21:日常
マツさんのゲル
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ダンジョンで潮干狩りを
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こちらもよろしくお願いします。
翌日の角田部長はいつも通りに戻り、むしろ今までよりもキレが良かった。怒号が部屋の外まで響き、今日も営業二課は平穏? を取り戻した。
「部長今日は調子絶好調ですね。昨日何かありましたか? 」
昨日の記憶があるのか確認の探りを入れてみる。
「昨日はな……何故か記憶がないんだ。起きたら病院に運ばれててびっくりしたぞ。何があったのかサッパリだ。だが、今日は調子がいいからな、ワハハ。昨日手を抜いて仕事をした分今日はしっかり仕事をしろよ! 」
良かった、いつもどおりだ。このブラック感が段々心地よくなってきた俺にはもはや怒鳴り声が子守唄のようにすら聞こえてくる。角田部長はこうじゃないとな。
しかし、昨日の記憶が消えててくれてよかった。もしアイアンクローして無理矢理浄化したところまで覚えられていたら今頃どんな文句を言われていたか知れたことじゃない。ありがとう憑りついていた何者かさん。君が記憶ごと消滅してくれたおかげで俺は平穏なブラックっぷりを過ごせているよ。
「進藤! いつもの! 」
ついに「いつもの」に進化した現行作業中のエクセルシートをそのままタブレットで動かす様子を見せる。納得したのか、珍しく一発OKが出た。
「進藤最近調子いいじゃないか! その調子でどんどんいけ、さあ次の仕事だ! 」
なんだかんだで次々に新しい仕事をくれて的確かどうかはともかく指示を仰げばちゃんと帰ってくる、指定があればちゃんと理由を持って解説してくれる。もしかしたらいい上司なんじゃないだろうか。それとも、昨日の一件で何かが覚醒したのかもしれない。何にせよ、今日の午前中も平和な営業二課がそこにはあった。
◇◆◇◆◇◆◇
昼休みになり、お昼のサンドイッチをかじりながらまた弁護士の予約と無料の法テラスなんかを検索するが、相変わらず土日にやっているところは数少ない。ほとんどが平日の昼間だ。仕事がある俺ではフィリスを連れて訪問することは叶わないだろう。うーん、どうするか。
「おっ、なんだ進藤、法律相談か? それとも会社をブラックで訴えでもするのか? ワハハ」
探してる画面を角田部長に見られてしまった。流石に会社を訴えたりする気は今のところないので、嘘をつかずに正直な告白をする。
「ちょっと友人が困ってまして。何か力になれたらと思って探してはいるんですが、俺の付き添いが必要になるんで中々……ってところですね」
「なるほどな……お前、年休消化まだだったよな? 最近頑張ってるし、年休使っていってきていいぞ」
年休なんて制度がこの会社にあったのか。初めて知ったぞ。一番近いのは……明後日か。
「じゃあ、急にで申し訳ないんですけど明後日とか……いけますか? 」
「その代わり、今日と明日はしっかり仕事しろよ! 俺は仕事をしてるなら文句を言わないからな! 」
そのまま俺の肩をポンと叩くと角田部長は自分の席に戻っていった。やっぱり、ずっと何か憑りついてたんじゃないのか? 憑き物が落ちたように優しくなったと感じるのは、直に浄化を使ったせいだろうか。それとも、俺の社畜人生が順調に回り始めたということだろうか。
よし、そうと決まれば今日明日と仕事をさっさと終わらせて、フィリスとも相談しなければならない。相談する時間を取るためにも巻きで仕事を済ませていこう。
俺が仕事に熱中し始めるのを見て、角田部長も自分の席に戻って行っていつも通り怒号を飛ばし始めた。さあ、今日は俺に怒号が飛ばないようにしっかりやっていこう。
◇◆◇◆◇◆◇
仕事を巻きで回したおかげで残業一時間で仕事を終わらせることが出来た。ポテチをちゃんと買って帰り、家の玄関を開けて帰宅だ。
「おかえりなさい、トモアキ様」
「ポテチ! ポテチは! 」
どうやらおかえりという言葉の意味の中にポテチという単語が新しく追加されたらしい。頭の上にポスンとポテチの袋を乗せてやると、早速ポテチを食べ始めた。
「明後日仕事の休みが取れることになった。だから前から言ってた、フィリスがこの国に居るという存在証明をどうやって取得すればいいかの相談に行くことになった。急で悪いが大丈夫か? 」
「はい、構いません。むしろありがたいことです。それよりも良いのですか? 仕事をお休みしてしまって」
「むしろ会社のほうから休めと言われたんだ。働き過ぎるなと言われた。もしかしたら部長に憑りついていた何かを浄化したことで精神的に安寧が訪れたとか、性格に変化が見られたとかそういうものかもしれないな」
「確かに、どんな魔物に憑依されたかまでは私にはわかりませんが、憑りつかれる前と憑りつかれた後、そして浄化した後でそれぞれ性格が一変するケースはあったと思います。どれが本当の本人の気質なのかは流石にわかりませんね」
もっと昔から憑りつかれている可能性は……まあないだろうな。急変したのは先日の事だったし、土日の休みで何かがあった、と考えるほうが自然だろう。
綺麗になった角田部長も相変わらず怒号を響かせていたことを考えると、パワハラ気味なのは元々の性格なんだろうな。でも、無理な注文や無茶な話をしなくなったのはその部分についてはマシになったと考えられるところだろう。
「まあそんなわけで、平日だが休みを取って弁護士に相談しに行く。親身になってくれるかどうかもわからないし、一発で解決する可能性は低いが、どうすればそっち方向に持っていけるか、という面については一歩進めると思う。その……籍を入れるにもフィリスの立場がどうなるかがわからないし、もしかしたらフィリスがだめでも二人の子供はちゃんと育てていけるようになるかもしれない。そっちの方向でもちゃんと先を考えていこうと思う」
「子供……ですか」
フィリスが顔を赤くしながらこっちをひたすら見つめている。ここで目を逸らしたら負けかなあと思うので、純粋な気持ちとして今俺はフィリスと一緒に居たいぞ、という意思を見せつけるためにもそのフィリスの熱い目線をしっかりと受け止めて見つめ返す。
「あー暑いわー。えあこん付けていい? 」
カルミナが茶々と入れてくるが、フィリスの集中力は途絶えていない。周りの声が聞こえてないようにそっとこちらへ来ると、俺の胸の中にゆっくりと飛び込んでくる。
「嬉しいです。前も言いましたけど、トモアキ様とこうありたくて私は付いてきました。トモアキ様が前向きに真面目に考えてくださっているのは素直に感謝いたします。法律とか国籍とか戸籍とか、細かいことはこれから勉強いたしますが、それを手に入れるためにトモアキ様が頑張ってくださっているのも解ります。ただ、無理はしないでくださいね。私が重荷になるってことも承知していますが、そこまでご迷惑をかけて居続けることはあまり好みません。ゆっくりでいいのですよ」
「ゆっくりのほうが良いかもしれないが、事前情報は早めに仕入れておくに限るさ。情報があってその上で今後どうしていくのか。それを考える日だ。今は頑張る時だからな。頑張らなくていい時はしっかり気を抜いて毎日を過ごしていけばいい。とにかく明後日だ。一つ目の仕事をこなしていこう」
「はい! 」
フィリスが満面の笑顔でこちらに応えてくれる。その笑顔を曇らせないためにも一つずつ課題をクリアしていこう。
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