FILE22 招かねざる者の侵入
見張りの番が川田に変わったのは、時計が20時を過ぎた辺りだった。
『なんだか外がやけに騒がしい気がする。』
川田が入り口を見ながら不安気に呟いた。シャッター越しにゾンビの唸り声が合唱のように幾重にも重なって聞こえる。
『何故こんなに集まってるんだ?…まさか‥匂いで判断してるのか?』
川田はベネリM3を握り締めると注意深く外の気配を探った。外では以前よりもゾンビの数が多くなっているような気がした。
ガシャンガシャンとシャッターが叩かれ、騒音が響いている。
『こりゃ一応荷物まとめた方がいいな。』
川田は二回への階段を登り、部屋のドアを開けた。
中では嶋村が布団で眠っていたが、岡本は上下二連散弾銃を握り締めて、僅かに開いたカーテンから外を眺めていた。
『岡本さん、なんだか外に一杯集まってきています。万一の事を考えて荷物をまとめた方がいいですね。銃弾と食料、後は医薬品もあるだけ。』
川田が窓から外を覗くと、シャッター周辺にゾンビが12、3体集まってシャッターを叩いていた。
『そうじゃな。あのシャッターもそう長く保ちそうにない。早く荷造りして備えねば。嶋村君は寝かせておこう。1日色々あって疲れたんだろう。』
川田と岡本は階段を下り、リュックの中にそれぞれ銃弾の箱や、食料、
医薬品を詰めていった。
『さて、荷造りはこれぐらいだな。とりあえずの準備は整ってるが‥かなえ達と合流しなきゃならねぇのにできなかったな。』
『夜間は危険だろう。あまり出歩かない方がいいぞ。ましてや、周りはゾンビに囲まれておる。』
岡本も困ったように返答した。
『死んだと思われてるのかな俺達。それよりかなえ達の方が装備も少ないんだから危険だ。そいえば岡本さんは車持ってますか?』
『あぁ、もちろん持っとるよ。いざとなったらあれで出よう。』
岡本は棚から車の鍵を取り出すと、チャラチャラと振って鍵を見せ、ポケットの中に閉まった。
その時シャッターがより一層激しく叩かれた。
『とうとう来たか‥思ったより早かったな。岡本さん、嶋村を起こしてきてください。俺は時間を稼ぎます。その間に車の準備を。それと、裏口から出る時も油断せずに。』
川田はベネリM3をポンピングし、ショットシェルを装填する。頼もしい金属音が室内に響いた。
『分かった。君も無理なぞするなよ。』
岡本は足早に二階へ上がり、嶋村を起こしに行った。二階から嶋村を起こす大声が聞こえた。
シャッターは多大な圧力に限界と言わんばかりに軋んで悲鳴を上げていた。
そして、シャッターの下部が破損し、隙間からゾンビが這い出してきた。
歪に破れたシャッターで肉を裂きながらも、川田を食おうと這ってくる。
『クソ野郎が!俺を餌食にしようなんてテメェらなんざにゃ甘いんだよ!』
川田は這いずっているゾンビに向かってショットガンを発砲した。
轟音がし、ゾンビの頭部を見事に破壊する。頭部の無くなったゾンビは痙攣して動かなくなった。
その仲間の屍を乗り越え、更に大きくなった穴から女のゾンビが這い出してくる。川田はそれに向かってベネリM3を発砲し、絶命させる。更に穴に向かって全弾発砲した。
穴の周りは血みどろになり、散弾でぐちゃぐちゃになった肉片やらが散らばっていた。
『こりゃ気の弱いヤツが見たら吐くな。しばらく肉は食えねぇだろ…』
そう呟いていると二階から慌てて岡本と嶋村が下りてきた。
『大丈夫か!?』
二人はシャッター付近を見て口を押さえた。
『もちろん。それより車の準備を頼みます。』
川田は釣り下げたバンダリングからショットシェルを抜き、ベネリM3にリロードした。
岡本は裏口の鍵を開けると、ショットガンを構えて嶋村と躍り出た。
数発銃声が轟き、何かが倒れる音がした。
川田はフル装填したショットガンで、既に屈めば通れる程の大きさになった穴に構えてポンピングする。
それを合図にゾンビがぞろぞろと現れる。二体程穴から侵入してきていた。
『これじゃあキリねぇじゃねぇか。』
川田は素早く二体の頭部に発砲し、永眠させる。
『おーい!準備できたぞー!川田早く!』
裏から嶋村の声が聞こえた。川田はリロードしながら外に出ると、エンジンを噴かせ、ライトを点灯させたワゴン車が待機していた。
川田はドアを開け、車に乗り込むと周囲を見渡した。ゾンビが店の横や、裏口から溢れてきている。
『早く出すんだ!』
川田は岡本にそう告げると、岡本は掴まってろよ!と言い、車を発進させた。




