し分ない大きさの胸に視線を移す。

 狭いコックピットでしゃがむリラちゃんも大きな胸が、丁度オレの足と足の間に有るわけで……。

 あっちがピッタリしたパイロットスーツを着るのは構わないけど、こっちも同じようなパイロットスーツを着ている訳で、オレも別に修行中の何かな訳じゃ無いから、いきなり悟りは開けないわけで……。

 寧ろ開きたいんだけど、刺激が強すぎるわけで、かといってこの幸福を甘受する度胸もないし、色々まずいし……。

「あっ!」

 やっとリラちゃんは体勢のヤバさに気づいてくれたみたい。真っ赤になって立ち上がろうとする。

「痛っ」

 でも、いくらリラちゃんでもこの狭いコックピットで立ち上がるのは難しい。体をぶつけてしまったらしく、オレの方へ倒れ込んでくる。

「うわっ!」

 リラちゃんの柔らかい上半身をオレの顔面で何とか支える。どうやら怪我は無かったみたいだけど、オレにはそれを確認することは出来ない。

「ふぃふぁひゃん(リラちゃん)! ひゅりゅひぃ(苦しい)」

 何故なら、リラちゃんの上半身によってオレの視界は完全に塞がれているからだ。ついでに鼻と口も。やばい窒息する。

「ちょっと、やだ、ヴァンったらくすぐったいわよ」

 リラちゃんが身を捩る。セットした髪がぐしゃぐしゃになってしまうが、今はそんな事を気にしている場合では無い。

 パイロットスーツ越しでも充分に柔らかい胸がオレの顔面に擦れる。いや、素晴らしい感触なんだけどね。これで息さえ出来れば。

 最高の心地なんだけど、このままじゃ死んでしまう。そこまでいかなくても気を失ってしまう。こんな理由で死んだり、失神したら、他の奴らに何て言われるか分かったもんじゃない。

 大変勿体ないが、名誉のためにリラちゃんを引きはがすことにする。取り敢えず、狭い上にリラちゃんにしがみつかれている中、何とか腕を伸ばす。


――むにっ


 むっ?

 掴んだところも妙に柔らかい。本当に、女の子の体ってどこを触ってもふにふにだな。

「あん、ちょっと、ヴァン! そこはダメぇ」

「へっ?」

 リラちゃんが妙に色っぽい声を出す。

「……そこお尻だってばぁ」

 いやいやいや、お尻を掴んだオレも悪いよ?

 でもね、今現在ね、リラちゃんのでっかい胸はオレの顔面を塞いでいる訳よ。そっちは良いの?

 オレは、本当は全然構わないよ。ラッキーだよ。

 ただ、そろそろ意識が……

「貴様ら、何をしているのだ?」

 不意にコックピットが開き、カノン先輩とコーズが現れる。

「「え?」」

 パニックを起こしているリラちゃんと、窒息気味のオレが同時に声を上げる。

「他のメンテナンスはもう終わっているぞ。後は貴様らだけだ」

「うわっ、ヴァン、何美味しい目に遭ってるんだよって、カノン先輩足場が悪いんだから蹴らないでくださいッス」

「下らない事を言っているからだ。ヴァンが窒息する前に、リラの体勢を直してやれ。足に機材が絡まっているではないか」

「了解ッス」

 少し残念だったけど、カノン先輩達のお陰でオレは何とか一命を取り留めることが出来た。


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