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偶数日更新できてないですすみません…!二日に一度位更新できたらいいな、で現在更新中でございます…!

 身支度を終えた私は階下へと走り、薬剤庫をまず確認した。……やはり薬が少ない。昨日の今日だ、どうしてこんな時に。いや、こんなときだから、か。

 とりあえずと在るものだけをかき集め、非常時用にいつもの部屋に運び込む。少しすると、駆けつけたガイアスとレイシスが私を見つけてほっとした顔をして、それを手伝ってくれた。

「見たか?」

「魔物? 鳥を一匹なら」

「ああ。最悪だな、結界を越えられたとなれば、ジェントリー公爵の責任とされる可能性が高い。やられた」

 ガイアスの言葉に眉を寄せる。……狙いはジェントリー公爵だったというのか。まさか公爵を狙ったとて簡単に何かを覆されるようなことはないと思うが……ジェントリー家はそれだけの力がある。

 状況を楽観視するわけではないが、異常事態に対し早々に騎士が動いていたのが証拠だ。騎士が動けばそれは国が動いた事となる。王家は万が一の場合が起きてもジェントリー家に罪を押し付けるつもりはなかったということだ。

「今回の魔物の件は王都の騎士が動いていたのに、公爵が厳しい状況に立つとは限らないんじゃ……?」

「ああそうだ。だけど問題は……いや。とにかくアイラは必ず俺かレイシス、フォルの傍から離れるな。いいな?」

「みんなそればっかりだなぁ、……嬉しいけれど」

 そりゃそうだ、とガイアスが笑う。自分がいろいろな意味で狙われやすい人間であるとは小さい頃から理解していたが、だからこそ力をつけたと思っていたのがなんだか恥ずかしい。力をつけてもやはり狙われるものは狙われるし、自分一人ではどうしようもないこともあるのだろう。……カーネリアンとて似たような立場だが、昨日は明らかに私のせいで弟は狙われたのだ。

 物思いに耽りながらもせっせと部屋に運び込んだ薬を用途別に分けていると、私の隣に並んだレイシスがこちらを見て、一瞬首を傾げる。どうしたのかと見上げたところで、レイシスは目を見開いて、苦笑した。

「フォルは随分心配性のようですね、お嬢様」

「え?」

「ん? ああ、鎧魔法か。そうだなぁ、二重防御とは恐れ入る。フォルは複合魔法が得意だな……というかあいつ相当規格外な魔力の使い方するよなぁ」

 え、と叫んで思わず自分を見下ろした。鎧魔法をかけられていたのは気づいていたが、それが複合だとは気づいていなかった。

 フォルが属性を混ぜたり特徴をあわせる複合魔法が得意なのは、なんとなく理解できる。もとより器用な人であるようだが、常に他の属性を使いながら闇と共存しているのだ。幼い頃から複合状態と常に付き合い続けていたと言っていい。彼の闇の力は、氷の影響を受けているのかとても冷たく暗いものであるのが証拠だろう。

 フォルの事を考えて……ふと、思う。もしかしてフォルは、『厄介な相手』を知っているのか、と。

 私は母が商売相手でもある貴族をリスト化していたので、貴族の名前や特徴は頭に入っている。だが、表はともかく裏の部分での貴族同士の繋がりというのは、最近ルブラの件で調べだしたものの、恐らく実家を継ぐカーネリアンよりも疎い。

 私が知らないところでフォルが何か予防策を張ろうとしていなければいい。フォルは秘密主義過ぎる。あれでは守りたくても守れないし、……その原因が私を守る為であるとすれば、尚更落ち着かない。

 私を皆が守ろうとしてくれているように、フォルに対してだってそうなのだ。そしてそれは、ここにいる皆がお互いに思っているのだろう。いくら護衛でも私はガイアスもレイシスもとても大切で、守れる力があるのならば、いや、無くとも守りたい。王子だって、おねえさまだって、防御の天才であろうとルセナだって、大切な仲間だ。……それが、アーチボルド先生の言っていた『仲間』の意味であるのだろう。

 特殊科が特殊科である意味。先生がそれを私たちに聞いたあの時、例えとして出されたのは公爵領の魔物の話だった。以前も思ったが、まさか本当にこんな事態になるとは。魔物が、王都に現れるなんて。

「アイラ、ガイアス、レイシス。助かる」

 物音と同時に声がして振り返ると、こちらに疲れた様子でやってきたのは残りの四人。おねえさまは一足遅かったと急いで薬を分ける作業に加わってくれ、部屋の机が薬で埋まっていく。

 ちらりとフォルを見る。いつもと変わらない様子だが、自分の家の領地で起きた問題だ。心穏やかでいられる筈がない上に、精霊の言葉もある。私ですら落ち着かないのに、フォルは大丈夫なのだろうか。


