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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第03章 雪だるまの自己改革新生活

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富の象徴

少しだけ生理ネタが出てきます。

苦手な方はご注意ください。

 ある程度覚悟はしていたが。

 いざ、本当にその時が来ると、意外とおもしろくないものだ。

 

 ……まあ、今までが順調すぎただけだよね。

 

 すでに恒例となっている気がするマタイを巻き込んでの体重測定は、二桁台まではあっという間に達成できたが、その後はさっぱりだ。

 あと少しで80キロ台に突入できる、というところで数字の変動が止まってしまった。

 そろそろ単純に食事の量を減らすのと、少しの運動程度では体積も質量も減ってくれないらしい。

 

 ……今の食事量にも慣れたし、もう少し減らす?

 

 今のままでは、運動らしい運動も難しい。

 すぐに膝を痛めてしまう。

 できれば、もう少し体重を落としたいのだが、今の私にはとれる手段がない。

 単純な方法として食事を減らすというものがあるが、過度に減らすのはまた別の問題が出てくる。

 それが判っているので、食事を減らすよりは、運動量を増やしたいのだが――その運動が今の私にはそもそもできない。

 

 ……ダメだ。どうにもならない。

 

 食事量を減らすのは、私の中で減量ダイエット方法として禁忌にある。

 愚者のすることだと思っているからだ。

 確かにものを食べなければ体重は減るが、そんなものは一時の満足で、食べれば当然また数字は増える。

 いや、もともとのカーネリアの食事量は異常だったので、異常な量の食事を減らすことはむしろ推奨したい。

 カーネリアのあれは、必要な選択だった。

 しかし、前世には必要ではない食事制限をして体を壊す少女たちもいた。

 

 問題は、必要以上に食事量を減らすことだ。

 

 過食は問題だが、拒食もまた問題を呼ぶ。

 さすがに拒食症に陥るほど食事量を減らすつもりはないが、意識はしておいた方がいい。

 

 ……ただでさえ、カーネリアは生理不順っぽいし。

 

 来ないことが快適すぎて忘れていたのだが、先日カーネリアになってから初めて月経があった。

 本当に、それまで考えもしなかったのだが、カーネリアの体は太りすぎて生理不順を起こしていたのだ。

 

 これが初潮だというのなら乳母たちがなにも言わなかったことにも納得するが、カーネリアの初潮は白雪 姫子よりも早かった。

 体の作りが日本人と違うのか、妹たちも年齢の割りに育っているものが多い。

 ならばなぜ、カーネリアの健康を管理しているはずの乳母や侍女が何も言わなかったのか、と言えば、単純に知識がないからだ。

 生理は必ず毎月あって、生理不順は見逃してはいけない体からの合図サインかもしれない、という知識が乳母たちにいはなかった。

 

「……あれ?」


 動かなくなった自分の体重に嫌気が差して、最初の目標を思いだそう、とローズを体重計に載せた。

 以前は57キロだったはずのローズの体重は、66キロに増えていた。

 前後1キロぐらいは誤差の範囲だと思うが、さすがに9キロも増えていたら、気のせいだとは思えない。

 

「なんで、ローズの体重が増えてるの……?」


 毎日一緒にいるので、数字を見るまでローズの体重が増えているとは気付かなかった。

 ローズの衣もカーネリア同様に、たっぷりとしたほぼ布だ、ということもあるかもしれない。

 この衣は、脱いでみなければ実際の体型がほとんど判らないのだ。

 いや、さすがにカーネリアクラスの体格になると、脱がなくとも雪だるまなことは判るが。

 

「も、申し訳ございません、姫様っ!」


 体重が増えている、と判明したローズは、秤に付けられた籠の中で土下座をした。

 初日にイスラがやっているのも見たが、この世界でも詫びる時にはまず土下座をするようだ。

 土下座の勢いでガタリと揺れた天秤棒を、マタイが腕を添えて支える。

 それだけの動作で天秤棒の揺れが収まったので、マタイの腕力は地味にすごい。

 

「えっと、ローズはなにを詫びているの……?」


 別に、ローズの体重が増えようとも、私に詫びる理由はないと思うのだが。

 頭をあげるよう促しても、ローズは土下座をしたままだった。

 

 ……でも、不思議といえば不思議だよね?

 

 ローズはカーネリアの侍女だ。

 場所によっては同行しないこともあるが、ほぼ私と行動をともにしている。

 

 つまり、最近は散歩や大部屋での妹たちの遊びにも参加することがあり、以前より運動量は増えているはずなのだ。

 これで太るというのは、少しおかしい。

 私でさえ、体重は少しずつ落ちているのだ。

 

 はて? と首を傾げていると、土下座の姿勢のまま固まって動かないローズの代わりか、マタイが口を開いた。

 

「姫さん、気付いてなかったのか?」


「なにを?」


「姫さんトコの侍女……つーか、乳母も含めて? みんな少しずつ肥えてっぞ」


「……そう?」


 初めて聞いたぞ、とマタイを見て、ジェリーへと視線を移す。

 マタイの例えの中に、ジェリーは含まれていなかった。

 チュニック姿のジェリーは、侍女と違って体型がなんとなく判る。

 毎日一緒にいることもあるだろうが、そんなに変わっているようには見えなかった。

 

「いや、そいつは獣人との間の子だろ。よく動き回ってっから、肉が付く暇もねェんじゃねーか?」


「なるほど……?」


 マタイは『混ざりモノ』や『卑しい血』とは言わないのだな、と違うところで感心をする。

 粗野に振舞うことが多いので、なんとなく獣人とのハーフであるジェリーを蔑む傾向の人間かと思っていたが、逆のようだ。

 粗野おおらかだからこそ、誰がどんな血を引いていようとも気にしないのだろう。

 

「……それで、ローズはどうしてわたくしに詫びているのかしら?」


 少しマタイと間をあけたから、もう話せるだろうか、とローズへと話題を戻す。

 もう大丈夫かと声をかけると、ローズはやっぱりビクリと身を強張らせた。

 

 ……え? そんな怯えるようなことなの?







