ふうわり ふわり
ああ、むしゃくしゃする。
授業での髪のカットは私の方が上のはず。
なのに、あの田舎者を褒めちぎっている。
私も笑顔で拍手に加わってやったわよ。
長谷川由香 19歳
美容師専門学生 1年
私は群を抜いていた。
お洒落な子たちが集まる美容師専門学校で。
センスがいいとも、奇麗だねとも、お洒落とも言われたわ。
当たり前よ。努力してきたもの。
服は流行を捉えながらも、自分の個性を一つ。
腕時計とバックと靴は一流品。
化粧品もブランドもの。
もちろんプチプライスなワンシーズンしか着ないのも奇麗に着こなしていたわ。
たまには周りに合わせなきゃいけないしね。
周りの子たちは、実家から通う子も、地元から出ている子も、なんだかんだで、みんな仕送りとか、お小遣いとかもらっていた。
それでも、お金ないー。
今、金欠ーとかほざくの。
だっさ。自分でちゃんとやりくりなさいよ。
良いわね。齧る脛があって。
なのに美意識が低すぎるわ。
なに?あの自分を知らない化粧の仕方。
古着屋で買ったのって、安さ自慢でクラスで盛り上がって、下品な奴ら。
ふざけんじゃないわよね。
私は、クソな家を出て、何人かのオヤジを捕まえて金を出させていたのよ。
身体を売ってね。
専門学校の割には高い授業料だって、何とかしてきたのよ、自分一人で。
なのに、何よ。
どうして、もうお金出せないなんて言うのよ。
私を抱いた後に。
奥さんにバレそうだって?
関係ないわよ。
別に離婚でもすれば良いじゃない。
私はアナタに身体を売った。それに見合う支払いをとっとすれば良いだけよ。
別のオヤジは給料が減ったから、もう少し安くならないかって、
馬鹿にしないでよ。
私を抱いているくせに、その対価に見合わない額を突き付けるなんて、どういうつもりよ。
私は、あんたらに会いたいわけではないの。
ただ、お金が欲しいから、それだけの事をしているに過ぎないの。
ついでに言うと、愛人になったつもりはないから、私の生活に口を
出さないで欲しいわ。
私は自分を磨いて来たわ。
化粧も勉強して、魅力的な女性らしい自分を作ってきた。
なのに、金づるは離れて行く。
なんで、今まで喜んでお金をくれていたのに。
これじゃあ、生活できないじゃん。
学校に行けないじゃん。
ムカついてムカついて、勝負に出たの。
そうしたら学校のセンセだって、喜んで私を抱いたわ。
このセンセは、美容室を幾つも経営しているの。
だから、私はこの男さえ捕まえておけば良い。
自分でカリスマ美容師とか言っているウザい男だけれど、この男のお気に入りになれば、いつか、私も店を持てるはず。
なのに、何?
なんども私を抱いたのに、俺は素朴な子が良いなぁ~って。
ふざけんじゃないわよ。
私がアバズレだとでもいうの?
喜んでいたくせに。
喜んでもらおうと思ったからよ。
ウザいけれど、格好良いと思ったからよ。
センセだから・・・
私、好きだから・・・だったんだよ。
最近のセンセのお気に入りは、同じ沿線のもっと奥から通っている子。
実家の仕送りがキツイ~って言っているけれど、授業料払って、東京での生活費出してもらって、学業に専念しなさいって、バイトもさせてくれないの~だってさ。
人生舐めているよね。
でも、あんな女が勝ち組に入るんだろうな。
そいつは勝手に私を友達認定して、一緒に通おうよとか言ってくる。
ふざけんなブス。
田舎丸出しのブス。
苦労知らずなのに、不満ばかり言う世間知らず。
でも、仕草がきれいなの。
ああ、いいトコのお嬢さんなんだろうな~って雰囲気が出ている。
ブランド品も何も持っていないのにね。
私は一緒に食事をした男に笑われたことがある。
箸の持ち方が汚いって。
結局、出るのは育ちかぁーーー
男は、そういう子を見つけるの早いよな。
ああ、面倒くさくなっちゃった。
あの電車に、あいつが乗っているのか。
はぁ~~
もう良いか。
もう良いよね。
なんか、疲れた。
あいつは先頭車両に乗っているんだってな。
少し、あいつの人生の傷になってやろうかな。
そうして、私は
ふうわりと、バレリーナのようにホームに大きくジャンプしたの。
これであいつが堕ちればいい。
そうしたら、私はまた心から笑える。
大家は、自殺した女の子の実家から誰も荷物を引き取りに来ないのを哀れに思った。
しかし、同時に部屋で死んだのではない事に安心もしていた。
部屋の荷物の処分は業者を呼んでやってもらった。
意外にも現金やブランド品があり、それを買い取ってもらったので、彼女には悪いと
思ったが笑いが止まらなかった。
この部屋には若い女性が住むと、一年ほどで自殺をしてしまう。
しかし、部屋以外の場所で死ぬから家賃を下げずに済む。
しかも、立地は良いが建物は古いので、家賃が少しばかり周りより安くても、
建物のせいになり、すぐに次が決まる。
家主は、自分は敷地には入らないが実は、次も女の子だと良い。
と考えていた。




