第三章 血の気が多い奴ら(その1)
第三章 血の気が多い奴ら
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『後方の閃光は、機雷が爆発しているのですわ。原因不明の誘爆の可能性がありますわ』
すぐさまユミディナの通信が入る。
「緊急事態だな。だったら、モニターの表示を優先させたい。悪いんだけど最低限の情報以外は下げてくれないか」
『だけど、数値の確認無しにアズライトを動かすのは無謀ですわ』
「数値がやばくなったら口頭で教えてくれればいいから」
『ですが……』
『ユミディナ、ヴァンの言う通りにしてあげて。これは決闘どころでは無いわ。それから周辺索敵』
『お姉様、多数の何かが高速で接近中!』
『スクリーン表示!』
リラちゃんの指示だろう。オレのモニターにも小さく「何か」が表示される。
『これはまずいな』
カノン先輩が最初に呟いた。
『カノン、これはなんだと思う?』
リラちゃんの声も聞こえる。
『動きが少し速すぎて確信が持てないな。今の映像をスローで再生して……やはりそうか。間違いなさそうだ』
『だから何なのよ?』
『これはスペースデプリであるな』
『なんですって!?』
カノン先輩の言葉に、リラちゃんが息を飲む音がする。
『ヴァン、とにかく避けて。コーズ、母艦は大きすぎて避けられないわ。シールド全開! フラム、シャンスも聞こえていたら安全な場所に避難して。とにかく避けて。アルテミスも、戦闘は中止よ! 安全を確保しないさい!』
『お姉様! 来ます!』
ユミディナの声と同時に大量のデプリがオレたちに降り注ぐ。まるでゲリラ豪雨だ。模擬戦闘用の装備で下手に攻撃しても効果がないだろう。シールドの精度も制限されているし。基本的に避けるしかない。
アズライトは他の機体に比べて武装が極端に少ないので、回避行動には向いているといえる。だけど、ジョセフィーヌ先輩のオリオンは射撃用の大きなライフルに、巨大な長刀。中遠距離用の機体で、回避力は決して高くない。お互いに母艦とは離れて戦っていたので、ジョセフィーヌ先輩も素早く回避運動を繰り返すが、大きな破片がスラスターをかすめてしまったようだ。僅かに煙が上がり、動きが鈍る。
「ジョセフィーヌ先輩!」
『来るでない! そなたまで道連れにするほど妾は落ちぶれてはおらぬぞ! そなただって避けるしかないであろう』
オレはスラスターを全開にし、ジョセフィーヌ先輩に駆け寄る。
『そなたも死ぬぞ!』
「そんなこと知るかよ!」
ライフルでデプリを撃ち抜こうとするが、やはり出力が少なすぎる。結局、ジョセフィーヌ先輩の機体を強引に掴み、一緒に回避する。しかし、やはり無理があるのだろうか、少し擦ってしまう。
『いいから退け!』
ジョセフィーヌ先輩の声に紛れて、母艦から通信が入る。モニターにはカノン先輩が映っている。
『アズライトのライフルはエンジン直結でエネルギーの併給ができる。我輩の方で強引に模擬戦用のリミッターを解除した。あとは、このコードを繋ぐが良い。これで、まともな出力が出せるぞ!』
オレのモニターにコードの位置が表示される。
「サンキュー、カノン先輩!」
『そなたたち、無茶苦茶すぎる』
ジョセフィーヌ先輩が悲鳴に近い声を上げる。しかし、カノン先輩に代わって映し出されたリラちゃんは落ち着いた表情だ。
『ヴァン、ジョセフィーヌ先輩を守りなさい。小さなデプリなら、シールドが暫く保つわ。大きなものだけ破壊しなさい。貴方ならできる』
そんな風に言われたら、頑張るしかないでしょ。すかさずライフルへのエネルギー供給をエンジンに直結させる。後はシステムを騙すためにコードを数本差し替える。このくらいなら一応オレでもできる。これもHUBの整備を手伝わされていた成果だろう。いや、カノン先輩とコーズの影響だろうな。
『ヴァン、一二時の方向から大型デプリ来ますわ!』
ユミディナの通信に従いデプリを狙う。無理矢理エンジンに直結させているせいだろう、打った瞬間に機体ががくっと揺れる。出力も安定していないし、これはいつもよりかなり当てづらい。今度は機体の揺れも考えて狙いをつける。的が大きいから何とか当たりそうだ。
それにしても、このデプリの量はなんなんだ。連射しすぎたせいで銃身がオーバーヒートを起こしている。わかっているのに、これでもかって程、警報が鳴り響く。
『また、大量に来ますわ!』
「おう! って、あれ?」
限界まで酷使したせいで、ライフルが制御できなくなってしまった。いくら操作しても何も発射しない。しかも、デプリも目視できる距離まで来ている。
――もうダメだ!