「一人で片付けるな、仲間を信頼しろ。この世の人間は一人残らず誰かしらと支えあって生きている。他の生徒とは別に、選ばれた生徒になった意味を考えるんだ」


 突如聞こえた覚えのある言葉に振り返ると、険しい表情をしたアーチボルド先生がそこにいた。薬を部屋のテーブルに並べきった私達が向き直ると、先生は拳をぎりぎりと握り締め、口を開く。


「先生……」

「覚えているな? いいか、お前らはこれからラチナを除いて魔物の討伐命令が出ている。今年度の魔物殺傷数の規定は無視していい。王都に、いや北山から出た魔物は全て狩り尽くせ。……優秀な現役騎士の殆どは城の守りと北山の防衛線に出ていて、街にはぎりぎりしか残っていない。現時点では負傷者の報告はないが、最近のルブラ騒ぎのせいで余分な戦力は地方に散り散りだ。つまり余裕がない」

「学園の生徒に王都周辺に漏れ出した魔物の討伐命令がやはり下りたのでしょうか」

 レイシスが前に出て問うと、先生が苦々しい顔をしたまま頷いた。……事前に聞いてはいたが余程緊急事態だ。つまり、北山の防御結界が予想以上に破損している可能性が高い。

「すでに王都には外壁を通して最大警戒防御が張られている。いいか、近隣諸国に話が広がる前に全て殺す、これが任務だ。対魔物の討伐の流れは分かってるな? 特殊科のお前らはそれぞれ隊長につき、班編成となって騎士科を従えることになる。ただしアイラ、お前はフォルの班で副隊長でつけ。正直医療科が二人同じ班なのは厳しいが、お前ら婚約が公表されていないだけで纏まっているんだってな? 王からの指示だ」

 その言葉に思わずうぇ!? とひっくり返った声が口から飛び出した。なぜ、王直々に。しかもガイアスでもレイシスでもなく、医療科のフォル。私たちを纏めるのは不自然ではないだろうか。

 魔力の扱いによっぽど長けていなければ、兵科の生徒では魔物の相手が厳しい。毒である血を浴びずに倒すには、どう考えても防御魔法を張れる人間でなければならないのだ。つまり騎士科がメインの班編成になる。……人数がただでさえ足りないのだ。

 いくら婚約話があろうが、ここでそれが関係してくる意味がわからない。思わず、私を挟むように立つ護衛二人の顔を見上げるが、二人も眉を寄せて不可解であると表情が示している。

「俺たちはアイラの傍にいられないってことですか?」

「二人の立場が護衛なのはわかっているが、正直班の隊長になれるレベルの生徒がそこまでいない。魔物の討伐は後処理問題もある。……仲間を信頼しろ。二人の班はなるべくフォルの班と同範囲につけるようにするが、いいか。今回の件、どうしてもアイラとフォルを引き離せない。昨日捕まえたカルミアが馬鹿みたいに「道連れ」と繰り返している。お前ら二人を剥がすのは得策じゃない」

「……みちづれ?」

 思い出すのは、フェルナンド先生に捕らえられたカルミア先輩が何かを呟いていたあの口の動き。い、い、う、え……道連れ、……私を? フォルを!?

 ようやくあの意味を理解して、ぞわりと肌が粟立った。今回の北山の動きは、ルブラによるものだと確定したようなものではないか。

「お前ら二人を戦場に出したくないが、今回問題が起きたのはジェントリー領だ。次期公爵のフォルと近々発表の婚約相手が、力がありながらこの状況を見過ごす状況だけは作りたくない。隙を与えるべきじゃない。お前らの婚約が無かったことになればそれこそ道連れなんじゃないかという意見もある。ガイアス、レイシス、主が大切ならどうか堪えてくれ」

「了承しかねます、と言いたいところですが……班が同範囲なのですね?」

「先生、俺らは悪いが状況によっては班員よりアイラの護衛を優先しますからね? 学園退学させられてでも俺たちには最優先する立場がある。自分達が何をすべきかは決まってます。……フォルを信用しているので話は受けますが」

 完全にフォルと私、ガイアス、レイシスが同班のような扱いをするように詰め寄る二人に、先生が頭を掻き毟りながら「だよな知ってた!」と叫ぶ。……う、うちの護衛がすみません……。

「ったくそれでもお前ら優秀なんだから困ったもんだ。俺もお前らを信用してるからな、上手くやれっていうか上手く立ち回れ……ラチナ、今回は耐えてくれ、前線には出るな。その代わり、医療科は救護隊として別陣を構えることになる。そこでアニーとトルドを副隊長として指揮をとれ。デュークは言わずもがなだが王都内の魔物駆除総指揮だ」

