24.ツ・イ・アー
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知らんうちに突入してしもた、何にって夏休みに。
高一のそれなんて気楽なもんやなって思う、逆説的に唱えれば再来年あたりはどないな感じなんやろう。
案外フツウに大学行こうとしたりしてるんやろうか――必死に勉強に精出してる自分ってのは、なんやあんまり想像できへんねやけど。
アキラんちにいる。
昼飯ごちそうしたるから来い言われたんや。
お好み焼きや言う。
アキラの家族にはすっかり受け入れられたみたい。
最初は「白すぎる風貌」もあって――やろう、物珍しそーに見られたんやけど見慣れるもんらしいわ、今となっては「イクミくん、イクミくん」言われてる。
にしてもこの季節、どれだけエアコンの効いた部屋でもホットプレート焚いてたら――。
「あづい……」ダイニングテーブルに頬杖ついて、オレはアホみたいに疲れた顔をする。「おまえ、頭悪いんか、アキラっち。夏ののっけにお好み焼きとか、なんの苦行や」
「う、うるさいやい」アキラは今日もどもってみせやると、てこ一本で器用にお好み焼き、ひっくり返しやった。「ほら見ろ、あたしのテクに隙はないんだっ」
「オレの夜のテクにも隙はないぞ」
「ば、馬鹿だ、おまえは。おまえは歩く猥褻物だっ」
ったく、ひどい言われようや。
どうあれ二人して「熱い暑い」言いながら、はふはふ、お好み焼きを頬張った。
ちゃんと「オタフクソース」つこてくれてるあたりに思いやりを感じたとか感じへんかったとか。
「知ってたか、アキラっち、もうすっかり夏なんやぞ?」
「知ってるよ。汗かくからな、胸の谷間のが特にうっとうしいんだ……って、はっ?!」
あたしは何を口走ったんだ!?
とばかりに目を白黒させたアキラは、麦茶をごくごく飲んでみせやった。
「ふぅん。やっぱそうなんか」
「そそ、そうなんだけど……って、なんだよ。思ったより興味示さないじゃんか」
「あん? 興味示したほうがええんか?」
「そそそ、そんなわけあるかよ」
「大は小を兼ねる、ってな。ちっこいよりデカいほうがええんやぞ、きっと」
「そそそそ、それはなんだかひどい言いようだ。女性の胸に対するある種の中傷であり、冒涜だっ」
なんとも難しいこと言うた挙句、また勢い良く、アキラは麦茶をぐびぐび。
いっぽう、オレはありがたいことに用意してくだすったおにぎりをぱくぱく口にする、やはり梅干し味というか梅が入ってると至高、ぱくぱく。
「うぁっ、マジでコナモノで米食べるのかっ」
「ソースには米やろ」
「うわっ、うわわっ」
汚いもんでも見るみたいな目ぇ寄越しやった。
「ところで、シャルにぃは元気か?」アキラはオレの兄貴をもはやそないなふうに呼びやる。
「元気やよ。またアキラに会いたい言うてた」
「おっ、ホントか?」
「嘘や、アホゥめ」
ひどいぞ、おまえは、ひどいんだぞ。
言うて、アキラは口尖らせやった。
「LINEしたい言うてた」
「誰とだ?」
「せやから、アキラっちと」
「へっ、そうなのか?」
アキラ嬢と接しているときのおまえは、いささか、いつもと違うようだ。
シャルの兄貴がそないなふうに言うてたって打ち明けると、アキラはきょとんとしてから、腹ぁ叩いて笑いよった。
「わかってんじゃん、シャルにぃは。そうかそうか、はっはっは、はっはっは」
「兄貴もチチのデカい女は嫌いやないんや」
アキラはいよいよ、これまた目ぇ白黒させて、いよいよ取り乱してみせた。
「おおおおぉ、おまえたち兄弟はヘンタイだ、揃ってヘンタイだっ!!」
「正直者は偉いんやぞ」
「ににに、にしたってだな」
「ああ、そうや、アキラ、いっそや、いっそ」
「いっそ、なんだよ」
「海かプール行こう」
アキラは「ぅぐっ」と息飲んだ様子で身ぃ引いたんやけど――。
「そろそろ言われるんじゃないかって思ってたよ」
少々意外な受け答えに、オレは驚き、「へっ?」て目ぇ丸くした。
「えっ、そうなん?」
「なっ、ばっ、あっ、あくまでも、可能性の問題として、だっ」
「バインバインやのに、ええのん?」
「バインバイン言うな、バインバイン言うなっ」
