028 信じる
無線機から聞こえてくる状況から察するに、小雛さんも戦闘に巻き込まれたようだ。
眼前の老獪に迷いはない。この状況になることをまるで知っていたかのように。
「斉藤さん、でしたね」
「貴女にとってはリベンジマッチ……となりますな」
「リベンジさせてくれるのですか?」
「そんなつもりは毛頭も」
話しながら、斉藤さんは武術の構えを、私は宝石を手に握った。
「前回、貴女は私に敗北した。なのにその諦めない目はどこから来るのです?」
「その質問に意味は?」
「戦う理由が知りたいのでね」
戦う理由。
確かに、圧倒的敗北を喫した私にはこの人と戦う理由は少ない。また負けるかもしれない相手に、なぜ1対1で戦うのか。
そんなこと、とっくに心に決まっています。
「小雛さんが仲間として、私を信じてくれている。それだけで戦う理由は十分です」
宝石を目の前に投げつけ、黄色に発光させた。
「土王顕現:岩壁」
岩の壁は私と斉藤さんを断絶した。
「そんなもので私を止められるとでも?」
壁を挟んで斉藤さんの位置から青いオーラが滲んでくる。
間違いない、あの技だ。
「剛拳:蒼竜武神打」
青いオーラは竜となり、拳に纏わりつく。その一撃は岩壁など簡単に破壊した。
「脆い」
「宝石顕現:ヒスイ。風魔顕現」
「むっ」
斉藤さんの攻撃には2秒ほど固まる時間がある。その時こそ狙い目。だから敢えて壁を作り、斉藤さんに攻撃を促した。
その2秒で削るために!
風は斉藤さんを巻き込んで直進していった。ビル群で直線的に進む風は、やがて摩天楼に激突させる。
「やりました……やりましたよ、小雛さん」
「なるほどなるほど、策は練られたわけだ」
ゾッとした。
ビルに強風と共に強打されて、傷一つついているように見えない老人。
ありえない……なぜ……
「受け身。武術の心得がある者にとって、基礎の基礎」
「技、ですか」
「貴女も少し嗜むといい。楽しいですよ」
斉藤さんはビルを蹴って私の目の前に着地した。
おそらく、2度と同じ手は通じない。そして、私に勝つための二の矢・三の矢はない。
「これは勝てませんね」
「おや諦めるのですか」
「私は小雛さんを信じています。私は脱落しても、滅びの国に勝ちはありません」
「ほう、面白い」
斉藤さんは加速し、私の腹を拳で貫いた。
「さらば青き戦士よ」
「ええ、貴方も一緒に」
「なっ!?」
腹に仕込んでおいたのは、大量の赤黒い宝石。
刺激を受けると大爆発する、ニトロジュエルと名付けた宝石だ。
「馬鹿な、心中する気ですか!」
「勝利は捨てます。ですが、互いに負けましょう」
「……天晴れ」
小雛さん、あなたが信じてくれた私は、今度はあなたを信じます。どうか勝利を。
後から聞いた話では、その爆発はビルを3つ吹き飛ばす威力になったらしい。




