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活動報告に書きましたが、昨日は更新できず来てくださった方申し訳ありませんでした。熱は今のところ下がってます。インフルエンザじゃなくてよかった(´・ω・`)


「お嬢様」

 レイシスが真剣な表情で扉を開けて入ってきたのを見て、少し驚く。

 昼、王子と私、フォルが待っていたところに午前の兵科の補習の指導を終えたガイアスとレイシス、ルセナが戻ってきた時は、和やかにお弁当を食べ終えて、午後も頑張ってくると笑って出かけた筈なのだが、今のレイシスの表情はどうにも暗い。

 それに、ガイアスがいない。ルセナはここに寄らずに帰ったのだとしても、ガイアスが私を迎えにこないというのがおかしい。

 そう思ったのはどうやら私だけではないらしく、結局午後に新しい魔法について語ったりテストの対策を一緒に考えていたりと過ごしたフォルと王子も、訝しげにレイシスを見る。

 視線に気づいたレイシスが、ちらりと王子を見たあと、私に視線を戻す。

「ガイアスはもう少しで来ますからご安心を」

「……そう」

 返事はしてみたが、どうにもおかしいなと思いフォルと顔を見合わせた。

 私達の前の、テーブルを挟んだ向こう側に座ったレイシスは、じっと王子を見つめる。視線を受け止めた王子は、何か思うところがあるのかただ黙ってそれを受け止めた後、しばらくして大きくため息を吐いた。


「……ガイアスが公爵のところに詳細を聞きに行ったんだな?」

 突然の王子の発言に、私とフォルだけが「え?」と首を傾げた。レイシスは無言で頷き、それを見た王子はふうと息を吐きながらソファの背もたれに背を預ける。

 にゃ、と鳴いたアルくんが王子の隣から移動して私の膝の上に丸くなると、辺りはまたしんとした空気に包まれる。

 アルくんの背を撫でながら、先程の王子の言葉を考える。

 ガイアスが公爵のところに行った。

 ……ガイアスが行く可能性がある公爵というのは、暗部絡みだとすればジェントリー公爵じゃないのか……?

 ちらっと右隣にいるフォルを見ると、フォルと視線が合う。

 しかし彼は私に首を振って見せた。たぶん、ガイアスが来る予定を聞いていなかったのだろう。

「……デューク、レイシス。ガイアスは父のところに?」

 私がどうしようかと悩んだところで、フォルが顔を上げると尋ねてくれた。レイシスが黙って王子を見る。王子はちらりと視線をこちらに向けると、「ああ」とだけ答える。その返答の続きがなくて、フォルが質問を重ねた。

「なぜデュークがそれを?」

「少し待て。俺も情報待ちだ」

 眉間に皺が寄った王子を見て、珍しいなと思う。あそこまで不機嫌な様子を王子が顔に出すのは珍しい。気に入らない事があればずばずば言う人ではあるが、どこかいつもと違う気がした。

 王子の様子、レイシスの様子を見ると、いやな予感しかしない。そもそもガイアスがジェントリー公爵に呼ばれるのだって……

 そこまで考えたところで、部屋の外が少し騒がしくなった。

 ガイアスが戻ってきたのか、と思い立ち上がると、レイシスがそれを止め、フォルに手を引かれてソファに座りなおす。

 部屋の扉に近づいたレイシスの目の前で、ばたんと開いた扉から現れたのはやはり、少し息を切らしたガイアスだった。

 急いできたのだろう。ぐいっと額の汗を拭ったガイアスは、部屋を見回した後息を整え、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開く。

「殺人事件が起きる可能性が、今日の夜が一番高いって」

 そう言うと、ガイアスの後ろから鎧に身を包んだ騎士が現れた。身に纏う色は青。王子の近衛兵だろう。

 まっすぐに王子のところに向かうと、小さな声で何かを告げて、彼はすぐにまた部屋の外へと向かう。扉がゆっくりと閉まるのを確認すると、目を閉じて考え事をしていた王子は、すっと立ち上がった。

「ガイアス、とりあえず座れ。アイラ、悪いがお茶を頼めるか」

「はい」

 王子に言われて席を立つ。王子は指示を出す必要がない時は、特殊科の人間に対し、「悪いが」などまるで上の立場の人間ではなく、対等であるような話し方をしてくれる。最初は恐縮しきりだったが最近はそれを少し好ましく思いながら、部屋に簡易のキッチンがあるので、急いで湯を沸かす。

 茶葉は種類は少ないが、ここを利用するメンバーが持ち寄ったものなのでそこそこ上質のものだ。

 その中で、少しさっぱりする香りの、淹れるのに時間がかからない簡単な茶葉を選び準備を進める。

 ガイアスが息を乱して駆けつけたのだ。様子を見る感じでは王子が近衛と話していた内容と、ガイアスが公爵から聞いてきたらしい殺人事件が今日起きるかもしれないという話は、同じである可能性が高い。少しどきどきと煩い心臓に平常に戻れと願いながらカップに琥珀色のお茶を注ぐ。

