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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第03章 雪だるまの自己改革新生活

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雪妖精の姫 2

 なにがイスラの地雷だったのか。

 それを解明したい気はするが、今は目の前のイスラである。

 推しを無視して、自分の考えに耽るだなんて、信者オタクのすることではない。

 

「とりあえず、今、可及的速やかに叶えていただきたい望みは、ヒメがものをよく考えることです」


 幾重にも念を押されたので、イスラのイラツボは考えなくても判明した。

 私が反射で答えたことに対して、イスラは怒っているのだ。

 

「好きだと簡単に言わないでください、誤解します。そう言った私に、ヒメは『誤解ではない』と言いました」


「はい」


「贈った毛皮が寝具になっていることについては、誤解であるとも」


「そこはエレスチャル様に教わったので、理解しました」


 直前までの会話の流れを、確認作業を交えながら再現されていく。

 改めて纏められると、私の発言の数々はまぬけが過ぎて申し訳がない。

 イスラに好きだ、好きだと言いながら、カーネリアのように命令はしたくないと言って、かと思えばカーネリア以上に無言の圧力をかけたりもしている。

 望めば応えると言われて拗ねたかと思えば――

 

 ……あれ?

 

 改めて考えれば、あの一瞬には違和感のようなものがあったのだ。

 イスラの声音が、いつもと少し違う、と。

 

「……あの、もしかして……? 勘違いだったら、少しどころではなく恥ずかしいのですが……」


 イスラからの「望めば、応えてくれるのか」という問いかけは、性的な意味が込められていたのだろうか。

 そんなはずはないだろう、と思いつつも、改めて会話を列挙されると、そう思えてくる。

 その少し前の、望んでくれれば応えるというものも、冗談ではないと仮定すれば、そちらの意味になる。

 

「……ようやく、ご理解いただけたようで」


「たまに自分がアホすぎて驚きます」


 さすがに、こんな内容を話している時に、反射だけで「なんでも望みを叶えます!」なんて答えられたら、怒るだろう。

 逆の立場だったら、私だって怒る。

 

 ……うん? と、いうことは?

 

「わたしが望んだら、イスラは応えられる、ってことですよね?」


 こんな太った子ども相手に?

 そんな気になるものだろうか、とは思うが、前世の記憶を引っ張り出してくれば、男の性欲に体型や美醜は関係ない。

 選べる場であれば選ぶが、『ヤれる』と判断できる状況であれば相手は選ばない。

 老女や赤子でも性犯罪の被害にあうのが現実なのだ。

 究極の話、性犯罪者かれらは穴さえあればなんでもいいのだろう。

 山羊や同性でも可とする性欲の持ち主たちに、法に従う理性をもった文明人たれと求める方が間違っている。

 

 ……いや、イスラを性犯罪者と同列に考えるのはどうかと思うけど。

 

 そうは思うのだが。

 

「イスラって……デブ専なの?」


「でぶせん……?」


「えっと……」


 太った女性が好きという性癖の人、と雑な説明をする。

 今の太ましいカーネリアにも応えられるということは、そういうことだろう。

 普通はくびれのある、お腹の出ていない女性を選ぶはずである。

 それなのに、カーネリアでも応じられるということは、そういうことかもしれない。

 

「どちらかと言うと、私は姫専ですね」


 覚えたばかりの単語を、早速アレンジして使ってきたイスラに、一瞬だけ理解が追いつかずに瞬く。

 それから、ゆっくりと理解した『姫専門』という言葉に、ますます混乱させられた。

 つまりは、『姫が好き』ということだ。

 その姫が、カーネリアか、白雪 姫子かの違いはあるが。

 

 ――姫とカーネリア様を分けて考える必要はありません。

 

 ふいに、昼間エレスチャルが言っていた言葉を思いだす。

 白雪 姫子とカーネリアに違いはない、という話を。

 本物も偽者もなく、白雪 姫子はカーネリアなのだ、と。

 

「……カーネリアに夜伽を命じられて、断ったって聞いているのですが?」


 背筋を下った腰のあたりに、ムズムズとした気恥ずかしさがある。

 期待と不安と、希望と切望の混ざった、もどかしさだ。

 自分は本物のカーネリアだなんて記憶も自覚もないのに、白雪 姫子としてイスラの言う『姫専門』の中に含まれる、と考えてしまってもいいのだろうか。


「何度でも言いますが、あの時はカーネリア様であって、カーネリア姫ではありませんでしたので」


 イスラの中では、以前のカーネリアと、今のカーネリアは明確に違うらしい。

 そういえば、イスラが以前のカーネリアを『姫』と呼ぶことはほとんどなかった気がする。

 イスラにとって『カーネリア様』は、『姫』のカテゴリーに入っていないのかもしれない。

 

「……じゃあ、本当に? わたしはイスラにとって、そういう対象になれますか?」


「ちょうどそこに、私の贈った毛皮が寝具になっている寝台がありますね」


 試されますか? と聞かれた言葉の意味は、今度こそ間違えずに理解したと思う。

 私の『そういう対象』は『恋愛対象になれるか』という意味だったのだが、イスラは『そういう対象』を『性欲の対象になるか』と受け取ったようだ。

 つまりは、直球で性的な意味でのねやへのお誘いである。

 

