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ゴーレム&レプリカント  作者: 山鳥はむ


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恐るべき獣

 四匹の雄牛人を討伐した私は、雄牛人達が拠点としていた水場付近を調べて回っていた。雄牛人はなぜこの水場にたむろしていたのか。

 よく見れば水場付近のそこかしこに、葉が付いたままの木の枝を組んだ簡易的な天幕が作られていた。その中には火を通した獣の肉が幅広の葉っぱに包まれて保管されていた。

(……食糧を貯め込んでいた……? その日暮らしの狩りで生活する雄牛人がなんで?)


 今回の特例討伐依頼の前に、雄牛人の習性については冒険者ギルドから大雑把に教えてもらっていた。私としてはギルドの資料室でじっくり調べたかったのだが、大事な書物を破損されては困るということで資料室には入れさせてもらえなかった。確かに私の岩の手では書物の頁をめくる際に破いてしまうかもしれない。読書は好きだったので、こうした障害によって本から遠ざけられてしまうのはひどく悲しかった。

 仕方なく、雄牛人の特徴だけ口頭で教えてもらったのだ。ギルドとしても重要案件であるBランクの特例討伐依頼に必要なこととなれば協力は惜しまないようだった。


(……でも、そうか。冒険者もこうやって協力し合って森の外からの脅威に対処してきたんだ……)

 レドンの村でも村長のおばば様を中心にして、一丸となって難題に当たってきたはずだ。一人で何でもこなすのは難しいし、効率がいいとも言えない。数が多いこと、協力し合うこと、それは強みになる。

 だがそれは、雄牛人達にも当てはまることだ。個として強い者達が集団として行動する。その脅威を目の当たりにして私は背筋が寒くなった。

 数を集め、食料を貯め込み、雄牛人達は何をしようとしているのだろうか?


 ふと恐ろしい予想が頭に浮かびかけたとき、森の中から藪を掻き分けて、のしのしと歩いてくる大きな獣の気配を感じ取った。

 ――いや、気配というにはあまりにも濃厚な威圧感。

 普通の獣が発する気配ではない。そもそも森の獣とは自らの気配は極力隠すものだ。あえて威圧することがあるとすれば、それは縄張りを主張するときなど。


 では、ここは何者の縄張りであったのか。


 どしん、と大きな蹄を有した脚が地面を踏みしめて揺らす。全身から立ち昇る黒い靄と、赤く輝く瞳がただならぬ存在感を放っている。

 姿形は雄牛人。だが、先ほど討伐した雄牛人達より一回り以上も大きい巨躯と禍々しい気配は、それが尋常の生き物ではないことを明確に示していた。


 一目見て、わかった。

 こいつは魔獣だ。


 呪術を教えてくれたお婆様から話にしか聞いたことはないが、幾つもの特徴が魔獣のそれと一致する。そして何より、お婆様に言われたのは『見ればわかる』ということだった。その意味が今ではよく理解できる。圧倒的なまでの異質な存在感。並みの生物には到底発することのできない不快な気配は、この世の中において魔獣という存在以外には放つことのできないものだ。


 あれが今から私が戦う相手――。


 雄牛人の魔獣は右手に頑丈そうな斧を握っており、それにもまた黒い靄がまとわりついている。なにかしらの魔力を込めて武器を強化しているのかもしれない。

 辺りに散乱した雄牛人の死骸を見回して、魔獣は考え込むような仕草をする。しばらくして己の仲間がやられたと理解したのか、憎々しげに歯を食いしばりながら、その場で地団太を踏み始めた。

 体から立ち昇る黒い靄はより活発に湧き立ち、不快な気配はますます強まってくる。ぎょろり、と雄牛人が赤い目を私へと向ける。


 思わず一歩、後退あとずさった。

 気が付けば喉はひりつくほどに渇き、足が震えている。

 ……まずい。これは恐怖だ。

 初めて魔獣と遭遇した恐怖のあまり、体が強張り動かなくなっている。

 棒立ちで迎え撃つのは危険だとわかっているのに足が動かない。


 野生動物の狩りなら経験があった。対人戦闘だって、つい最近に経験したばかりだ。

 でも、それらの経験が全て吹き飛んでしまうほどに、魔獣から放たれる威圧感は恐ろしく、足が竦んで動けなくなるものだった。


 ――グゥゥウウオオオオオォ――!!


 雄牛人の魔獣が吠え猛り、ついに私に向かって突っ込んできた。

 武骨な斧を背中まで大きく振りかぶり、地響きを立てながら駆けてくる。

 速い!?

 その動きを目で追った時にはもう雄牛人の魔獣は目前に迫っていた。

 一際強く一歩を踏み込み、上半身の筋肉が隆起する。

 振り下ろされる斧の威圧感に背筋が冷たくなるも、どうにか勇気を振り絞って岩の両腕を掲げ、私は雄牛人の攻撃を防いだ。


 がぁあん!! と、痺れるような衝撃が腕の奥まで伝わってくる。

 衝撃の勢いで後ろに押され、尻もちを着きそうになるのを必死にこらえて踏ん張る。雄牛人は執拗に、両腕の防御の上から何度も何度も左右に切り返しながら斧を振るってきた。

 一般に魔獣は知能が高いと言われているが、目の前の魔獣はむしろ知性を投げ打って無茶苦茶に殴りかかってきていた。防戦一方の私に対して、雄牛人は口の端を愉悦に歪ませ、涎を溢れさせながら一心不乱に斧を叩きつけてくる。


 こいつはたのしんでいる。

 魔獣化して高まった知性は、獲物をいたぶる嗜好へと変化したのかもしれない。

 最悪だ。

 これが魔獣という生き物の悪質性なのか。


『……重き斧(グラビス・セキュリス)……』

「はっ……!?」

 ぼそりと、雄牛人の魔獣が意味ありげな言葉を呟く。その瞬間に斧の攻撃が重みを増した。

「嘘っ……!? こいつ今、魔導を使った!?」

 ずっしりと重みを増した斧の痛撃に耐え切れず片膝を着く。頭の上に掲げた岩の両腕から細かい石の破片がパラパラと落ちてきたのを見て、私は血の気が引いていくのを実感した。

 この硬い両腕も無敵の防御ではないのだ。


「ううぅ……うわぁああああ――っ!!」


 恐怖が生存本能を呼び覚まし、震えていた足が力を取り戻す。

 片膝を着いた状態から勢いよく立ち上がり、交差した両腕を斜め前に振りぬいて雄牛人の斧を弾き返した。

 よろめいて後ろへと下がる雄牛人の魔獣。

 その間に私は体勢を立て直して拳を前に構える。岩の両腕に細かい傷が付いてはいたが、深い亀裂などはない。


「……やってやる。魔獣がなんだっていうの。私は負けない……」

 私はまだ、戦える。


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