73:説得は本人の口で
彼女がビルへ入っていく。そのまま後ろをついて同じエレベーターに乗り、彼女の後についていく。
「ちょっと勇者、捕まえないの? このままだとまた事件よ」
カルミナが対応しないのかと俺を急かす。
「現行犯で捕まることになるかもしれないけど、俺はフィリスを信じているからな。きっと間に合うはずだ」
「聖女に何を……って、まさか」
カルミナはなぜ俺が時間の引き延ばしをしていたか気づいたらしい。
「間に合うとは思ってるのね。ならもうすぐ連絡が入ると思うわ。聖女の力ならなんとかやってくれるんじゃないかしら。ただ、連絡が入るまでは確実なことは言えないわね」
「後はフィリス頼みか。あと五分でも十分でもいい、何か時間を稼ぐ手立てが欲しいところだ」
何か彼女の足を止めさせる手立てを考えるが、やれることは可能な限りやった。後は……フィリス頼みだな。
六階に着いてしまった。あとはフロアを回れば彼女が現場にたどり着いてしまう。彼女の力は抑え込んでいるとしても、直接触れられたら能力に操られるのは確実だろう。その前に何とかしなければならないが、同じ条件を背負ってるのは俺も同じ。彼女に触れたらその瞬間霧に呑まれてしまうだろう。何か、何かないのか。
その瞬間、スマホが鳴る。フィリスからだった。
「トモアキ様、お待たせいたしました。準備完了しましたよ」
「ギリギリのタイミングだが間に合ったみたいだ。替わってやってくれ」
「あら、お仲間から連絡? このタイミングでかかってくるなんてドラマみたいね」
「前島京子、あんたに電話だ。出るときっといいことがある」
スマホを渡す。素直にスマホを受け取ると、電話口に出る。
「もしもし……その声、健太さん! 目が覚めたのね! 」
フィリス、お疲れ様。彼女には前島京子の恋人である堀江健太の意識回復のための治癒に当たってもらっていた。全身の機能を回復させるには時間がかかるだろうが、意識を回復させて前島京子に連絡を取らせることが出来ればこれ以上にない説得材料になるんじゃないか、という目論見はここまではうまくいった。後は彼女が立ち止まってくれるかどうかだ。
「ごめんなさい健太さん、私、戻れない所まで来ちゃった。もう、あなたの隣にいる資格は……でも、だって……うん……うん……わかった。ひとまずそっちに向かうわね。あぁ、でも私、こんな汚れた格好で……でも、いいの? ……うん、うん……じゃあ、行くわね」
話が終わったようで、スマホをこちらに返してくる。
「健太さん、意識が戻ったって。それだけじゃなくて、痛いところもいくつか治っていってるって。それもあなたの周りの人の力なの? 」
「まあ、そうだな。詳しく話すと長くなるが、回復魔法みたいなものだと思ってくれていい。このまま治療が進めば早めに退院することもできるだろう。その点は安心してくれていい。元通り……に近い形までは持っていけると思う」
フィリスほどの光魔法の使い手なら回復魔法もお手の物。切り飛ばされた腕を元通りにしてもらったことは何度もある。どれほどの暴行を受けていたかは解らないが、内臓破裂ぐらいなら問題なく治療してしまえるだろう。時間は少しかかるだろうが、怪我をする前の状態に戻ることは難しい話ではないだろう。
「よかった……健太さんは無事なのね……」
「まあ、今回は、ってとこかな。あなたを説得するための材料ってところだ。人の命を天秤に乗せるのはノーマナー行為だとは思ってはいるが、今のあなたに一番必要な一言は引き出せただろうか」
「ええ、あなたの勝ちね。私は……」
「おい、人の事務所の前でグダグダ言い合いしてんじゃねーよ犯すぞ」
いいところだったのに横やりが入った。どうやら半グレの事務所の前で言い合いをしていたのを聞きつけて来たらしい。デイブレイクの構成員、で間違いないんだろうな。
「それは済まなかったな。すぐに立ち去るから気にしないでくれ」
「そこの女を置いてきゃな。ちょうど俺の下半身も空いてたんだ。一発相手してもらうことにしよう」
そういうと、前島の手をグッとつかみ事務所の中へ引き込もうとする。前島は全力で抵抗するかと思ったが、急に腰の力が抜けたようにへたりこんだ。
「ヒッ……」
前島の表情に恐怖が見て取れる。もしかしたら、自分が襲われた時のことを思い出して恐怖がよみがえったのかもしれない。ここはちょっといい見せ場を作らないといけない所だな。
「悪いが彼女は重要参考人でね。そのまま連れて帰らなきゃいけないんだ。彼女の手を離してもらおうか」
警察手帳を見せつつ、彼女に歩み寄り、手を離させようとする。
「警察が何だってんだよ。殺すぞ」
「怖い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ」
「あ゛? 」
キレた男が前島の手を離し、こちらへ素早く拳を振りかぶる。素人……じゃあないな。ギリギリのところをスッと避けて元に戻る。普通に見たら空振りしたように見えるだろう。
「コイツ……いい度胸だ! 」
「そいつはお互い様だ。国家権力に喧嘩を売るんじゃないよ」
そのまま男が前蹴りを放ってくる。前蹴りを腹筋で全力で受け、重さのかかった足をそのまま跳ね返す。予想外の重さで跳ね返されたらしい男が後ろに向かって転ぶ。
「クソッ、なんてかてえ腹筋してやがるんだ」
「ボディには少々自信があるんだ。さて、公務執行妨害だ。大人しくしてもらおうか」
殴りかかってきた男が中に声をかける。
「お前ら出てこい! 痛い目見せてやるぞ! 」
男が中に声をかけると、ぞろぞろと数人の半グレメンバーたちが現れてくる。
「カルミナ、ついでに一斉検挙だ。他所の部署に貸しを作るチャンスだから盛大に暴れていいぞ」
「やった! ボコボコにしてもいいのよね」
「限度はあるからな。ほどほどにしとけ」
「ガキが! 容赦しねえぞ」
頭に血が上っているのか、カルミナにも構わず襲い掛かる半グレ達。しかし、カルミナは腐っても魔王であり、前回ダーククロウの構成員を相手取ったことからわかる通り、半グレ程度にやられるような弱さは持ち合わせてはいない。ヒラヒラと攻撃をよけながら体重は軽いが腰と身体強化の入った重い打撃を与え続けている。
「ねえ、舐めた口きいてたガキにやられるってどんな気持ち? ねえねえどんな気持ち? 」
的確に攻撃を加えて無力化させつつ、カルミナが全力で半グレ達を煽っている。煽られた半グレ達はさらにヒートアップし、カルミナを捕まえて攻撃しようと追いかけ続けるが、カルミナはそれらをサッサッと避けながら的確に一人ずつ半グレを倒している。
「ほらほら、どうしたの? 一発殴るんじゃなかったの? 当たんないんだけど! マジウケる! 」
あれはしばらく放っておいていいな。普段力を使わない分のストレス解消としてサンドバッグになっていてもらおう。
こっちのほうへ寄ってきた半グレの意識を飛ばすような攻撃をしながら数をどんどん減らしていく。ものの数分で出てきた半グレ達は静かになり、手が空いたところで周りの仲間に連絡。即座に騒乱罪と公務執行妨害、暴行罪で次々と半グレ達は逮捕されていった。ふぅ、久々に暴れてすっきりしたぜ。
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