 ふわりと柑橘系の香りが辺りに漂い、お茶の準備を終えた私は、王子の前にまずお茶を置き、次にフォルの前に置くと、それを確認したレイシスとガイアスがそれぞれ自分の分を手にしたので私も最後の一つをテーブルに置き、そのままそこに腰掛ける。

 全員が一つのテーブルを囲むように席に着いたところで、王子がぐるりと見回した後、一度お茶を口にしてから、真剣な表情で話を切り出した。

「今回殺人事件が立て続けに起こってるが、これに関しては闇魔法が関わっている可能性を考慮し、捜査を指揮しているジェントリー家で箝口令を敷いている事はここにいる人間は知っているな?」

 フォルはもちろん、ガイアスとレイシスも暗部の手伝いで呼ばれている今、王子の言葉はほぼ私に向けられているものだった。こくりと頷いて返すと、王子は更に言葉を続ける。

「そこで王家からの依頼だ。アイラ・ベルティーニ及びその護衛、そしてフォルセ・ジェントリーは日付が変わる時間に現れると思われる連続殺人犯の犯人を捕らえよ」

「……へっ」

 思わず間抜けな声が出たのは仕方がないだろう。

 呆然としている私に王子がもちろん俺もついていくが、と言っているが……いや、なおさらわけがわかりません。

「正式な依頼だ。学園も通す。もっとも、特殊科への依頼は掲示板には貼られないがな」

「掲示板……学園依頼掲示板?」

 学園依頼掲示板、とは、学園の生徒への依頼が張り出してある掲示板だ。例えば、医療科宛に「十日以内に傷薬(塗り薬)を三百用意してくれ」という各地兵団の依頼だとか、魔道具科宛に「魔法を使わなくてもすぐ火を熾せる道具を」だとか、学園に持ち込まれた依頼がいつもたくさん張り出されている。ジリオ斡旋所の依頼より難易度は低いが専門的なものが多いらしい。

 原則として、医療科は二年目以降の生徒、獣を退治してくれ等危ない依頼が多い兵科は三年目の生徒など決められており、教師が十分に配慮するが生徒は授業優先であり、依頼したからといって確実にそれが契約になるわけではないという事と、結果が完全なものではない可能性を考慮するのが依頼の条件ではあるが毎日たくさんの依頼が持ち込まれているそうだ。人気の理由は相場の七割程度しか金額の請求がされないからだろう。

 もちろん私は医療科一年目であるし、騎士科は例外として教師が認めれば一年目から依頼を受けることができるらしいが、ガイアス達も含め私達は一度も依頼を受けた事はない。そもそもその存在自体、最近先生がぽろりと「この薬は依頼が多いから覚えておくと来年いい小遣い稼ぎができるぞー」なんて言っていた為に知ったのであって、詳しくはない。

 それにしても、殺人犯を捕まえろというのはさすがに教師が許可できるレベルではないのではないか。

「特殊科の上級生と顔を合わせた事はあるか?」

 王子の突然の質問に、首を傾げつつも否と答える。

「特殊科は人数が少ないからな。それでも特殊科でないと対処できないレベルの依頼は学園にも来る。特殊科の上級生はそっちの対処に回っていて忙しい」

 だから、会ったことがないんだろうと続ける王子。だがつまり、それは特殊科に来る依頼は難易度が高いと言っているわけで……。

 だが、いくらなんでも……と思ったのが顔に出てしまっていたらしい。王子は苦笑すると姿勢を正した。

「わかってる。今回はだからこそアイラに双子、フォルセと俺までついての特別任務だ。アイラ、色を見れるエルフィは少ない。王都にいるエルフィはアイラを除いて二人。その二人にも動いてもらうが、今回被害者になる可能性がある人間は三人いる。その一人についてほしいだけだ」

「ああ、なるほど……」

 どうしてもエルフィに動いてほしい仕事。それで学生である私にまで話が回ってきたのか。

 そもそもその被害者になりそうな三人を一箇所に纏めればいいのに、という発言は、王子にあっさりと「本人達が大騒ぎして箝口令の意味がなくなる」と言われた。どうしてもこの事件を騒ぎにせず収めたいらしい。つまり、今日狙われそうになる人間は自分が狙われていると知らない、ということだ。


 殺人が起こるかもしれないところに行くというのも、守りきらなければならないという事も不安があるが、ガイアスとレイシスがいるなら大丈夫だろうとも思う。フォルも王子も一緒だ。

「……ルセナやおねえさまはいいの? 特殊科に依頼なんでしょう?」

 ふと気になって尋ねると、王子がゆっくりと首を振る。

「おまえ、エルフィであると言ってないだろう」

「あ、そうか」

 今回の仕事内容的に言っていなければ話にならない。

 納得したところで、詳しい依頼の内容を王子に詳しく聞く。

 大丈夫。

 私の仕事は、私達が護衛に入る相手のところに殺人犯が現れたら協力して捕らえるだけ。それだけだ。



あまいよアイラ

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