17☆ 僕と二人のお姉ちゃん @1
嬉しい感想を幾つか頂いて、テンション上がった勢いで一話書き終わってしまいました笑
とてもモチベに繋がってます、本当にありがとうございます!
本日二話目、新章の始まりです。
どうぞ楽しんでいってください!
何やら祈祷さんの様子がおかしいな、と。
僕はそんなことばかりを考えていた。
挨拶をすれば普通に返事をしてくれるし、会話の内容自体にも違和感はない。
ただ、何となく避けられているような気がするのだ。
「うーん……?」
「どうした一叶。お前が悩むとか珍しいな。というか頭を使うとか珍しいな」
「毎度初手で喧嘩売るの止めない?」
僕は頬を引き攣らせながら言葉を返す。
開口一番に僕を貶してきたこの男は、勿論のこと道幸である。
いつもの調子で僕をバカにしてくる訳だが、何よりもムカつくのは、道幸は揶揄っているのではなく、心の底から「一叶が頭を使ってる!」って驚いていること。
恐らく僕を、猿以下の何かだと思っているのだろう。
しかしこの程度のことで怒っていると、一切話が進まなくなるため、僕は菩薩の心でスルーした。
「いや最近さ、祈祷さんの様子がいつもと違う気がするんだよ。気のせいかな」
「祈祷さん?……分からん、俺にはいつも通りに見えるな」
道幸は、チラリと祈祷さんに目を向けながら答える。
道幸はなんだかんだで相談すると真面目に聞いてくれるため、その言葉はそれなりに当てになるのだ。
やはり祈祷さんの件は、僕の勘違いなのだろうか。
そんな僕の様子を見兼ねてか、道幸は少し何かを考えると、祈祷さんに声を掛けた。
「ねぇ、祈祷さーん」
祈祷さんは本を読んでいたようだが、道幸の声に反応して顔を上げる。
「はい?どうしましたか、笹木さん……と、星乃さん」
「あ、ごめんやっぱ何もないや。わざわざ今話すことでもなかった」
「?……そう、ですか。分かりました」
祈祷さんはそう言うと、再び本に目を落とした。
唐突に行われた無意味そうな一連の会話。
一体何がしたかったのかと、僕は目線で道幸に問いかける。
「おい一叶。今の祈祷さん、お前の顔を見た瞬間に少し固まってたぞ。何かしたのか?」
「え、ホントに?なんだろ」
「嫌われるようなことしてないだろうな」
「…身に覚えがない」
しかし嫌われた、と言われるとそうなのかもしれないと感じる要素はある。
最近、祈祷さんに話しかけられる機会が急激に減ったのだ。
今まで理由が分からずにいたが、嫌われたのだとすると辻褄があう。
「ど、どうしようホントに嫌われてたら」
「どうしようってもなぁ…。今度さり気なく、理由くらいは聞いてやるけど」
「道幸、お前ぇ……。放課後に飯奢る……」
僕は良い友達を持った。
とはいえ、自分でも理由は考えてみるべきだろう。
それで思い当たる節があれば、どうにかなる可能性もある。
嫌われたのはショックだが、まだ無視される程ではないし、きっと取り返しは付くはず。
僕は溜め息を吐きながら、最近の祈祷さんとの会話を思い出していった。
「……ところで道幸、ずっと聞きたかったんだけどさ」
「なんだ?」
大きく話は変わってしまうが、僕には物凄く気になっていたことがある。
それは僕らが隠奏さんの家で、勉強会をした日のことだ。
「あのとき、どうやって隠奏さんの家から逃げたの?」
「ああ、大したことじゃない。『俺は瞳のことを抱きしめたいのにっ!でもこの手枷のせいで、俺はお前を抱きしめられねぇ……』って言ったら、すぐに手枷外してくれた」
純粋過ぎるぞ隠奏さん。
「それで抱きしめたの?」
「いや、ガン無視して全力ダッシュ」
「だと思った」
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
僕は今日の19時から、イノリちゃんとコラボ配信をする約束をしていた。
配信する内容はLoSの「クエストモード」と呼ばれる遊び方。
クエストモードとは、モンスターを討伐する対NPC戦であり、他のモードとはかなり毛色の異なるゲーム形式である。
クエストにはモンスター討伐以外にも様々あるが、やはり見ていて一番華があるのは討伐だということで、僕らは討伐を行うつもりだった。
現在の時刻は18時25分。
約束の時間にはまだ早いが、僕はクエスト受付場へと向かっている最中だ。
間違えてもイノリちゃんを待たせないように、という後輩としてのちょっとした計らい。
しかし。
「……あれ?イノリちゃんもう居るのか」
約束の場所に着くと、そこには既にイノリちゃんの姿があった。
バトロワ受付場の物と同じ、長方形型の机の前にちょこんと座っている。
「あ、カナエさん。お疲れ様です」
イノリちゃんは僕に気が付くと、笑顔で僕の名前を呼びながら、こちらに向けて手を振る。
それを見た僕もまた、小さく手を振り返した。
「お疲れ様、イノリちゃん。随分早いんだね。もしかして待たせちゃったかな」
「いえ、私も今着いたところです。待ってはいませんので、気にしないでください」
僕はイノリちゃんの言葉に軽く安堵を覚えつつ、イノリちゃんと同じ長椅子に座る。
丁度、隣合って並ぶような位置関係だ。
そして一息ついて横を見やると、イノリちゃんがホログラムを開き、何かを映しているのが分かった。
誰かの配信のような気もするが、僕の位置からだと詳細までは判断が付かない。
「イノリちゃん、何見てるの?」
僕は浮かんだ疑問を、そのままイノリちゃんに投げ掛ける。
「あ、これですか?クオンさんという方の配信です。実は少し興味があって」
「へー、クオンちゃんの配信か」
クオンちゃんと言えば、僕も追っている人気Vtuberだ。
そこそこ昔から応援していて、今でも頻繁に配信を開く程度には、僕もファンの一人である。
ただ今ばかりはクオンちゃんの名前を聞くと、祈祷さんがガチギレしてる姿を思い出してしまう為、あまり意識したくないのが本音。
「イノリちゃんも、クオンちゃんのこと好きなんだね」
「いえ、全然。どちらかというと嫌いです」
……………。
……………。
今嫌いって言った?
「え、なんで見てんの?」
至極真っ当な質問だと思う。
いやホントなんで見てんの?
嫌いなVtuberなんか見ない方が健全だって絶対。
僕がそんなことを考えていると、イノリちゃんは気まずそうにしながら、モゴモゴと話し出した。
「それには、その…。少しワケがあって…」
「?」
なんだろう、と思いながら僕はイノリちゃんの顔をジッと見つめる。
そして少しすると、それは意を決したような表情に変わり、恥ずかしそうに口を開いた。
「カナエさん、私の恋愛相談に乗って貰えませんか……?」
「んん?」
恋 愛 相 談。
突然に現れた想定外の単語に、僕は驚きに包まれる。
クオンちゃんと一体何の関係が、とか。
イノリちゃんの恋愛相談なんて僕に務まるのか、とか。
そういう話の以前に。
――僕、男だけど大丈夫?