ジョセフィーヌ先輩だけでも守ろうと、HUBで覆い被さる。
何やらもの凄く眩しい。死ぬ時って、こうやってどんどんホワイトアウトしていくものなのかな。なんて悟りかけるが、眩しいだけで何も起こらない。恐る恐る首だけを後ろに向けると、
「フラム! シャンス先輩!」
二人が装備を実戦用に直して駆けつけてくれた。しかも、その後ろからは母艦クリアスピネルも来ている。反対側にはアルテミスの母艦も見える。
『アルテミスのカリストー、アクタイオーンが邪魔な機雷を破壊してくれたんですよ』
シャンス先輩から通信が入る。デプリがぶつかってかなりの機雷は破壊されたが、それでも残っている物も多く、サイズの大きい母艦はここまで来られずにいたのだろう。
『今なら、デプリの量も少し減ってる。早く母艦に戻るぞ!』
「了解!」
フラムのかけ声に弾かれるように、オレはジョセフィーヌ先輩の機体をアルテミスの母艦へと運ぶ。
『そなたもアルテミスの母艦に入れば良いであろう』
「いや、フラムが母艦に戻るぞって言っているので、それにここにHUB四機は入れませんよ」
『……それもそうであるな。では、地上でまた会おうぞ』
「そうですね」
そして、そのままスラスターを翻して、自分もクリアスピネルへ戻る。
「これより本艦はコロニーへ帰還する」
クリアスピネルに戻った途端、リラちゃんの声が放送される。本当はすぐにHUBを飛び出して、船首に行きたかったけど、腰が抜けてしまってなかなか出られなかった。
*
「うわっ、こいつもかなりボコボコだな」
クリアスピネルの外観を眺めて思わず呟いてしまう。格納庫に帰還したところで、やっと動けるようになった。クリアスピネルには丈夫なシールドが装備されていたが、それでも何カ所も攻撃を受けてしまったようだ。
「まぁ、装甲以外はダメージを受けていないからな、修理自体はそう難しくはないであろう」
カノン先輩が早速各機体のチェックを始める。
「コーズのぶつけ方が上手いな」
フラムも装甲の様子を確認しながら頷く。
「ぶつけ方? 当たらない方が良いんじゃないのか?」
首を傾げると、フラムが少し困った表情を向けてくる。なんだよ、そんなにおかしいこと言ったか?
「そりゃあ、当たらない方が良いが、母艦は大きいからな。攻撃を受けるしかない場合がHUBより多いんだ。だが、致命傷は受けてはいけない。ここが難しいところだな。コーズ、良くやってくれた」
「いや、浮遊型二輪車でこけた時と同じッス。エンジンから遠いところで被弾するようにしただけッスよ」
コーズはなんでも無い感じで答えたが、狙ったところで攻撃を受けるのはかなり難しいテクニックらしい。しかもあんなに大きな母艦で。やっぱりカノン先輩を追いかけて無理矢理ここまで来る根性があるんし、ただの強面ではないんだな。
「ヴァンも、頑張ったな」
感心していると、フラムに頭を撫でられる。なんだよ、オレばっかり子供扱いして。結局最後にはフラムたちに助けられたし、まだまだ頼りないとかも知れないけどさ。オレはいつになったらお前とちゃんと肩を並べられるんだよ。
「そうね、本当によく頑張ったわ」
リラちゃんまで一緒に頭を撫で始めるし、何だよ二人揃って子供扱いしちゃってさ。でも、褒められるのは嬉しかったりもするから自分でも性質が悪いと思う。
「おや、随分元気そうであるな」
オレたちが騒いでいると、後方から声が聞こえた。振り返ると格納庫の入り口にジョセフィーヌ先輩たちが立っていた。
「ジョセフィーヌ先輩たちも無事でしたか」
返事の代わりとばかりに、ジョセフィーヌ先輩たちは格納庫へずかずかと入ってくる。そして、相変わらずな真っ赤なネイルでオレの顎を掴む。ジョセフィーヌ先輩は女性の割に身長が高いから、目線の高さがほぼ同じで迫力がある。
「リラ殿も欲しいが、そなたもなかなか面白いな。名前を聞こう」
「ジョセフィーヌ様! そんな下々の名前をお尋ねになるなんて」
「お止め下さいませ」
ジョセフィーヌ先輩がわざわざ後輩に名前を尋ねるのは珍しいようだ。後方に控えるアルテミスのメンバーが驚きの声を発する。
「ええい! 黙れ! 妾はこの者の名が知りたいのじゃ」
ジョセフィーヌ先輩の剣幕に、アルテミスのメンバーたちも口を噤んでしまった。
「さぁ、そなたは何と申すのだ?」
オレの直ぐ側にいるリラちゃんが、オレの袖を掴む。でも、名前を訊かれているだけだ。名乗らないわけにもいかないだろう。オレはリラちゃんに安心して貰いたくて、一度微笑む。そして、表情を変えジョセフィーヌ先輩の方をむき直す。
「ヴァン……ヴァン・オールです」
「ヴァンか……。覚えておこう。そなたも妾の元で戦うことを考えておくように」
「えっ? あっ……」
それだけ言うと、颯爽と格納庫から去って行ってしまった。まともに応対できなかったな。
「リラだけじゃなくて、ヴァンまで目をつけられてしまいましたね」
シャンス先輩が面白そうに口笛を吹く。すると、リラちゃんがシャンス先輩を睨み付ける。
「何、面白そうにしているのよ! ジョセフィーヌ先輩、本当に狙っているわよ。ヴァンもヴァンよ! 何、名乗ってるのよ、全く」
「いや、だって名前訊かれただけだし」
「全く。まさかヴァン、アルテミスに行ったりしないわよね?」
「そんな……」
「おーい、皆の衆、メンテナンスをするぞ~! 修理は早くしないとな」
言いかけたところで、カノン先輩の声にかき消されてしまった。本当は何か言った方が良かったと思うんだけど、直ぐにメンテナンスが始まってしまい、機会を逃してしまう。
「大がかりなメンテナンスをするには物が多すぎるな」
カノン先輩が格納庫を見回す。確かにリサイクル品が山積みで、大規模に部品をばらすのは難しそうだ。
「ヴァン、ユミ、カノンの指示に従って、リサイクルに出せそうな物をまとめて出してきて」
リラちゃんに言われ、オレとユミディナはリサイクル品を出しに行くことにした。