 怯えるローズを、このままではらちが明かない、とマタイを使ってとりあえず籠から下ろした。

 天秤棒にぶら下げたままでは安定が悪く、危険だからだ。

 あと、籠の中で土下座をされると、顔が見えない。

 

 恐縮しまくったローズの話によると、太った理由は単純で、『食べすぎ』だった。

 欲張って毎食食べ過ぎた、と。

 

 ……これ、もしかして詫びるのは私の方では?

 

 ローズが食べ過ぎたのは、私が自分の食事を侍女たちに食べさせたからだ。

 彼女たちの食事量が増えたのは、明らかに私の責任である。

 

 そう思い、そのまま伝えたら、今度はいつもはできるだけ地表から遠ざけたいと衣の裾を持ち上げているぐらいの竜舎の地面に、ローズは額をつけて土下座した。

 違うのです、と。

 

「姫様は、わたくしどもに仰られました。『普通の少女の食事量が知りたい』と」


「……言った、ね?」


 たしか、カーネリアになったばかりの頃に、そんな話をした。

 カーネリアの食事量のすごさに、普通の少女の食事量が判らなくて、侍女に相談したのだ。

 普通の食事量の参考にしたいから、好きなだけ皿に取れ、と。

 

 ……あの時は、普通の女の子ってそこそこの量を食べるんだな、と感心した気がする。

 

 ぱんぱんに肉を包んだ生地オーチルが五つも皿に盛られ、驚いたような覚えがある。

 普通という量は、意外に多い、と。

 

「私は、あの時に欲をかき、必要以上に多くの肉をオーチルで包みました!」


「……まあ、その後、ちゃんと消費されたのなら、いいのでは?」


 欲をかいて多く取ったが、やはり食べられなくて捨てた。

 そう言うのなら怒るが、ちゃんと身についているように、欲をかいて多く肉を取っても、それをしっかり食べることで消費したのならいい。

 なにが問題で、ローズは謝っているのだろうか。

 

 ……でも、参考にした量がそもそも多かった、って言うんなら、もう一つぐらいオーチル減らしても、減らしすぎにはならない……ってこと?

 

 過度な食事制限は否定するが、適度な食事制限はむしろ推奨する。

 このぐらいか、と参考にしていた食事量が実は多かったというのなら、もう少しだけ食事量を減らしてもいいのかもしれない。

 むしろ、ただの偶然ではあるが、段階的に食事量を減らせた、ということになるのではないだろうか。

 

 ……やっぱり、謝られるようなことじゃないよねぇ?

 

 そうは思うが、ひとつだけ注意はしておこう。

 立ち上がるようローズを促しながら、太るほど食べるのはどうなのか、と。

 

「わたくしが言うのもなんだけど、太りすぎは体によくないよ」


「いや、ホントにそれを姫さんが言うのか」


「マタイ、黙れシャラップ


 茶化すな、と軽くマタイを睨みつける。

 今の私は正攻法の運動と適度な食事制限で減量中だ。

 カーネリアが太っていたことについて、白雪 姫子がどうこう言われる筋合いはない。

 

 ……まあ、以前のカーネリアと、今の私が中身別人だなんて、マタイが知るはずもないしね。

 

 そこは仕方がないのだが、だからといって茶化されたくはない。

 

「多少、太ったほうが……」


「うん?」


 やっと出てきた謝罪以外の言葉に、顔を向けてローズを見る。

 少し額に土が付いていたので、チュニックの袖で払った。

 

「多少、太っていたほうが……その……」


 多少太っていた方が、美しい娘としてモテるらしい。

 ローズによると。

 この世界生まれ、この世界の常識をもち、この世界で育ったローズによると。

 

「太っていたほうが……モテる……?」


「いや、姫さんはさすがに――」


「マタイっ!!」


 それはもういい、これ以上突っこむな、とマタイの耳を引っ張る。

 頬をつねるには肉が薄いし、鼻はなんとなく摘みたくない。

 

 どういう理屈か、と解説を求めると、なぜかマタイが教えてくれた。

 肥満はある意味で富の象徴。

 太った妻は夫の自慢であり、太った娘は良い家の娘である証拠、と。

 嫁いでくる時の持参金が期待できるし、妻を太らせる手間と金がかからない、と夫の側は考えるようだ。

 

 ……なにそれ!?

 

 常識が前世と違いすぎて、時々本当に驚かされる。

 太った妻が自慢だなんて、前世では絶対に聞けない台詞だっただろう。

 

 余談だが、本日二度目の風呂にて、ローズをひん剥いてみた――こちらの人は文化的なものか、裸になることにそれほど抵抗がない――ところ、数字上は確かに9キロも増えていたが、ナイスバディはナイスバディのままだった。

 カーネリアのように、お腹に棚田を持っていたりはしない。

 ローズほどの身長とナイスバディなら、60キロ以上あってもいいのだな、と少し希望が持てた気がする。

 

 ……いや、でも三段腹はならさないとだけどね!

マタイ「ところで姫さん、なんで『シャラップ』なんて英語知ってたんだ?」

カーネリア「それでいったら、なんでマタイは『シャラップ』が英語だって判るの?」


 と特に活かす予定のないものを伏せておく。


 明日の更新はお休みします。

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