 先生が焦ったように話を続けていく。時間がないのだと理解して、私たちも話を聞きながら手を動かし戦闘準備の為に必要な薬剤をポーチに詰め込み、武器の状態を確認する。

「騎士科は他の教師が既に班分けをしている筈だ。ちなみにアイラ、お前が特殊科だけを護衛につけて、北山もしくは城裏手の隣接した山で植物を頼りに魔物を屠ることはできるのか?」

「……無理です。少しくらいならアルくんがいれば力を貸してくれたとしても、エルフィの力は基本精霊頼み、万能ではありません。いくら魔力を渡しても、精霊が毒である血を植物が浴びてしまうのをわかっていながら、魔物の大量虐殺なんてこと了承するわけがありません」

 山や森など植物が多い場所は緑のエルフィの天下といっていい。だが、あくまで精霊が力を貸してくれる場合、だ。

 彼らの力を借りて魔物を屠る、つまり傷つけるとなれば、その血液が周囲に飛び散ると思ったほうがいい。私達は防御魔法でそれを回避したとしても、血を浴びた植物が、土が、安全である保障はない。……だからこそ、魔物の討伐は特殊なのだ。北山以外での殺傷の場合、血液を始末しなければならない。

 こちらを守るような力の使い方ならエルフィの力も使えるだろうが、魔物を殺すために力を使うのは非現実的、頼んでも断られるのは間違いないだろう。……私の力は役に立たない。

「ちっ……いや、アイラや精霊が悪いんじゃないんだ、すまん。わかった。……俺はアドリの様子を見てくるから、デューク、後は頼んだ。ああ、グラエムはまだ寝てるな?」

「あ、それでしたら、悪いとは思ったのですけれど睡眠の術をかけさせていただきましたわ。昨日の状態から動かれては困ります、ドクターストップ、ということで」

 小さく手をあげたおねえさまが、一応王子の指示です、と王子を見る。それを見て先生は一つ頷いただけで、部屋を慌しく後にした。

「……準備急げ、すぐに出るぞ!」

 王子の声に、私達は部屋を飛び出したのだった。



「おおおお我が女神! 同じ班であることを祈っておりますよ……!」

 集合場所に集まると既に騎士科、医療科共に揃っており、まず飛び込んできたピエールが、いつもの調子に見せかけて私に何かをこっそりと手渡してくる。

 それをちらりと見て一瞬止めずにいたガイアスとレイシスが、流れるような動きでいつもの笑みを浮かべピエールを引き剥がすという一連の動作をする。その間誰しもが皆いつもと同じように見せていたのは、人目があるからだろうか。

 手渡されたのは、地図だった。最も魔物が集まっているとされている箇所を書き出してあるようだ。

「へぇ、彼の情報収集能力もなかなかだね」

「つまりはこの場所を避けろっていいたいんだろうけど」

「ま、必然的に俺らが固まって動くなら一番きつい箇所に回されるだろうけどな。……ここだとしたら戦力が欲しいな」

 何気ない振りを装いつつ皆が注目するのはやはり、北山に接した学園と城の裏手にある山だろう。

 教師達が声を張り上げている。その中に、フリップ先輩やハルバート先輩、ファレンジ先輩の姿が見えた。そして、隠れるように珍しくラビリス先生の姿が見えて、少し驚いた。彼が人前に、しかもこんなに集まっている中で姿を見せるのは珍しい。人見知りが直ったわけではないようで、すごく存在感を消そうとしているようだけれど。

「アイラ!」

 急にフォルに名前を呼ばれたかと思うと伏せさせられ、どこかで悲鳴があがる。その瞬間、視界の先でごとりと氷の塊が落ちた。


「おお、さすが特殊科、助かった! おい! この魔物入りの氷、誰か血を漏らさず心臓貫くか完全に焼却してくれ!」

 騎士科の教師が叫ぶと、騎士科から数名が飛び出してそれを処理していく。……どうやら頭上を魔物が飛んでいたらしい。ラビリス先生に驚いて反応が遅れてしまった。

「フォル、ありがとう」

「どういたしまして。鐘が鳴ったから外に出る人間は余程じゃないといないだろうけど、家屋を攻撃されるまえに魔物を消さないとまずいな、デューク」

「ああ。すぐに動く」

 王子が周囲を見渡しながら、おねえさまを連れて教師達がいる前方へと歩き出す。

 騒がしかった生徒達も、王子を中心に波紋が広がるように静まって落ち着きを取り戻していく。

 王子が振り返り、それぞれを見渡した。教師がほっとして、班分けを発表し生徒達を分けていく。班長となる特殊科の生徒の名が呼ばれると、私たちも気が引き締まった。

 王子が、剣を手に声を張り上げた。


「ここにいるのは、学園の生徒であるが既に我が国誇る優秀な騎士! 民の命と生活を護る為、その力を貸して欲しい! 私に続け!」

 

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