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デルタ・スクランブル  作者: かんな らね
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第二章 Cランクのプライド(その5)


 地上へ戻ると、急いで制服に着替える。

 そして休む暇もなく、リサイクル品出しが待っていた。格納庫にはリサイクル品を置くような余裕は無いからだ。でもこれで全部だったかな? もっとあった気がするんだけど。

「リラちゃん、ゴミってこれで全部だっけ?」

「ゴミじゃなくてリサイクル品ね」

「ごめんごめん。で、リサイクル品って、もっと無かったっけ?」

「もう、全然悪いと思ってないでしょ。ウチのチームで使う分は抜いてあるのよ」

「は? ここでもゴミを使うの?」

「リサイクル品」

「あっ、ごめん。ってか、リサイクル品を使うの? 部品とか支給されないの?」

「支給は本当に最低限よ。それ以外はポイント購入だけど、そんな贅沢できないわよ。自分たちで作れるものは作らないとね。あのミーティングルームのモニターだって、校内で拾ったものを修理したのよ」

「マジかよ!?」

 まさかスペアカにまで来てこんな貧乏生活をするなんて想像していなかった。

「マジよ。ほら、ポイント稼ぐために早く運んじゃいましょう」

「ええ、これで本当に運べるの? 車出せばいいじゃん」

 リサイクル品を入れた籠をオレとリラちゃんの浮遊型ボートに取り付ける。籠自体にも浮遊型ボートを敷いて、校内の回収施設へと運ぶらしい。

「車借りるのもポイントがいるのよ。今回は量もそんなに多くないし、浮遊型ボートで運べば充分よ」

「でも、ポイント貰えるんだろ?」

「ヴァン」リラちゃんがオレを諭すように見つめる。「どうしてポイントが貯まるか、わかる?」

「沢山稼ぐからじゃないの?」

「半分正解」

「半分なの?」

「そうよ、残りの半分は、無駄遣いしないからよ」

「ヴァン、チームの財布はリラが握ってるんだ、諦めろ」

 上半身だけスーツを脱いで腰で縛って、豪快にスポーツドリンクを煽るフラムが目線だけオレに向ける。シャンス先輩やカノン先輩も「うんうん」と頷いている。二年生三人でもどうにも出来ない事を、オレがどうにかするって言うのも無謀な話だ。ここは、チームの財布を握るリラちゃん様々に逆らわず、リサイクル品を出しに行くことにしよう。



 スペアカは第三宇宙軍士官学校という一つの学校である。

 しかし、広大な敷地と巨大な施設を備えていて、まるで一つの街のようなのだ。現にこのスペアカコロニーもコロニー全体の六割はスペアカの敷地だし、一般地域に住んでいる市民達も、殆どがスペアカに関わる何らかの仕事に携わっている。

 と、言うわけで……。

「リラちゃん、結構遠いね」

 先程から十分以上浮遊型ボートに乗っているが、一向に目的地は見えてこない。後ろで大きな籠の中にひしめくリサイクル品達がぶつかり合う音がする。

「もぅ、今日は浮遊型ボートで移動してるんだから、そんなに疲れないでしょ?」

「だって、さっきまで宇宙にいたんだよ~。もう少しゆっくり休憩したかったよ」

「一度ゆっくり休んで、その後また動く方が辛いわよ。ほら、今日は私が夕食当番だから、何でも好きなもの作ってあげるから、元気出して」

「ほんと!? じゃあ、オレね……おっと」

 突然、目の前に沢山の浮遊型ボートが割り込んできたので、咄嗟に急ブレーキをかける。

「おい、危ないじゃ……」

「あら、リラ殿ご機嫌麗しゅう」

 オレの言葉を遮って、浮遊型ボートに乗った軍団の中心に居た女子生徒がリラちゃんに話しかける。ネクタイの色が赤色だから、三年生のようだ。豊かな金髪は大きく縦ロールを描き、少しだけ色の薄い水色の瞳が値踏みするようにオレとリラちゃんを見つめている。

