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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第04章 雪だるまは『雪妖精』にクラスチェンジしたい

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冬の始まりと私たち

 常緑の国と聞いていたのだが、やはり冬は寒い。

 それほど寒くはならないと聞いていたはずなのだが、冬は冬だ。

 寒いものは寒い。


 秋の終わりに正妃エレスチャルが奥宮を訪ねてきてから、私の生活は少し変わった。

 正式に学を授けてくれる教師が付けられることになったところまではいいのだが、その代わりイスラによる夜の授業がなくなってしまったのだ。


 秋の間はそれでも朝食を露台バルコニーで食べていたので、飛竜に朝の運動をさせるイスラが顔を見せてくれることもあった。

 しかし、冬の朝は寒すぎて、露台で朝食など無理だ。

 風邪を引く危険を冒してまで、無理にしていいことではない。

 イスラの顔は見たいが、前世ほど効果のある薬がない今世では、風邪程度の病気でもそのまま命取りになる。

 姫として、銀髪を持って生まれた王族として、それなりに自分の命には責任を持たなければならないという自覚はあるので、イスラ会いたさにして良いことと、悪いことの区別ぐらいはつく。


 ……とはいえ。


 近頃の私には、イスラ成分が足りない。

 夜の授業がなくなり、朝食時に顔を見ることもなくなった。

 ならば、以前のカーネリアのように昼の間に兵舎や訓練所までイスラの雄姿を見学しに行けばいいのだが、それもできないのが現状だ。

 正式な教師を付けられての授業が、昼間いまの私にはある。

 この授業時間のせいで、兵の訓練所まで足を伸ばすじかんがなかった。


 ……イスラに会いたい。


 深刻な推し不足である。

 そうは思うのだが、授業をすっぽかすという発想は、私にはなかった。

 学を求めたのは私自身だったし、仮に学を求めていないとしても、教師が与えてくれるのは必要な知識だ。

 雑学といった『遊び要素』であれば多少授業を聞き逃してもいいかもしれないが、今の私には雑学を『雑』と判断するだけの常識や知識が圧倒的に不足している。

 すべてを吸収する勢いで学ばなければ、いつまで経っても自分で行動を開始することもできない。


 ……あ、間違えた。


 イスラに対して『推し』という単語を使っていることに気付き、心の中で訂正を入れる。

 『推し』という感情タグを付けられることが、どうやらイスラは嫌らしい。

 イスラが不快に感じているのなら、私はこれを正していこう思う。


 ……イスラは、私の――


 好きな人、と心の中でだけ唱え、次の瞬間に一人で盛大に赤面する。

 誰に対して口にしているわけでもないのだが、認めてしまえば気恥ずかしいなんてものではない。

 私はイスラが好きなのだ。

 推しとしてではなく、異性として。

 

 ……誰かを好きになるって、なんでこんなに……気恥ずかしいの!?

 

 他者を好きになることは、良いことだと思う。

 好きの感情はいろいろあるが、異性愛であれ、親愛であれ、誰かを好きになれることは、素晴らしいことだ。

 そうは思うのだが。

 

 ……なんとなく、むず痒くて、ふわふわとする。

 

 あと少し落ち着かない。

 カーネリアが十四歳という『お年頃』だからこそ、こうも浮ついた気持ちになってしまうのだろうか、と考えて、白雪 姫子の人生を思う。

 

 白雪 姫子の恋愛事情といえば――

 

 ……あれ? 誰かを好きになった覚えが……?

 

 恋に恋した時期はあった気がするが、あれは本当に通過儀礼はしかのようなものだった。

 周囲の少女たちの雰囲気に飲まれていた、と今なら判る。

 

 ……もしかして、白雪姫子わたし自体、イスラが初恋なのでは……?

 

 恐ろしいことに、今気が付いてしまった。

 享年は思いだせないが成人していたという自覚のある白雪 姫子と、十四歳のカーネリアが条件的にはほとんど同じなのだ。

 むしろ、以前のカーネリアがイスラへの恋心を自覚していたぶんだけ、白雪姫子わたしの方が『遅れている』とも言える。

 『好き』を『推し』に変換し、自覚を意図して避けてきたという覚えもあった。

 

 ……十四歳こども以下の恋愛オンチ……っ!

 

 いろいろ気付いてしまえば、穴を掘って埋まりたい。

 これでは健康な成人男子として真っ当な欲を持っているらしいイスラには堪らないだろう。

 お互いに思い合っているらしいのだが、お互いに望むことが噛み合っていないのだ。

 

 前世で日本人であった記憶を持つ私は、十四歳ちゅうがくせいらしいド健全なお付き合いを望む。

 しかし、前世の記憶など持たず、初潮がくれば嫁入りも不思議ではないという文化圏で育ったイスラに『交際期間』という概念はない。

 わりと気軽に一線を越えてしまうことが、今世では普通のことらしいのだ。

 

 ……イスラも、これまで以上に明確かつ極太な一線を引くわけだ。

 

 自分の幼稚っぷりを自覚してしまえば、文句も言えない。

 健全なお付き合い――お付き合い? お付き合いと言えるのだろうか、私たちの場合――を希望する私に、イスラははっきりとした距離を取った。

 距離を取ったというか、以前のカーネリアと扱いが同じになった気がする。

 

 私がカーネリアになってからはイスラがこまめに様子を見に来てくれていたのだが、今は私から押しかけなければ顔も見ることができない。

 避けられているのではなく、これが本来の距離感なのだとか。

 

 ……十八歳まで待つために必要な処置、なんて言われたら文句も言えない。

 

 白雪 姫子としては、正直に言えば『いろいろ』と『アレ』で『ソレ』なことは思うが。

 カーネリアが十四歳と思えば、成人年齢を遵守したいと思ってしまうのが日本人というものだ。

 はっきりくっきりとした線引きをしなければイスラが耐えられないというのなら、それをさせている側の私が不満を言うのは間違っている。

 

 ……でも、もう少しなんとか……ならない?

 

 これまでは毎日、毎晩会えていたイスラに、時間の隙を見つけなければ会いにもいけないというのは、なかなかに苦行だった。

 

 ……春の女神様に祈ったら、少しぐらい春が早くなったりしないかな?

 そんなわけで、新章突入の連載再開です。

 とはいえ、まだ薄い本の原稿終わっていないので、しばらくは隔日更新の予定です。

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