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第二二話 日出町

 常夜とこよへ入る条件である、思いの交錯。稲葉の案内で、大分県内にある「交錯する場所」へ向かい、一行は山中へと入っていく。

 稲葉が運転する車が先導し、一行を載せた車は血の池温泉から北上して、山中へと入っていった。目的地に到着する頃には日没し、殆ど夜となっていた。

 車を降りると、そこにはなにもなかった。しかし妙に開けた土地が広がっている景色は、ここが山中である事を鑑みれば、おかしなものだと弥勒は感じた。

 誰もがなんとなく不気味さを感じている中、初めに口を開いたのは、秋月だった。

「だだっ広い平野が、なんでこんな山ん中に広がってる訳。薄暗くなってきたし、あとなんか……八月なのにちょっと寒いのはなんでなの。伊東なんかほら、震えてるじゃない」

「寒いのも震える理由の一つではあるけど……不気味じゃない……!」

 伊東は感じ取っていた。それは直感とも本能ともいえる、理屈では無い感覚によるものだった。

「おい稲葉、種明かししろ。ここはなんなんだ?」

「まぁ焦るな有馬、聞かれなくても教えてやる。ここはな、墓地だ。だがただの墓地じゃない。ここには、この地の人々に受け入れられていない人々が眠っているんだ」

「どういうことだ?」

「ここ日出町ひじまち共同墓地には、外国人が眠っている。この大分の地に縁もゆかりも無い外国人がな」

 日出町は、修文二八年頃より、物議を醸す町となっていた。それは別府ムスリム協会によって作成された墓地等経営計画協議書に端を発する、ムスリム用土葬墓地の建設事業が原因であった。

 同町は土葬墓地の建設を受け入れたが、別府ムスリム協会が近隣住民へ説明会を開くと、たちまち反対の意見が相次いだ。

 その理由の殆どは、縁もゆかりも無いムスリムの骨を埋める事に対する疑問と、焼却しない遺体から流れ出す物質が土壌や、川へ流れ出す環境汚染の懸念という真っ当なものであった。

「町の人々は、反対の陳情書を幾度も町議会へ提出したが、それは頑なに容認されなかった」

「どうしてだ? そんなに異教徒が大切なのか。ここは人種のるつぼを謳う福岡でもないただの片田舎だ」

「だからこそだ。金がない片田舎だからこそ、金を持った連中の献金や支持に、議会は逆らえない」

「つまりは……別府ムスリムに多額の金を握らされたということか。公的にのみならず、私的にも」

「概ね、そんな所だろうな。つまりここは大分で最も、慈悲や愛、憎しみや嫌悪といった感情が渦巻いている場所なんだ。どれだけ外国人が憎くても、実際に墓地を訪れ墓を目の前にしてしまえば、慈しみたくなるのが人の性だからな」

 稲葉は「この問題はこの町だけの問題ではない。大分、いや、九州全体の問題だ」と言葉を続けた。

 巳代は、項垂れる周囲の同級生らを眺めた。

 そして弥勒は、稲葉の言葉の意味を理解出来ずにいた。稲葉の言葉には、なにか具体的な意味を持つ様な、そんな気がした。

日出町ひじまち共同墓地……ムスリムが眠る土葬墓地。

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