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25.水色ビキニ

*****


 アキラんことやさかい一生縁なんてないかもっておもてたのに、結局のところ、至った、訪れるに至ったわけや。


 案外や、案外、東京サマーランドは、見るからに素晴らしい。


 手ぇ引いてやりながら、敷地に入った。

 アキラっちは不満げな顔浮かべやって――って、にしたってなんでおまえはそこまで不機嫌そうなんさ?


 ともあれ、うん、まあええわ、よしとしたろう。


 とにかく、東京サマーランドにおるわけや。


「えっとっと、アキラっち、どないする?」

「ま、待ってろよ。おまえは大人しくしていればいいんだ」

「バインバインすぎるバインバインのおまえに、オレは尽くせと?」

「バインバインはともかく、あ、ああ、そうだ、尽くせばいいんだ、あたしは誰にも媚びないし、へりくだらないぞ」


 なんの話や?

 ともあれ、アキラっちは、まあヤバい。

 何がヤバいって、浅黒い肌、しっかり整った下半身が剥き出しなんがとにかくヤバい。

 今んとこ肌は下半身のみ――ってことは、アキラっちはまだまだ肌見せきってはおらへんのな。

 上には淡いグレーのパーカー着てやるんや、バインバインを隠してやるんや、恥ずかしいんかな?。

 オレのほう見やると、「えへへ、えへへ」となかば気色悪い笑い方をしやった、恥ずかしいだけやないんかな?


「アキラぁ、パーカー脱いだれや。それはそれこそ、目減りするもんやないんやぞ?」

「あーっ、それは迂闊であさましくて厚かましい意見なんだぞ」

「そのへん、詳しくは、なんでや?」

「なんとなく、だっ」

「おまえはホンマにかわいいなぁ」

「うるさいやい」


「で、どないすんねんな。水着ナシ決め込むんやったら、早々に帰ったろかぁ?」

「やややっ、ヤだよ」訴えかけるように、アキラっち。「せっかく来たんだ。遊ばないと――じゃんか……?」


 その案には賛成、こちとら高い入場料はろてやってるんやしな。


 アキラっちはいつもどおりオレの左隣に申し訳なさそうに立ってるんやけど、そったら意外や意外、しなだれかかってくるや否や、「やっぱやべー」とか、のっぴきならなそうに言いやった、こういうシチュエーション、初めてやけど、絶対アリやなって思う、マジ尊いし、愛おしい。


 当該施設はめっちゃ広い。

 くり返しになるけど、高い入場料をはろただけの価値はある。


「なあ、イクミ」

「うにゃ、なんや?」

「あたし、こんな大っぴらなプールなんて、ガキの頃以来なんだ」

「ガキの頃って、今でもおまえはガキやろうが」

「ってことは、おまえもガキなのか?」

「せやからこそ、守ったらななってな」

「ど、どうしてだ?」

「男やからや」


 アキラはオレの左腕をぎゅっと抱きやった。

 そこにあるのは期待? それとも好意なんやろうか?


「き、期待してるぜ? それと、おまえのこと、嫌いじゃないからな」


 ――どっちもやったらしい。



*****


 なおも、サマーランドは広い。


 アキラはパーカーを脱ぎやって。

 ついに多くの肌を面前に晒しやった。

 惜しげもなく上半身、あからさまに見せやった。


 明るいブルーのビキニスタイル。


 何がって、とにかくデカい。

 なんやこの胸は、そのデカさからして大いなる夢か希望でも詰まってるんか?


 せやからこそ、なおのこと、守ったらななっておもた。

 とりあえず、まあ絶対、アキラんこと、誰からも守ってやらな。

 それが男としての、あるいはカレシとしての役目やろうって強く感じた。


 にしてもホンマ、ブルー――っていうか、水色の水着は、浅黒い肌に映えるなぁ。


 そのへん、訊ねた。

 なんで「その色の水着、選んだんや?」って。


「じ、じつはさっちんとみゆきちに相談したんだ。見てもらったんだ」


 まあ、そうやろうな。


「あたしは白とか黒かなって思ってたんだけど、この色がいいんじゃないか、って」


 ……ヘンか?


