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帰還勇者の内事六課異能録  作者: 大正


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72/120

72:引き止め

 彼女がぽつぽつと話し始める。きちんと話を聞いて、彼女の暴れる原因、理由、そしてなぜ池袋に来たか。それらはある程度勘付いてはいるものの、彼女の口から言葉を聞きたい。そして、本当にそうすることが正しいことなのかを自己認識してもらう必要がある。


「気づいたら病院だったわ。隣には彼が寝ててね。ひどい有様だったわ。骨は折れてるし内臓も損傷していて、何より目覚めないんですって。頭部に酷い怪我を負ったみたいで、脳にまで支障が出てる可能性があるって。もしかしたらこのまま目覚めないかもって。私、そんなに悪いことでもしたのかしら」

「悪いことをしたからこうなった、なんてことはないよ。何もしてないのに犯罪に巻き込まれる人だっている。君が渋谷で巻き込んだ人たちの中にはそういう人もいたんじゃないかな」


 責めてるわけじゃない。ただ、彼女がやっていることは彼女にひどいことをした連中と同じ方向に足を踏み込んでいるのかもしれないよ、と認識させることも必要だ。


「……そうかもしれないわね。でも、毎晩目をつぶるたびに蘇るのよ。健太が殴られる音、服が破られる感触、助けを呼ぶ声が届かぬ絶望。あれからまともに夜も眠れないし、昼間眠ったとしても悪夢で目が覚めるの。私、もう戻れないのかしらね」

「そんなことはない、とは言い切ることは出来ない。でも、今君がこれ以上手を出したら本当に戻れなくなるぞ」


 言葉が切れた瞬間、車のクラクションが鳴る。池袋西口の喧騒が耳に響き、車止めの冷たい金属の肌触りがトモアキの尻に伝わる。京子のよれたスーツからは汗と埃の匂いが漂い、近くのパン屋の甘い香りが混じる。風がビニール袋を舞わせ、遠くで電車のブレーキ音が響く。トモアキは結界の青い光を抑えながら、周囲の雑音に紛れ込ませる。


「そういう意味では怪我をした人たちには責任を取らなきゃいけないってところかしら」

「そうなるだろうね。ただ、今ならまだ軽い罪で済む。これ以上の騒ぎを起こすなら警察として君を逮捕しなきゃいけない」

「そういえば、二回目の暴動でうまくいったのかしら。刑事さん、そのへんはもうわかってるの? 」


首をかしげてこちらに質問を投げかけてくる前島。


「……あぁ、多分だが、君の狙い通りになったよ。先日の暴動では死者が出た。はっきり死者の名前がそうだと言える保証はないが、死者一人意識不明四人、重傷者十三名が出た。死者の名前は……」


 そう言って、死者の名前を告げる。告げたとたん、彼女は笑い始めた。


「確かそんな名前で呼ばれてたわね……ふふふ……あはははははは、刑事さん、私ってどんな罪になるのかしら。殺人罪? それとも殺人教唆? 」

「そこが難しいところなんだよね。そういった異能力で起こした犯罪は立証が出来ないから裁判でも罪状を問えない。しいて言うなら騒乱罪と、霧を吸わせたことによる傷害罪、という辺りになるんじゃないかな。現状で君を逮捕することはかなり難しい。ただ、今から起こそうってなら暴行罪と騒乱罪の現行犯で捕まえることになる」


 素直に告げることでまだ引き返せることを教えておく。今更何をとは言えるだろうが、渋谷での騒ぎを纏めると二度の騒乱罪と傷害、これぐらいしか手持ちがない。そして、こちらにはカルミナがいる以上、異能力を無理矢理引きはがして一般人として刑を受けさせることができるか、というあたりも中々難しい線引きになる。もっとわかりやすい能力なら良かったんだが。……いや、そういう意味でもないか。


「そう、じゃあ今から私が何かする場合は止めるんだ」

「止める。半グレでも、どんなしょうがない奴が相手だろうと犯罪は犯罪だしね。それに、こういう仕事に自分が向いていると教えてくれた人がいるのでその人に対するお礼でもある。それに、目の前で飛び降りようとしてる人は出来るだけ助けるのが信条だ。それが間違った価値観だったり歪んだ正義感だったとしてもかまわない。だからこれ以上手を血で染めようとしているあなたはここで止めさせてもらうつもりだ」