「ジョセフィーヌ先輩。こんにちは」

 リラちゃんの表情がいつもの柔らかいものと異なり、緊張の色を出している。

「おやまぁ、また随分と汚らしいものを運んでおるのじゃな」


「ジョセフィーヌ様ったら、そんな本当のこと言ったら悪いですわよ」

「何か変な匂いとかしそうですし、嫌ねぇ」

「ねぇ」

 くすくすと、他の奴らも笑い合う。八人全員が女子生徒だ。

「何なんだ、こいつらは?」

「校内ランク第三位のチーム・アルテミスの人たちよ」

 オレの疑問にリラちゃんが短く答える。そして、そのまま浮遊型ボートに乗り直す。

「それじゃあ、私たち急いでいるので……」

 表情を消して、リラちゃんがその場を通り過ぎようとする。しかし、ジョセフィーヌ先輩達はどこうとはしない。

「これだから創設二年目の弱小チームは、見ていて不愉快じゃ」

「おい、あんたたち何なんだよ……」

「ヴァン」

 歩み出そうとするオレを、リラちゃんが制止する。

「リラちゃん……」

「ジョセフィーヌ先輩が私の事がお気に召さないのは理解しております。昨年、先輩のスカウトをお断りしたからですよね。だから私の事は別に何と言われても構いません。ですが」いつもの可愛らしい表情とは全く違う、厳しい顔をジョセフィーヌ先輩に向ける。「私のチームの事を悪く言うなら、容赦しません」

「おやまぁ怖い。流石入学以来常に学年首席の麗しき悪夢リラ・プラティー殿」

 え? リラちゃんって首席なの?

 確かにいつも宿題とかぱっぱと片付けている印象だったけど。何か、リラちゃんは同じ三号機が動かせるもの同士で、何でもほどほどにこなしている印象だったから、勝手に器用貧乏仲間だと思っていたんだけど。……全然違うじゃないか。第三宇宙域屈指の難関校である、このスペアカの第二学年四八〇人のトップに君臨している凄い女の子なんじゃんか。しかも、校内ランク第三位のチームから直々にスカウトされていたなんて。

「リラちゃん……」

「ヴァン、下がっていて」

「ふむ、その小坊主が噂の最速の矛と競争したとかいう者だな」

「それをどうして……」

「そなたの下らない噂はしているのを度々耳にしておる。ほぅ、そなたなかなかの男前ではないか。リラ殿が夢中で世話を焼きたくなるのも頷けるな」

「ちょっと、ジョセフィーヌ先輩!」

 リラちゃんが止めようとするが、それより早くジョセフィーヌ先輩がオレの顎を掴む。鋭く整えられた真っ赤な爪が肌に食い込む。

「どうじゃ? こんな小汚くて貧乏くさいチームなどではなく、代々Sランク入りを果たす由緒正しき妾達のアルテミスに来る気はないかえ? 妾の小姓として歓迎してやるぞ」

「ちょっと、急に何を……」

「いい加減にしてください! ヴァンを利用しないで!」

 リラちゃんがオレの頬に食い込むジョセフィーヌ先輩の手をはじき飛ばす。

「ほら、ヴァン行くわよ!」

 そのまま素早く浮遊型ボートに乗り込み、荷物を抱えているとは思えないほどの猛スピードで走り出す。

「完璧超人と言われるリラ殿にも弱点が出来たのじゃな。くすくすくす」

 不気味に微笑むジョセフィーヌ先輩の言葉が妙に耳に入ってしまった。その言葉にオレは浮遊型ボートを急停車させる。

「ヴァン」

 リラちゃんが止めようとするが、オレはそのまま踵を返しジョセフィーヌ先輩の元へ向かう。

「おや小坊主よ、どうしたのだ? まぁ、そなたに限らずあのチームそのものがアキレス腱とも言えるがな。リラ殿もあんなチームに執着するなんて、見る目が無いな」

「おい! いい加減に……」

 あまりの言いようにジョセフィーヌ先輩に詰め寄ろうとするが、リラちゃんがオレの袖を掴む。

「ヴァン、我慢して。私のせいで嫌な思いをさせちゃってゴメンね」

 俯いて桃色の前髪に隠れる翡翠色の瞳には、うっすらと涙が溜まっている。

「リラちゃん……。何言ってるんだよ?」


 一年生だけで創設したチームを一年間守り続けたんだ。

 それもたったの四人で。

 そんなウィングスの二年生達を怖がりつつも尊敬する者は多い。

 だけど、そうやって普通とは違う生き方をすると言うのは敵も作ってしまう。

 本人達にその気はなくても、勝手に恨まれたり、僻まれたりするものだ。

 きっと今より酷い事も沢山言われてきたに違いない。

 それでも、頑張ってきたんだ。


 そして、そんな時に隣で支えたのは……

 ……オレじゃないんだ。


「なぁ、リラちゃん」

「ヴァン?」

 オレは悔しさを押し殺し、努めていつも通りの声を出す。

「もう我慢しなくて良いから」

 リラちゃんの腕をそっと放し、ジョセフィーヌ先輩に近付く。

「おやまぁ、小坊主が何の用じゃ?」

「撤回して下さい」

「何だ、アキレス腱呼ばわりしたことかえ?」

「違う! リラちゃんをバカにしたことだ!」

「ほぅ。そなたは妾がここで頭を下げれば満足なのか?」

 完全に小馬鹿にした表情を向けてくる。ただでは謝らないだろう。それに、この鼻っ柱を叩きおらずに引き下がれるか!

