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「アイラちょっとこーい」

 騎士科が依頼を終え戻ってきて、皆で夕食を食べた後。

 ガイアスに手招きされて部屋を出た私は、レイシスと一緒にガイアスの部屋に集まった。

 こうして集まるのは久しぶりに感じる。ガイアスが声をかけて集まると、大抵は魔法についての話だったりする。もちろん、学園に来る前から続くものだ。

「それにしても今日の試合……レイシス、お前どう思った?」

 三人でテーブルに集まって話出すのは、やっぱり今日のことだった。

「……正直少し悔しいかな。本当にお嬢様の護衛から外されるかと思った」

「俺も、俺らはアイラより間違いなく修行時間多いはずなのにちょっと驚いた。やることが予測できるのに、時々予想外なことやらかすから」

「……それ矛盾してるよガイアス」

 突っ込みつつも、そうかな、と試合を振り返る。

 レイシスの試合では、予め二枚破り取っていたグリモワのおかげでぎりぎり引き分け。

 ガイアスとの試合では私は負けたのだ。……あとちょっと、だったとは思うけど。

「レイシスの試合を見て、アイラのグリモワには注意してたんだよ。でもまさか、本体が小さいまま迫ってきてたとは思わなかった」

「グリモワ本体は大きくして防御、もしくは振り下ろして鈍器として使うだけだと思っていました。小さいまま使われたのは予想外」

 二人はしきりに感心しているようだが、私だってレイシスが大魔法に見せかけて風の刃を使ってきたのは予想外だったし、ガイアスがあそこまで鎧の防御の操り方が上手くなっているとは思わなかった。ガイアスとの戦いは押し切れずに負けたし。

 そんなことを話していると話は盛り上がり、あーでもないこうでもないと魔法の談義が続く。確か昔はこんなことをしていると、カーネリアンから「話してる内容、濃すぎ」と突込みが入ったものだ。止める人間がいない今どうなるかはお察しである。

「でもアイラの怖さはそこじゃないな。長期戦はやばい。なんたって回復があるし、聖騎士の怖さもそこだよな、回復が上手く使える奴はじわじわ追い込む長期戦を仕掛けられない。逆にこっちが追い詰められる」

「確かに。……俺はきっといつのまにか、忘れていたんですね」

 レイシスがそう呟くと、顔をあげた。目が合って、思わずどきりとする。

「……お嬢様。俺は守りたいばかりに、その方向がおかしくなっていたみたいです。……あんなに昔から一緒に稽古をして、お嬢様の気持ちはわかっていた筈なのに」

「レイシス……」

「護りたいという気持ちは変わりません。けど、……最近の俺は、お嬢様の心まで護れてはいなかった」

 すっと居住まいを正したレイシスが、頭を下げる。

「申し訳ありませんでした、……アイラ、俺は護衛失格だったかもしれない。もう一度、チャンスを」

「え、ちょ、レイシス」

 慌ててその頭を上げてもらおうと立ち上がる。謝って欲しいわけじゃなかったのだ。わかって、もらえれば。もちろん、護衛をやめてなんていわない。レイシスが護衛から離れることがあるとすればそれは、本人の希望でやめるときだ。

 ガイアスに促されたレイシスが顔をあげると、少し戸惑ったような表情を浮かべていて。

「正直、すぐにこの気持ちがなくなるかはわからないんです、お嬢様。それでももう、わかったから。……もう、困らせたりしない」

「……あのね、レイシス。私も……その。無茶しすぎてたんだよね、きっと」

 護衛を困らせるようなことをした事がないといえば嘘になる。

 でも、私はやっぱり二人は護衛だけれど仲間で。

「はい、終わり終わり! いつまでも謝罪合戦してたらお前ら終わらないだろ」

 パチンと手を叩いて間に入ったガイアスが、にっと笑う。

 きっと、すぐには変わらない。それでも手探りで私達は明日を迎える。

 大丈夫。きっと、王子の婚約も、薬の問題も解決して、私達は三年生になる。そう考えて笑みを零した時。


「おい、アイラやレイシスもここにいるか?」

「ん? デューク?」

 ガイアスの部屋の扉の向こうから聞こえる王子の声がどこか硬く、慌ただしい。思わず眉が寄り、レイシスと目を合わせる。

「まさか……でもなんで」

 ぽそりとガイアスが何かを呟き、視線を上げ時間を確認した。つられて私も確認し、もうそろそろベッドに入ったほうがいいかもしれない、という遅い時間であったことに気づく。話に夢中になっていたせいか眠気があるわけではないが、そんな時間に王子が私達を探しているなんて、あまりいい予感がしない。

