63:のんびりとした日常
ダーククロウの件は後味の悪さが残ったが、一応の事件解決となった。黒幕とされる組織の名前も人員もサッパリわからないが、内村課長としてはとりあえずここまでで一旦事件の幕引きをして、引き続きダーククロウの背景に居た組織については調査を続ける、ということになった。
表向き……そもそも裏向きの組織に表向きも裏向きもあったものではないとは思うが、とにかく表向き、歌舞伎町のいざこざはこれで片が付いた、という風に関係各所には説明をして回っているらしい。
実際にはより闇が深くなったというか、手掛かりが無くなって仕舞った現状どうにもならない、というほうが正解に近いだろう。内村課長も頭の中には入れつつも、次に向こうから何かアクションがない限りはこちらとしても動けない、という形に落ち着かざるを得なくなった、とのことだ。
そして俺達は今何をしているかというと、ここのところ夜の出番や深夜残業が続いたため、代休を取って部屋で横になっている。勿論隣ではフィリスが眠っている。
肉体的に疲れた……というわけではないが、気を張り詰めた状況になっていた問題が一応の解決を見たということで、ようやく落ち着いて眠れる朝を迎えられた、というところだ。今日はこのまま家でゴロゴロして居たい気分で一杯である。
今もこうして、フィリスの膝枕で良い気持ちを味わっている最中だ。今日は休日、緊急の呼び出しでもなければ出かける理由はほとんどない。最近も休みの日に動物園に行ってフィリスのきゅんかわオーラを全身に浴びつつ、良いものが見れたと眼福の一時を過ごしてきたところだ。もうすぐ給料も入るし、三人分の給料を合わせれば充分な生活ができる。
前の職場のブラックさも悪くはなかったが、こっちは命がかかっているという意味でのブラックだ。忙しさこそないものの、一つ手順を間違えるとケガの可能性がある分だけこっちのほうがスリリングというか、危険にはなるだろう。
ただ、今のところ分かっていることとして、こっちの世界の能力者というのはあっちに比べて随分レベルが低い、ということがわかる。まあ、向こうは石を投げれば異能力者に当たるぐらいの剣と魔法のファンタジーだったわけで、現実と比べてはいけないのだ。
「平和だなあ」
「平和ですねえ」
フィリスも膝の上に俺の頭を乗せて、時々髪の毛に触れて撫でたりして、充分な休日を味わっていると言っていいのだろう。
「このままずーっと平和でいてくれたらいいんだけどなあ」
「ダーククロウのことですか? それとも裏に居た別組織のことですか? 」
「別組織のほうかなあ。最悪都道府県を跨いで広域捜査って話にもなるだろうし、そうなったらあの……なんだっけ? 京都府警の」
「久我さんのことですか? 」
「そうそう、あの人が出張ってきて総指揮をとる形になるかもしれない。そうなると、こっちの事情もそのうち知られるようになるかもしれないと考えると少々面倒ごとが増えそうだな、と」
一応フィリスもカルミナも現実の人間、という形で所属させている形になっている以上、俺も含めてだが全能力の把握なんてされたらそれこそあちこちで顎でこき使われて大変なことになるのは目に見えている。
今のところは全力を隠しつつ、必要な分だけを力として顕現させてその場しのぎで臨機応変に対処していきたいと思う。何、将門塚すら何とかなったんだから他の三大怨霊が絡むような事件や人為的に似たレベルの瘴気を発生させられたりとか、後は異能力者による一般市民への制圧なんかが行われない限りは安心して過ごせるところだろう。
「さて、そろそろ夕飯の時間か。何を作ろうかな」
「豆腐ハンバーグというのはいかがでしょう。先日パソコンで豆腐料理を色々探していたら見つけたんです。作り方は……もう一回見れば思い出せると思います」
「豆腐ハンバーグか、いいな、それでいこう。手伝うよ」
「では、豆腐をキッチンペーパーで包んだ後に重しを乗せてよく水を抜いておいてください。その間にもう一回スマホで調べて見られるようにしておきます」
フィリスの言う通り、まな板を二枚……これも生活用品として必要だろうと思って予備として購入したものだ。三人で暮らしているとどうしても食費がかかる。自炊して少しでも食費を浮かしてその分他のことにお金を使うために節約できるところは節約していく方針で進んでいる。
その浮かせたお金で、フィリスとカルミナのスマホを新しく買ったのだ。しばらくは少しだけ苦しいが、スマホ本体の支払いが終わればかなり負担は軽減できることになる。それまでは頑張って節約していこう。
フィリスがスマホを片手に、作り方を順番に考えている。スマホの使い方も慣れたらしく、最初は電源が入らなくなって壊れたと言いに来たらただのバッテリー切れだったのは今となっては笑い話だ。
豆腐の水抜きをやっている間に手際よく他の材料の準備をし出すフィリス。後は手伝えることは皿を並べて出来上がったらすぐに食べられるようにすることと、添え物を作ることぐらいか。
「ハンバーグだけだと寂しいからほうれん草とキノコのバター和えでも作るか……いいよな? 」
「はい、それも美味しそうですね。そっちはお任せします」
フィリスと並んで料理を始める。IHも前のアパートと違って二台あるので同時に調理ができるのも今の住まいの便利な所。
しっかりほうれん草を茹でると、湯を捨ててしっかり水切りした後フライパンに切り替えて、バターでキノコを焼き、程よく温まったところでほうれん草を投入。コーンがあればもう一つ彩りが豊かにできただろうが今日のところは持ち合わせがない。その内冷凍の奴でも……いや、でもそれを買うほど使い道が多いわけでもないからな。今のところはコーンなしだな。
バターが全体に回って暖まったところで各皿に盛っていく。フィリスのほうも準備が出来たようで、アツアツのハンバーグが更に盛り付けられている。もう一品、というのは贅沢かな。
カルミナを呼びに部屋に入る。
「おーいご飯だぞー」
カルミナは腹を出して寝ていた。暢気なものだが、大人しくしてくれているのはそれだけ世界が安全な証拠。気にせずにいよう。それに休日にだれがどんな過ごし方をしていても文句は言わないのだ。
「カルミナ~ 起きろ~ 」
ゆさゆさと揺すって起こす。
「ご飯? ポテチ? 」
「今日の分は昼に食べただろ。ご飯はハンバーグだぞ」
「ハンバーグかあ……やった」
そのまま腹を隠すとリビングへ歩いていったのでカルミナの背中を追いかける。ご飯にハンバーグにインスタントの味噌汁。うむ、見事に和洋折衷だな。だが、お腹が膨れればそれでいいし、美味しければなおさらいいんだ。
ハンバーグにかけてあるデミグラスソースも出来合いものだが、下手に作って失敗するよりこっちのほうが美味しいならそれが一番時短で安上がりになる。無理に作ってフライパンをダメにするよりはマシだな。
「さあ、食べよう。いただきます」
「「いただきます」」
平和な一日だった。
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