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過去最高にストーリーが出来ているのに文章になりませんでした。お待たせして申し訳ございません。ご心配をおかけした皆様、応援してくださいました皆様、コメント等ありがとうございます。

「それでは火竜君、この僕がラストダンスを躍らせてあげよう、来るがいい!」

 はっはっは、と高笑いしながらヴィルジール先輩が手を掲げると、そこに炎が生み出される。火に反応したのか、ファイアドラゴンがもがきながらも炎の吐息を零し、火の粉を散らせた。

 加勢しなくてもいいのかと問えば、グラエム先輩は首を振る。邪魔になるだけだろ、と言われて自分を見下ろし、悔しいが納得した。私の四肢はぼろぼろだ、ここは引くべきだろう。

「気にするな。あれ一人で対応できるほど弱らせたのはあんただぜ」

 先輩が優しい。思わずそう思いつつ口に出すのは止めて、ちらりとこの仲がいいのか悪いのかよくわからない兄弟を交互に見つめる。

「ヴィルジール先輩、炎で対抗するんでしょうか。ファイアドラゴンの炎って、炎の神だって言われるくらい強いですよね?」

「なんだお前、そのファイアドラゴンと一人で戦って持ちこたえておいて変な事いうな」

「あれは……そうだ! ラビリス先生の石、朝貰ったほう砕けちゃいました……!」

 グラエム先輩に支えられながらぐるりと後ろを向いて言えば、先生はぱちりと眼鏡の奥で一度瞬きした後、ああそうみたいですね、となんでもないように言う。

「もともと……一度の契約で作った石です。仕方ない」

「……はい?」

 契約。その言葉に、やはりという思いが膨れ上がる。

 石と契約、というのはなんだか意味が違うように感じる。先生が契約した相手とは、精霊ではないのだろうか。それなら、朝私に「見えているのでしょう」と言った意味も頷ける。

「先生、もしかして」

「まぁ……その話は、あとで」

 短く答えた先生が急に私たちを物凄い速さで追い抜いて、地上へと向かう。残像すら浮かんだのではと思う程の速さにぎょっとしてそれを視線で追うと、グラエム先輩がくつくつと楽しそうに笑った。

「あのセンセ、腐っても特殊科出身だぜ、あっちの馬鹿の方もな」

「馬鹿って。まぁ特殊科の先輩なのはもちろん知ってましたけれど……錬金術科ってよくわからないんですよね」

「あの人天才だから。気に入られて損は無いね、性格アレだけど」

「グラエム先輩もアレですよ」

「うっさいやつ」

 頬をつねられ、いひゃいいひゃいと言いながら先生の後を追う。なんてことするんだ、こんなのフォルに見られたら怒られそうなんだが、私が。

 しかし逃げようにも、腕は傷だらけ、魔力は枯渇気味。言うなれば満身創痍状態の私が文句を言ったところで、だったら降ろすかと言われたら傷が増えるだけなのだが。

 ちらりと後ろを振り返り、先程の言葉の意味を察した。炎相手なら水、というだけではないのだ。上手く炎を操るヴィルジール先輩はなんと、次第に敵の炎を自分のものへとし取り込んでいく。何かコツがあるのかもしれない。

 それでも全ての炎を奪うわけにはいかないだろうと急ぎ、ラビリス先生を追う。先生が向かったのは閉じ込められた生徒たちのほうだ。なにか手があるのなら、それに越したことはない。あれはある意味人質なのだ。

 木々の葉の間を抜ける合間にも、燃え盛る炎が見えた。ふと、炎に覚えのある魔力の色が混じっていることに気がついて、目を見開く。

「先輩! あの炎、ガイアスとフォルが干渉してます!」

「……ちっ、ということは、弟に壁の負担がかかってるか。押し負けた時点で全員昇天だぞ」

 地面に降り立つ先輩が、思ったよりそっと私を地面に降ろす。足が地面についても崩れ落ちる事無く持ちこたえて立つ私を見て満足気に頷くと、先輩は私に魔力回復薬を押し付けた。

「あ、ありがとうございます」

「屋敷にあったやつ勝手に持ってきただけ」

 ああそういえば、部屋に使いそうなもの並べたんだった。そう思いながら飲み干しつつ、魔力が逃げてしまわないようにすぐに傷を塞いでいく。だがそれでも、疲労がなくなるわけではない。ここまで疲れたの、久しぶりかもしれない。

「ったく、間抜けだな。お前一人になったところでさらわれたらどうするつもりだったんだ」

「……私より危ないの先輩たちじゃないですか」

 グラエム先輩も、エルフィの力はなくともヴィルジール先輩も、二人とも狙われた血筋であることは間違いないのだ。しかしそれに対し先輩はふんと笑っただけで、治ったならいくぞとすたすたと歩いていく。

 踏みしめる土の感触を確かめながら歩く。周囲の精霊がやたらと心配しているのが見えた。ジェダイによると、私には見えない大地の精霊までもがこの状況を不安に思っているらしい。虫が異常だと警告する精霊もいるようだ。