「決闘を申し込む!」

「ヴァン!」

 リラちゃんが声を上げるが、もう後には引けない。

「面白い小坊主だ。では、その申し出受けてやろうぞ。妾が勝ったらリラ殿を頂くぞ」

「何だと!?」

「当然であろう。万が一、妾が負けたら先ほどの言葉、謝罪しよう。それから、一〇〇〇ポイント、そなた等のチームへ付与しよう」

「一〇〇〇ポイントだと!?」

 学食の定番Aランチは五ポイント。つまり、一〇〇〇ポイントはAランチ二〇〇食分に当たる。凄まじいポイントなのだ。

「そうだ。リラ殿を賭けるのだ。それでも安いくらいかな?」

「一〇〇〇ポイントの使い道を今から考えておくわ」

「リラちゃん」

 不敵に微笑むリラちゃんに声をかける。

「今更、決闘を取り下げられないわ。ヴァンも自信満々にしてて」

 視線はジョセフィーヌ先輩に向けたまま、小声で言われる。

「うっ、うん」

 オレも小さく頷くと、表情をリラちゃんと同じものへ無理矢理変える。

「一〇〇ポイントにしておけば良かったなんて、後悔しないで下さいね」

 よし、何とか鼻で笑う仕草も入れられたぞ。しかし、これで本当に良かったのだろうか。よく考えたら、決闘って基本的にチーム対チームなんだよな。一年生のオレが勝手に申し込んで良いものではない気がする。ってか、ダメだよな。本当は。でもそんな葛藤はおくびにも出さず、自信満々の瞳を向ける。すると、そんなオレたちの小芝居の甲斐があってか、ジョセフィーヌ先輩は納得したように頷く。

「ほっほっほ。それは楽しみじゃな。それでは、決闘に関する正式文書は後ほど用意させて貰おう」

 高笑いをしながら子分共を引き連れて去っていった。



 ジョセフィーヌ先輩達が見えなくなってから、恐る恐るリラちゃんに目を向ける。リラちゃんはいつも通りの柔らかい表情に戻っていた。でも、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。


 嘘。やっぱり、いつも通りなんかじゃなかった。懸命に涙を堪えて微笑むリラちゃんに、どう接したらいいのか分からなくなる。上手く何かを言いたかった。的確にリラちゃんの心を癒したかった。でも、良い言葉が何も出てこない。

「リラちゃん、ごめん」

「良いのよ。結構すっきりしたわ」

 涙を拭って微笑む。震える肩を抱き締めたかったけど、勿論そんな度胸はない。それに、暴走して勝手に決闘を申し込んだオレにそんなことをする権利なんて無い。オレは極力明るい表情を作る。

「リラちゃん」

「なぁに?」

「今日の夕飯、唐揚げが良いな」

「え? 唐揚げ?」

 リラちゃんが大きな翡翠色の瞳をもっと大きく開く。まさか今、夕飯の話を蒸し返すなんて思わなかったんだろう。

「うん。オレ、大好物なんだ」

 だけど、オレはそのまま夕飯の話を続ける。

「そうなんだ」リラちゃんの表情が少しだけ穏やかになる。「じゃあ、このリサイクル品で稼いだポイントで沢山作っちゃおうかな」

「そうしようよ、オレも手伝うからさ。そうと決まれば早く行こうぜ」

 そう言って、オレは浮遊型ボートのスピードを上げる。

「ちょっと、ヴァンだけスピード上げたら、リサイクル品が落ちちゃうわよ」

「リラちゃんもスピード上げれば大丈夫だって」

 こんな方法じゃなくて、もっと格好良くリラちゃんの笑顔を取り戻したかったんだけど……。

 それでも、取り敢えず元気そうに笑ってくれたリラちゃんを見て嬉しくなってしまったオレは、一層スピードを上げてこの喜びを表す事にした。

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