 顔を覗かせた王子は、しばらく逡巡したあと結局何も言わず、ただ私達に下に集まれと言って背を向ける。

 ……うわぁ、やっぱりいやな予感しかしない。

 どきどきと下の部屋に戻ると、そこにいたのは私達だけではなくて。顔を強張らせたおねえさまに、ルセナとフォルもいる。

「ラチナ、アイラ。……落ち着いて聞け」

「……そんなこと言われると逆に心臓煩くて大変なんですけど」

「そうですわ、デューク。……いったい何がありましたの」

「そうか。そう、だな。俺も落ち着かないんだ、悪い。……アニー・ラモンが誘拐された」


「……え?」


 言われた言葉を理解できず、息が止まる。

 じわじわと背筋から這い上がる冷たい何かが全身の肌をぞわりとなで上げた時、悲鳴のように「どうして!」と私とおねえさまがほぼ同時に叫んでいた。

 視界に、表情を歪めたガイアスの姿が映る。聞き間違いじゃない。


 誘拐。


 アニーが。


「どうして……アニーが。アニーは、無事なんですか?」

 なんとかして声を絞り出す。手がカタカタと震えている気がしたが、それをぎゅっと握り締めることで誤魔化した。

「……実は、伏せられているが今朝、レディマリア・リドットが騎士と寮を出たところで逃亡している。……いや、正確に言えば、何者かに連れ去られた」

「え!?」

 レディマリア様も、誘拐? いや逃亡? 何がどうなっているの?

「騎士の見解だが、レディマリアを連れ去ったのは侯爵お抱えの裏の人間だったのではないかと見ている。……この前アイラたちと戦った男がいただろう」

「あの変態ですか?」

 王子の話が上手く飲み込めないながら、とにかくせめて話を聞き漏らすまいと手を握り締めて王子を見つめる。

「まあ、その変態だ。あいつの肌に焼印があった。奴は吐かないが、どうみても奴隷の烙印だ」

「は……? 奴隷って……その制度はもう」

 唖然とし開いた口が塞がらない。思わず抱いた嫌悪感に眉が寄る。

「その烙印と同じ印がレディマリアを連れ去った人間の肌に見えたらしい。あの男、リドットの作るあの薬に関与している可能性が高い。つまり誘拐というよりは」

「助けた可能性の方が高い……?」

 おねえさまが呟くように言うと、王子が搾り出すような声でそれを肯定した。

「……そういうことだ。攫われたように見せかけてな。もちろん本当の誘拐の線も捨てきれないが、そちらを追っている最中にアニーの誘拐を知った」

「でもそれじゃ……どうして、アニーが……」

「それがわからない。ただ……こちらが掴んだ情報によるとどうやらアニーは「協力しなかった罪」と言われて攫われたようだ」

「協力? 何のことだ」

 がた、と大きな音がしてそちらを見ると、立ち上がったガイアスが、低い声で前のめりに王子に尋ねる。だが、王子は眉を寄せたまま首を振った。そこまでつかめていない、と。

「ただ、リドットが関与していると思われるだけだ」

「なんだよ、それ……それじゃまるで……」

 ガイアスがぽつりと苦しそうに呟く。

 協力しなかった罪。……それじゃあなんだかアニーが、まるでリドット家に協力するのが前提だったような言い方だ。


「……でもなんでそれなら、『誘拐』?」


 しんと静まり返った部屋の中で唐突に、ルセナがぽつりと呟く。その意味を理解して、息を飲んだ。

 もし今回のアニーの誘拐がリドット家によるものだったとすれば、何かで協力しなかったらしいアニーは殺されていてもおかしくない状況だったのかもしれない。

 それが誘拐ということは、……何かに利用される……?

「そうだね。デューク、誘拐ってことは、相手が何かしら言ってきているってこと? 大体、協力しなかった罪ってどこからの情報? 身代金要求でもあるの?」

「いや、ない。直接騎士が聞いたわけでもないが確かだ」

 フォルが畳み掛けるように王子に尋ねると、王子はきっぱりと身代金については否定した。でもそれなら確かにそんな攫った人間の話を知っているというのは妙な話で……あ。

 もしかして、グラエム先輩?

 ふと、根拠もなしに、しかしそういった情報を持っている可能性があるのは彼ではないかと予測する。消えたレディマリア様を追っている途中で、精霊がアニーと犯人の会話を聞いた、とか。……その光景が自分の能力に置き換えるとありありと想像できて、確信に近い考えになる。

「それで……アイラ」

 必死に飛び出してアニーを助けに行きたいという思いと戦いながら、なんとか冷静に対処しなければともがき、呼吸を整えようと目を閉じてすぐ、唐突に名前を呼ばれて顔を上げると、王子が眉を寄せ、申し訳なさそうにしているのに気づいた。

 瞬時にガイアスとレイシスが立ち上がり眉を寄せているのが見えたが、私は話の続きを促すために王子を見つめた。

「あの男……烙印の男から、誰の奴隷か聞き出したい。情報は全て。だが、あいつは困ったことにどうやっても口を割らん」

「……はい」

「あいつは、お前が来て一つだけ質問に答えてくれれば証言してやってもいい、と言っている」

「……は?」

 険しい声で疑問の声をあげたのは、ガイアスだ。

「そんなの、自白剤でも拷問でもすればいいだろう」

「薬がきかない。そのほかも無理だ」

「あの変態野郎……」

 忌々しげにガイアスが吐き捨て、レイシスも険しい表情だ。けれど。

「本来であればそういわれてもお前を出すつもりはなかったし、ありえない。だが、時間がない」

「行きます」

 はっきりと宣言した私に、今回ばかりは抗議の声はあがらなかった。




いつもありがとうございます。


クリスマス番外編もなんとかクリスマス中に自サイトで更新予定です。間に合えば…。

メリークリスマス!

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