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第九話 秋月環奈

 弥勒はクラスメイトの女性からから正真正銘の悪意を向けられる。しかし慣れている弥勒は、女性の敵意を削ごうと試みる。

 教室に戻った弥勒みろくは、いつもの調子を取り戻し、マイペースに一日を過ごすことができた。

 校長に指摘された、意識を内側へ向けすぎるという欠点。それを改善する様に心掛けていたら、悪意は思い込みによるものも多いのだと悟った。それは彼がこの九州という他人の土地に馴染む為に、必要なものだった。

 その日の内に数人が声をかけてきてくれたが、それはいい方を変えれば、大多数は興味すら持っていないということだ。弥勒みろくは生まれ育った街を出てみて、自分の存在は他者にとって、悪意を向けるまでもない程度の価値しかないことを思い知った。

「惟神の陵王なんて、舞楽を知る人しか興味無いよなぁ。名前が大層だから、皆なんとなくは知ってるみたいだけど」

 取り敢えず、クラスに馴染んで九州に地盤を固めることが肝要だ。今日はよくやったと思いながら、帰ろうと思った。帰りの家は、すめらぎ家の従者が既に用意してくれていた。

 扉を開けて教室を出ようとした時、中に入ろうとしたクラスメイトとぶつかった。

「ごめ……! 大丈夫?」

 弥勒みろくの問いは無視され、差し伸べた手は、邪魔そうに避けられた。

「早くどきなさいよ、ウザイんだけど」

「ごめん……」

 生徒は教室に入って、机の中に入れていた忘れ物を回収した。その席の生徒は授業中、秋月環奈あきづきかんなと呼ばれていた。

 今朝、自分を謗った声に女性の声が含まれていた気がする。それでさえ自分の記憶が生み出した過去の声だと思ったが、その声の主がこの女であると、弥勒みろくは思った。

 どこに行っても、人を見下す馬鹿はいる。田舎は人の心が綺麗だと父は言っていたが、例外はいるものだと、そう思った。

 秋月が去った後、弥勒みろくも教室を後にした。


 翌朝、登校中に声をかけられた。妙に優しい声だったが、それが巳代みよであることはすぐに分かった。

「どうだ馴染めそうなのかそっちは」

「そうだね。良くも悪くも品川とあんまり変わらないよ」

「そりゃあ本当に、良くも悪くもだな。俺は昨日、デケエやつに絡まれた」

「へぇ、それは災難だったね。なんて絡まれたの?」

「タピオカってまだ流行ってるのか、ってな。流行ってるわけねぇだろ古いんだよ。情報が古いんだよ、田舎者いなかもんが」

「まぁもう一年くらい経つもんね……でもそれって絡まれてるとはいわないんじゃ」

「俺がダルいと思ったら、それは絡まれてるってことになるんだよ」

 巳代みよとの会話で、秋月が自分に絡んだ理由がわかった気がした。きっとあの女は都会に恋焦がれているんだろう。

 それはすぐに確信に変わった。秋月は惟神学園の生徒では珍しく、伝統文化や勉学にはあまり興味がなく、よく福岡市へ赴いては、普通の女の子になりきっているらしかった。

 特段、仲良くなりたいとは思わない。でも、いつまでも舐められたままでは、居心地が悪い。

「やるしかないな……必殺奥義を」

 弥勒みろくはそれから数日、人を介しては、秋月と接する機会を増やした。そしてさりげなく、リアルの東京を感じられる様な話やプレゼントを続けた。

「人の敵意を削ぐ方法。必殺奥義、プレゼント攻撃だ……! 秋月さんは平安時代から続く九州の豪族、原田氏の末裔らしい。貴族の末裔だらけのこの学校でも、そんじゃそこらの家よりは尊い家だ。きっとインターネットも自由に使えない程の厳しさだろう。話だけでも刺激的だろうけど、プレゼント攻撃なら……落とせる!」

 弥勒みろくは、秋月が好きなアイドルの、専門ショップ新宿店限定品や、なぜか未だにパンケーキと同列に語られるタピオカの取り寄せなどを行った。

 まるで賄賂の様に、家の人間に見つからない様に、秘密を共有していく。秋月は狙い通りに、徐々に心を開いてきた。

 そしてある日登校をすると、後ろから肩を叩かれた。

「おはよう、皇弥勒すめらぎみろく

 それは秋月だった。弥勒みろくはようやく障壁が一つ、消えた気持ちだった。しかしそれ以上に、ただ純粋に、声を掛けてくれた事が嬉しかった。

「おはよう、秋月さん。今日も一日頑張ろうね」

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