血の痕跡を辿って
山道に点々と染みた赤黒い血の痕。その痕跡を辿って魔女メディシアスは山中に分け入っていた。
レドンの村から真っ直ぐに続くその血痕が親友のものであろうことに心を痛める。
「レムリカ……」
大きな三角帽子に引っかかってくる木の枝や蜘蛛の巣を杖で払いながら、念入りに地面を調べながら歩く。目的地である山奥の遺跡まで行くだけなら飛行術式で空を飛んでいけば早いのだが、これは親友の足跡を辿る調査なのでそうもいかない。それにメディシアス自身もこの調査をいい加減には済ませたくなかった。
レドンの村から山奥の遺跡まで続く血痕は徐々に染みの大きさを増していき、遺跡の入り口付近で夥しい量の血溜まりとなる。
これは一人や二人の血の量ではない。この場所で大規模な戦闘があったのだろう。想像するにそれは一方的な虐殺であった可能性が高い。
その虐殺を行ったのは間違いなくあの複製体だ。体の半分が岩で構成された魔導人形の肉体。現場の惨状からして、とてつもない腕力で炎熱術士フレイドルの一派を叩き潰したのだろう。
あの怪物はあろうことかメディシアスが愛した親友の姿を写し取っている。それが亡き親友の意志によって生み出されたものだとしても、アレがレムリカを名乗ることには激しい忌避感を覚える。
血溜まりから先、遺跡の中にも血の痕が続いている。それはもう点々としたものではなく、血を含ませた箒を引きずったかのような痕だった。
これほどの出血では疑いようもなく人間ならば致死量に達している。それでもまだ遺跡の奥へと続く血の道に、メディシアスは痛ましさを感じて顔をしかめた。
「苦しかったでしょうに……怖かったでしょうに……どんな想いでここまで……」
溢れそうになる涙を拭って、遺跡の中を隈なく調べ尽くす。何か一つでも友の痕跡があるならば拾い上げようと。
念入りに一刻ほども要して遺跡の中を調べたが、そこにはあるべきはずのものが存在していなかった。
「やっぱりないわね……」
遺跡の最奥にひときわ大きな血溜まりが存在し、血の道はそこで途絶えている。
おそらく親友の彼女はここで亡くなったのだろう。それは間違いないのだが、辺りに遺骸は見当たらず、肉片一つ、骨の一欠片さえ落ちてはいなかったのだ。
一つ気になる物があるとすれば、それは血溜まりの中心にあるもの。
血溜まりの中心には古い時代の魔導回路を刻まれた大岩が鎮座していた。回路は酷く劣化して機能を完全に失っている。一級術士のメディシアスにもこの旧時代の魔導回路は読み解けない。復元は難しいだろう。どのような効果があった魔導回路なのか、その片鱗すら想像することはできなかった。
「神話の時代の魔導刻印……。人がより扱いやすく改良した魔導回路の起源、神秘さえ含んだ魔導の源流。現代の魔導技術とはかけ離れすぎているかしら」
だが、もしもこれが魔導の増幅装置であったなら、あるいはもっと直接的に人の体を作り変える機能を持ったものであったなら、不可解にも消えてしまった親友の骸の行方にも見当がつく。
「例えアレがあの子の意志で生み出されたものだとしても、役目は既に終えたはず。そのはずなのだわ」
杖を握りしめる指に力がこもる。
「友の恥辱を世にさらしておくことはできない。できるわけがないかしら」
遺跡の調査は終わった。もうこれ以上、調べる必要はない。レムリカの遺体がここにないという事実で、答えは示されたのである。
「可哀そうなレムリカ。あの子はあたしが必ず取り戻す」