 先達て感じたとおり、ヘンなわけがない。

 むしろ、ベストなチョイスってカンジ。


「さっちんとみゆきちは見る目があるらしいな」

「ほ、ほんとうか?」

「いや、ホンマに」

「なら、良かったんだ」って、アキラはほっとしたように、照れくさそうにわろた。


「にしたって、ヤバいな」

「なにがヤバいんだ?」

「いや、それ、フツウの水着なんやろうけど、ちっちゃく見えるさかい」

「ま、またバインバインだってか?」

「うん。だって乳首が隠れてるくらいしか――」

「やめろぉっ! そういうことは言うなぁぁっ!!」


 両手で顔を覆ったアキラっち。

 ホンマ、なんてかわいいんやろう。


 つくづく、守ったらなな。

 ホンマに、身体を張って、守ったらなあかん。


 アキラはオレのもんや。

 実際、「アキラはオレのもんやぞ」って口にしたった。


「な、何を偉そうに」とか言われた。


「せやけど、おまえはオレのもんなんやぞ」


 アキラは顔を真っ赤にして、ほんまに照れくさそう。


「いいっ、言ってろ、馬鹿野郎」


 ああ、なんて愛おしく、また愛らしい存在なんやろうか。



*****


 夜の、オレんちでのアキラっち。

 アキラっちってば、なんや、じつは昼のプールの件について不満があったらしい、男どもに観察されまくったかららしい。

 見られるくらい、やっぱりべつにええやんっておもた次第なんやけど、だってアキラっち、おまえはきちっと美女なんやから。


「ちゃっ、ちゃんとあたしは見てもらえなかったぞ。がんばって、カワイイかっこしてたってのに、おまえはしげしげと見てくれなかったんだぞ」


 ちゃんと見てへんかった?

 しげしげと見てへんかった?

 そんなことはないはずなんやけど。


「いい、いや、嘘だ、じつはきっと、しっかり見られちゃった」とか、アキラっち。「マジ、女の胸のどこがいいんだ?」

「どうしようもないエロさがあるんやよ、そこには」

「ばっ、馬鹿だ、おまえはやっぱり馬鹿だっ」


 あのさ、アキラ。

 なんだよ?


「おまえ、胸元にほくろがあるんな」

「ななっ、なななななっ」


 かあええなぁ思う。

 かわええなぁって結論づけた。

 アキラの可愛さはある種の凶器。

 自覚してええんやぞ、そのへん、とっくに。


「ちょ、ちょっと待ってろ」


 アキラっちは手提げのバッグ持って、オレから見えへんとこに姿消しやった。

 あるいは帰りやったんかな? って思う、そんなわけある? ないか。


 そのうち、アキラっちが姿ぁ見せやった。

 なんとまあ、現地でも着てたあった水色のビキニ姿――。

 ヤバいな、何がヤバいって、やっぱ胸がこぼれ落ちてまいそうなんや。


「なんでそないなカッコするんや?」

「いいだろ、べつに。あたしの勝手だ」


 なぁ、アキラ。

 と、問いかけた。

 アキラは「あたしはあたしの好きにするんだ」と宣言した。


 尊ぶべき結論や。

 もはや信じた道、行くしかないな。


「正直、正直な?」アキラはじつに真剣そうに。「ともすれば嫌な言い方だけど、ナンパされるのはわかってたんだ」

「そりゃそうやろうな」と、オレ。「客観視のなれのはてやわな」

「まっ、守ってくれたじゃんおまえ、なんだかんだいっても」

「いや、守ったらなあかんやろ」

「あっ、ありがとうな」

「どういたしまして」


 オレはぺこりと頭ぁ下げて、そったら今度は会釈が返ってきた。


「浅黒い肌とかさ、気にしたこと、あるか?」

「ないよ。絶対にそないなこと、ない」

「おまえはわかりやすいな」

「なんだんだ言っても、持って生まれたものってアイデンティティなんだ。間違ってるか?」


 まあ、そうや、そのとおりや。

 なぁんも間違ってない。


「だだっ、だだだだだっ!」

「あっはっは、いつにも増してどもりやるなぁ」

「うぅっ、うるさいやい。ちゃんと話を聞けってんだ」

「なんやぁ?」

「だだっ、抱き締めて、くれないか……?」

「は?」

「い、一度だけだ。こんなこと、言うのは一度だけなんだぞ」


 ええんか、そないなことして?

 そう問うと、アキラはどことなく不機嫌そうにほっぺ膨らまして頷きやった。


 オレはさっと立ち上がると、アキラの左手を掴んで身体を引き寄せて、力強く抱きしめた。

 アキラはびっくりしたように「うっ」って声ぇ上げてから、感じやったみたいに「あっ……」って言いやった。


「ら、乱暴だぞ」

「せやったら、なんで抱き返してるんな」

「そ、それは」アキラは言うと、今度は「あっ、あはは」って戸惑ったようにわろて。

「するかぁ?」

「何をだよ……って、わかってるんだけど」

「するかぁ?」

「やだよ、まだ先だ。嫌じゃないんだ。い、いつでもできるだろ……? だからもうちょっと先にしたいんだ」


 楽しみはとっておきたいってか、なんとなく、理解できるような気がした。


 水色の水着姿のアキラんことと、密着してた。

 アキラは観念したように、らしくもなく、「好きなだけ、抱き締めていいぞ」と言って、オレんことにカラダ、預けてくれた。


 ここ最近にあって、ホンマ、リアルに、めちゃくちゃ幸せな瞬間やったんや。


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