「……虫を殺さなければいけないかもしれません。ルブラは虫で魔物を操ってるみたいです」

「へぇ、ああ、なるほどね」

 前を歩く先輩はきょろきょろと周囲を見回しながら、頷いている。ふと、先輩のエルフィの力はどうなのだろうかと顔をあげた。

「先輩、精霊は見えているんですよね? その、先輩が前言ってたのって」

「……俺は特定の風の言葉しか聞けないんだよ。あんたみたいにあちこちのやつと仲良くなれるわけじゃない。風においてそれは命取りだぜ、情報が要だからな」

 あっさりと教えてもらったことに聞いておいて驚いてしまい、思わず足を止めてしまった私を振り返った先輩が自嘲したような笑みを見せる。

 だから言っただろう、出来損ないだと。そう言わんばかりの雰囲気に、咄嗟に首を振る。……少なくとも、彼が傷ついた時に精霊が彼をとても心配していたのは間違いないのだから。

 ほら急ぐぞ、と手に魔力を集めながら歩き出す先輩の後について歩き、その手に集まる緑色の魔力を見ながら思う。その属性の全ての精霊と会話できずとも、彼の存在は間違いなくエルフィだ。それを出来損ないというならば、魔石の精霊が全て見えるわけではない私も魔石のエルフィとしては出来損ないなのだろうか。……わからない。

 視線の先で、先に降り立った先生が、炎を物ともせず近づき、周囲の地面に石を埋め込んでいた。術式が浮かび上がるそれは間違いなく先生の武器なのだろう、強い魔石だ。その上に、ぼんやりと精霊の姿が見える。

 ……先生こそ魔石のエルフィなのでは。そんな考えが僅かに頭に過ぎるものの、目の前の炎に感じるいくつかの愛しい気配に、意識が集中していく。既にぼろぼろの身だが、助けなければ。

「さて……今から僕が、炎を石に取り込みます」

「口開いたと思ったら唐突にすげーこと言うよなあんた」

 先生が私たちに気づいて説明しだしたところでグラエム先輩が突っ込むのを、肘を突いて止める。まったく同意見だが、それはまあ後だ!

「……取り込む……ので……すが、僕の力では全部は無理なので……」

 ゆっくりと説明し出す先生の言葉をじりじりと待つ。どうやら、炎が多すぎるから、風でいくつか炎を飛ばし、森が燃えないように周囲に散った炎は消して欲しいらしい。簡単に消える炎ではないだろうから、これまた強い力が必要だ。

 となれば、炎を飛ばすのは先輩で、私は消火だ。準備万端、いつでも水を呼び出せるように魔力の流れを調整していると、先生は説明の時とは正反対にさっさと術式を展開させた。え、行動は早いのね!

 ぶわりと広がる淡く光る魔法文字。それに仰天する間もなく舌打ちした先輩が炎を散らし、慌てて私もそれに続く。が、私が予想したより多くの炎が暴れ狂い、まるでうねるように広がる炎を避けながら慌てて水の膜を広げていく。

 くっ、と喉の奥から音が漏れた。治療したはずの腕が痛み、また血を零していく。限界だ。最初にファイアドラゴンと戦った時、最優先で速度を上げそれを重視した為に、無理をしすぎたのだ。悲鳴を上げる身体を見下ろしながら歯を食いしばり、飛び散る炎を消していく。森を火事にするわけにはいかないのだから。

 炎が地面に置かれた石に飲み込まれていく。薄れる赤の中に、確かなきらめきがあった。氷だ、と気づいて気が高揚し、ぱしゃんと水が音を立てて波打つと、炎を消していく。

 次第に、途切れる炎の中にいくつもの人影が見え始める。ぎりぎりの位置に立つガイアスとレイシスの姿をまず見つけ、怪我がないことにほっとした。ガイアスの腕はきちんと綺麗に治っている。

 中央に集まる騎士たちの中に漸く銀の頭を見つけたその時には、視界がぐらぐらと揺れ吐き気に息を詰まらせる。

「ガイアス、レイシス、……フォル」

 アルくんがもうやめろと叫ぶ声が聞こえたが、炎はまだ森の木々を襲い踊るように赤く蠢いている。気合で仲間を見つめ水を操る私の歪む視界で、フォルがこちらを見た気がした。

 私と同じように染まった赤い腕を見て、あああちらも無理をしたのかと、治療しなければという思いが先立ち、水を操ったまま足を一歩前へと踏み出す。ぶつん、と奇妙な音がした。

 見下ろした先で、私の足に噛み付く長くうねうねと身体をくねらせる虫が見えた。つやめくその薄桃色の、何かの幼虫らしき正体に、ひっ、と喉の奥で息を乱し、しかしその瞬間じわりと侵入してくる魔力に身体が傾いていく。侵食されるような恐怖に、息が止まる。

 気持ち悪い。苦しい。やめて、入ってくるな。

 身体が足元から冷えていく感覚に歯を噛み締め、喉元はさらに冷え切った冷たさに襲われ苦しくなって掻き毟る。だがそれとは別に、昨日フォルに噛まれたあの場所だけが熱を持つ。


「アイラ!!」

 叫ぶ声が聞こえる。心地よい、愛しいものだ。喉の熱が広がっていくが、私の身体はとうとう地面へと転がった。


 とりあえず、フォル。私虫、苦手なんだ、足元なんとかしてくれないかな。笑ってそう言った言葉は、届いただろうか。


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