「た、試しませんよ! わたし、今十四歳なんですから!」


 なにを言い出すのか、と木の箱を抱いたまま一歩イスラから距離をとる。

 まさか、私が無意識にイスラから距離を取る日がくるとは、考えもしなかった。


「カーネリア姫は年齢にこだわりますね」


未成年こどもに手を出すことは、白雪姫子わたしが許しません!」


 日本人の感覚を持つものとして、絶対にそこは譲れない。

 片方が未成年である以上は、性交渉などもっての外である。

 たとえ今世の文化的に許されることであっても、だ。

 

「そうは言われましても、カーネリア姫の成人は次の春ですから……あと三ヶ月もありませんね」


日本ぜんせの成人年齢は二十歳で……あ、いや? 成人年齢は十八歳に引き下げられたんだっけ……?」


 ならば十八歳までは待ちます、とイイ笑顔をしたイスラには黙っておく。

 成人年齢は十八歳に引き下げられたが、女子の結婚は十六歳からできたという話は。

 

 ……あ、いや? 成人年齢が引き下げられた時に、こっちは引き上げられたんだっけ?

 

 いずれにせよ、意外な積極性を見せてきたイスラには、渡さなくていい情報である。

 三ヶ月で三段腹はならせないし、一年あっても難しいだろう。

 イスラは太っていようとも気にしないようだが、私が気になる。

 ボン、キュッ、ボンとした魅惑的な体ならともかくとして、このボン、ボーン! ボーン!! と感嘆符の増えていく体をイスラに晒せる気はしないのだ。

 

「……なんですか?」


 チベスナな表情が消えたイスラは、わずかに微笑んでいた。

 やはりからかわれたのだろうか、と拗ねた気持ちで軽く睨むと、今度ははっきりと笑みを浮かべる。

 

「やっと、異性として意識されたような気がします」


「そうですか? でも、イスラのことは前から……」


 『ごっど★うぉーず』というゲームの中で、女性キャラの推しはセラフィナだったが、男性キャラの推しはイスラだった。

 男性として見ていないということはなかったはずだが、と考えて、思い違いに気が付く。

 

 カーネリアになった私がイスラを極力『推し』として見ようとしていたように、この『推し』として見る姿勢が、『異性として意識されていなかった』になるのだろう。

 そういうことならば、確かに『推し』として見ていて、『男性』としては意識することを避けていた自覚はある。

 

「……イスラだって、わたしの中に本物のカーネリアを探しているじゃないですか」


 お互い様ですよ、と内心の申し訳なさを誤魔化すように目を逸らすと、頬へとイスラの手が添えられる。

 また丸々と太った頬を撫で回されるのかと思ったら、手は頬に添えられただけだった。

 そのままイスラの顔が近づいてきて、鼻先が触れる。

 目を逸らすことのできない至近距離に、私の頭は何を考えていたのか、またもポンっと昼間のエレスチャルの言葉を思いだしていた。

 

 ――妖精かなにかかと疑うほどの愛らしさでした。

 

 これは、イスラの幼少時についての発言だ。

 その直前までは、イスラの瞳について考えていた。

 ちょうど今、目の前にある、凍った湖のような青い瞳について。

 

 ……『雪妖精の姫』って『雪妖精イスラ』の『カーネリア』って意味かーっ!?

 

 少なくとも、エレスチャルはそういう意図でこの名を呼んでいたのだろう。

 『雪だるま』でも『肌の白さしか褒めるところのないデブ』でもない。

 

「ヒメ?」


「はひっ!?」


 至近距離すぎる位置にある青い瞳と、理解してしまった通称の意味に、バクバクと心臓がうるさい。

 申し訳ないが、今の私は大混乱しているので、今日はこのままお引取り頂きたいぐらいだ。

 夜にゆっくり会えるのは今夜が最後になるはずなので、そんな惜しいことはできないが。

 

「……私は今のカーネリア姫と、幼い日のカーネリア姫を別人だと考えたことは一度もありません」


 自分が見つめているのは常にカーネリア一人であり、前世ゲーム推しイスラと今世を生きる一人の男イスラを別人として見ている私とは違う、とイスラは続ける。

 二心あると、疑ってくれるな、と。

 

「はい、ごめんなさい。浮気者はわたしの方です」


 ゲームのイスラも大好きです、と自分が何を言っているのかも判らずに口にする。

 今判るのは、回答を間違えたら食われる、ということだけだ。

 極々稀に見る、怖くなるほどイスラの目が強く輝く意味が解った。

 イスラが隠すことをやめたから判明したともいう。

 

 これは、イスラが欲情している時の目だ。

「恋愛パートは亀の歩み(byあらすじ)」とはいったいなんだったのか。

 一足飛びどころか、助走をつけて十足ぐらい飛んでませんか、イスラさん。

 作者、未成年に手を出すのは絶対ダメ派なので、作中時間であと5年お預け喰らってください。


 次回から新章予定です。

 少しカーネリアの行動範囲が広がりつつ、イスラ回りも増える……はず。


 ところで、夏に向けて薄い本を作るので、一ヶ月ぐらい連載はお休みいたします。

 たまに息抜きに出没するかとは思いますが、今のところ連載再開はひと月後です。

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