ふぅん。
そないに鼻ぁ鳴らして見つめてやると、アキラは胸の前で両手を交差させて、「見るな見るなっ」って言いやった。
オレは右手の人差し指をピンって、真上に立てた。
「たとえばやアキラっち、去年とか、水辺には行ったんか?」
「いいぃ、行ってない。行くわけないだろ?」
「せやのに、今年は行ってもよい、と?」
「おぉっ、おまえが行きたいんだったら、って……」
おぉ。
おおぉ。
なんてラブリーな回答やろうか。
「あ、あっ、で、でも、いいんだ。おまえがあたしの、えっと、水着姿とか、他の男の目に触れさせたくないとかいうんだったら――」
「いや、べつにそれはええよ、そのへんは。ええやん? べつに。見るだけならタダやろ? 減るもんやないんやし」
「おおぉ、おまえはやっぱりヘンタイだ。ヘンタイでサイテーだっ」
「ビキニなんやろか」
「ばばば、馬鹿、死んじゃえっ」
アキラは両手で覆った顔をそむけやる。
そむけながらもおにぎりを手に取ってそれをもぐもぐ食べるのはどういう了見やろう。
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さっちんとみゆきちと三人でラゾーナ川崎のゲーセンにおる。
二人からの呼び出し――「UFOキャッチャーオゴれ!!」ってことやった。
それなりに書いたエッセイをそれなりの値段で買い取ってもろてるオレのことを知ってて、そんなオレにたかってるっちゅうわけや。
まあ、ええんやわ。
さっちんもみゆきちも、メッチャかわいいしな。
アキラはアホゥで愛おしいけど、空気読めるくだんの両名かて愛らしいんや。
とりあえず万券渡したった。
二人は「ありがとー」ちゅうてそれぞれほっぺにちゅってしてくれた、嬉しくて目の前がちかちかしたくらいや、たは。
ええんや、ああ、ええわいや。
オレは二人のためやったら、喜んで「パパ」になったろうって思うんや。
「さっちん質問や、みゆきちでもええんやけど」
さっちんは「ほいほい?」と小首をかしげ、みゆきちは「なあに?」とこれまた小首ぃかしげてみせやった。
「アキラっちはさ、二人の前で、可愛らしい水着とか、着てみせたこと、ありやんの?」
するとさっちんとみゆきちは顔を見合わせて。
さっちんがオレの隣に並んだ。
道中スタバでこうたカフェオレを、二人してちぅちぅ。
みゆきちは「ハチワレぇ」とか苦しげに言いながら、実際、ハチワレ、ねろてやる、今日日のUFOキャッチャーは簡単なもんやないらしい。
「着るわけないじゃん、あのコが、人前で、水着とか」
「あっ、やっぱそうなん?」
「着たいって?」
「そないな感じぃ」
「うっわ、やっべ、たつわぁ」
「ぬれるの間違いでは?」
でひゃひゃひゃひゃ。
――などと、品なくわろたさっちん氏。
「邪魔しない邪魔しない邪魔しない。絶対に邪魔しないからぁ」
さっちんの物言いに、オレは眉を寄せた。
そったら、さっちんはニコってわろて。
「行ってきなよ、海でもプールでも。そのへんは自由」さっちんはカフェオレのストローをちゅーっ。「でもさ、写真、見せてよ」
「写真?」
「うん、撮るでしょ? アキラのそんな、あられもない姿」
オレは顎に右手やって、少し考えてから、「まあ、撮るわな」言うた。
ややあってから、ふと口元に笑みが浮かんだって誰のって、オレの口元に苦笑みたいな笑みが。
「さっちんよぃ、アキラはやっぱ、元から女のコ、やりたかったんちゃうかな」
「どうしてそう思うわけ?」
「だってアキラって、めっちゃかわいいやん」
「まるで答えになってないみたいだけど」さっちんはあははとわろた。
つられてオレも、あははとわろた。
「あいつが女のコやりたいっていうんなら、オレがやらしたらんと」
「一生を誓える?」
「誰に?」
「私に」
おうよ。
敢然と言うて、オレは握った右の拳を突き出した。
さっちんはにっこりわろて、グータッチに応じてくれた。
みゆきちー、帰るよーっ。
さっちんにそないに呼びかけられても、みゆきちは「ハチワレが、ハチワレがぁ」言うてUFOキャッチャー――当該ぬいぐるみにご執心やった。




