9 サキュバスの力、お披露目
愛川は護衛二人の無意識に潜入した。
その無意識の世界は潜入前の光景、像が並んだところと変わりなかった。
にゅるじに拘束されていないということを除いては。
「すごいでしょ? サキュバスはこうやって目を見た相手の無意識に入り込めるのよ」
倒れた護衛へ視線を向けつつ、愛川は語る。
さらにこの世界についても話を続ける。
「そして私は無意識の世界を支配できるの、こうやってね」
愛川の言葉と共に世界が180度回転する。
今の愛川と護衛の見える光景は先ほどの光景が人物、通路全てが上下逆に見えていたのだ。
まるで世界の上下が反転したかのように。
「「上下反転!? そ、そんなことがあるとは……ぐあっ!」」
護衛二人の言葉が終わった瞬間に彼らはお互いにぶつかる。
愛川が手を叩いて、引き合わせたのだ。
「分かった? こういうこともできるの。私が無意識の世界に入ったということは」
「「あ、あぁ……」」
愛川の説明のさなかに護衛二人の声が漏れる。
ぶつかった彼らは周囲を転がり回っていた。
そして護衛は転がりまわり、黄色と緑の混ざった玉となる。
「た、助けてくれ……」
「大丈夫、これで終わりにするから」
護衛たちの懇願にこれで終わりと愛川は告げる。
愛川は両手の距離を広げていた。
「はい、どーん」
そして声と共に両手を叩く。
瞬間、黄色と緑の玉は弾けて消滅した。
消滅して、その破片もない。
この世界から彼らはいなくなったのだ。
「よし、これで終わりっと。はやく、柄池君を探さなきゃ」
終わりを確認して愛川はこの世界を出るために自身を透明化させる。
元居た現実の世界に戻り、自身は護衛二人の頭から飛び出るように一飛びをして、通路に着地する。
傍ら、彼らは意識を失っていた。
「半日ぐらいは双子のように感覚共有するけど、後はいつも通りに暮らせるから。それじゃ少しの間、眠っていてね」
聞いてはいないが、愛川は一応のつもりで護衛二人に告げる。
にゅるじは拘束の必要がないと知って、こちらの元へと戻る。
『すごいにゅす。愛川さんはこんなこともできたにゅすか』
「まあね。サキュバスであればこれくらいはできるのよ。元の世界のサキュバスはそれ以外にも出来ることがあったりもするけど、相手の無意識に入ることや、軽いめまいや幻覚を見せることも基本はできるの」
にゅるじはこちらの手に触れて意思を伝えると、愛川はサキュバスについても語る。
『この姿で柄池さんに会うのは不味いにゅすよ。戻る方がいいにゅす』
「あ、そうね。人間の姿に戻らなきゃ」
『あと、石垣がライオロスさんに愛川さんの正体について話したってことを聞いたにゅす。ライオロスさんも愛川さんの正体を黙っているって言ってたにゅすよ』
愛川は言葉と共に人間の姿に戻り、にゅるじは愛川の正体について話す。
「あ、石垣さん、口利きしてくれたんだ。助かるわ。それじゃあ、そろそろあの部屋へ行かないと」
『行くにゅす』
愛川は向かうことを話すとにゅるじも同意をして、ポーションビンへと戻る。
その会話の後に自身はロカリア王女がいるであろう部屋へ向かう。
愛川は護衛の守っていた部屋へと着く。
移動中に特に城の人間に会うこともなく、ここまでは順調に事を進めた。
時間はそれほど立っていないはずだ。
「さて、ここね。王女のいる部屋は。にゅるじもいつでも出れるように準備はしていてね」
『了解にゅす』
愛川は準備をしておくように話すと、にゅるじは了解する。
「柄池君に何をしているんだー!」
言葉と共に愛川はドアを開ける。
すると、ある光景を視界に入れる。
「495、496、497、498、499、500。つい腕立て伏せまで500回やってしまいましたわ。これで私の気持ちも整理が……」
ロカリア王女はベッドの上でなぜか腕立て伏せをしていたようで、愛川はその光景を目にする。
柄池は離れたところで棒立ちをしていた。
先にこちらに声をかけたのはライオロスである。
「愛川殿! 今の柄池殿は意識がありません! 王女の操り人形同然です!」
「そうなの? やい、王女! なんのつもりよ!?」
ポーションビンに入ったライオロスからの説明に、愛川はロカリア王女を問い詰めた。
「えっと、それは……」
問い詰めにロカリア王女は言葉を詰めてしまう。
このことから愛川は一つの結論を出す。
「やってくれるわね。まさか柄池君が何もできないからって、腕立て伏せで間接的誘惑をするなんて! 随分レベルの高い焦らしをするじゃない!」
愛川は結論を出した。
その結論の後に沈黙が流れる。
「……え、ええ、そうですわ。余裕があったので焦らせてみようと」
「そう。でも、予想より早い登場で計算でも狂ったようね」
ロカリア王女から説明をされて、得意げに愛川は自分が来たことを語る。
彼女はまずいと表情を浮かべてもいた。
愛川自身の登場はタイミングが良かったようで、得意げ気分がさらに掻き立てられる。
ライオロスは愛川に語る。
「それと柄池殿は意識を持たない状態。なのでここで起きた事は分かりません、例え見られてまずいことでも」
「そう? だったら、あれでも」
ライオロスの説明に愛川は一つ考える。
サキュバスになっても柄池に分からないなら、ありがたいことだと。
その様子の中、ロカリア王女はベッドから離れて、歩みを進める。
「しょうがないですわね。ここまで来るようなら私も……」
「ともかく、柄池君を解放しろー!」
ロカリア王女が歩きつつ話し、柄池の解放を愛川から求める。
その解放の要求に彼女は耳を貸さず、壁に掛かったハンマーへと手を伸ばす。
「お断りですわ、断固として」
そう言って、ロカリア王女はハンマーを振るう。
自身の体長と同じ長さのものを片手で、だ。
「どうやってあの護衛を退けたかは存じませんが、慣れないこの武器でもあなたは十分でしょう」
「あの武器を軽々と振るうなんて、だったらこっちは……」
慣れない武器と言いながらも、軽々武器を振るロカリア王女の姿に愛川は驚きの言葉を言う。
今の人間の姿であれば、避けるのだけで精一杯だろう。
ならばと、愛川はサキュバスの姿で戦うことを選ぶ。
「最初からこの姿で戦った方が、最善ね」
そう言って愛川はサキュバスへと変わったのであった。
「あら? サキュバスだったの、あなた? でも、そう簡単にことはうまく運ばないと言っておきますわ」
その姿を見てロカリア王女は動じる様子もなく呟く。
すると、にゅるじは密かに愛川の腕に手を伸ばしてきた。
『愛川さん、ちょっと提案が』
「え、なに?」
『少しの間、別行動をしたいにゅす』
「何か考えが?」
にゅるじの提案に愛川は小声で受け答えをする。
そして、にゅるじからの具体案が愛川の頭に流れた。
「分かった。どうなるかは分からないけど、賭けてみる価値はあるから、お願い」
こうして愛川はにゅるじからの案を受け入れて、ロカリア王女との戦闘が始まる。