「そう……じゃあこのぐらいでお話は終わりかしらね」

「それは残念だな。もう少しお話して、出来れば君の行動を全力で止めたいところなんだが」


 前島が立ち上がってその辺に缶コーヒーの入っていた空き缶を捨てる。すると、少し考えなおして缶を拾うそぶりを見せる。


「だめね、こんな時でもポイ捨てはダメだって思っちゃうわ。癖かしら」

「それだけ少し心の余裕があるってことじゃないのかな。その余裕のあるうちに思い直してほしい。これ以上罪を重ねないでほしいな」


 ゴミ箱を探すと、コンビニの入り口から入って缶を捨てると彼女は戻ってきた。飲み物は飲んでしまったが、まだ引き止められるかな。


「もうちょっとだけ待っててくれないかな。どうせやるならいつ始めても大丈夫だろう? お互い時間がなくて忙しいわけじゃないんだし、俺もそこまで他の事件に首を突っ込んだりして忙しいわけじゃないんだ。もう少し話し相手をしていてほしいかな」

「だめよ。その間にあなたの仲間の人がここを囲みつつあるんでしょう? 私も気づいてるわ。人が段々近寄らなくなっている。なにかしたのね」

「まあ、君の異能力みたいに、こちらも人除けの結界みたいなものを張ることができるんだ。おかげで異能力者同士の戦いになってもそれほど世の中に違和感なく捕り物ができる、ということになるんだ」

「私もそっち側に足を踏みこんじゃってるわけね……でも、どうやって逮捕するの? 私がその気になれば霧そのものになった場合、逮捕しようにも手錠をかける所が見つからないかもしれないわよ? 」

「そうだな、そうなると困るな」


 そう答えつつ、結界を彼女の周辺にまとわりつくように展開させる。霧化もできるなら先日二回目の騒ぎの際は霧化して逃げることができたはずだ。そうしなかったということは、まだそこまで成長していないんじゃないかということになる。後は、彼女から霧が発生しても飛び散らないように覆い隠すように結界で覆ってしまえば周りに被害は出さなくて済むだろう。


 結界を拡大し、前島の周囲五メートルを覆う檻を完成させる。霧が跳ね返り、前島の顔に白い粒が戻る。


「これで漏れは防げる。君の霧は強いが、制御が不完全だ」

「何かしてるわね。なんだか私の周りの空気の感じが変だわ」

「結界を張らせてもらっている。君の周りから霧が漏れ出ないように、空気は通過するけど霧や異能力は通過できない特製の檻みたいなもんだ。これでこっそり君を覆わせてもらうだけの時間は稼がせてもらった。これで完璧……というつもりはないが、それ以上動かれるならこっちもそれなりの対応をさせてもらうことになる」

「ふふ……じゃあ、自分の身で試してみると良いわ」


 彼女が霧をこちらに向けて放ってくる。俺の身体の内部は外向きの結界に守られているので霧を吸い込んでも今のところ支障はない。


 結界を瞬時に再構成し、体内から外へ向かう防御層を強化。青い光の粒子を掌で操り、霧を吸収する薄いバリアを追加し、空気の流れを計算して微細な気流を発生させる。霧の密度が濃い…エネルギー消費が半端ないな。と心で呟き、呼吸を整える。


「あら、もしかして自分自身もその結界で守ってるのかしら? だとしたら……少々厄介ね」


「だから俺が派遣されてきたってことでもある。このまま大人しくしててくれないかな」

「それはダメよ。私が知る限り、知れる限り、同じ目に合うような女性が出ないようにこの手の輩には退場してもらわないと。悪いけど……行かせてもらうわ」

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

後毎度の誤字修正、感謝しております。

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― 新着の感想 ―
復讐は少しでも出来たと満足してくれて止まってくれたら良かったんですがねえ そうもいかないかあ
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