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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第03章 雪だるまの自己改革新生活

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王族って聞いて、想像する暮らしじゃない

 イスラには白雪 姫子の常識で構うな、と言われているが。

 そうはいっても、気になるものは気になるので、少し弟妹の様子を確認してみることにした。

 

 ……また、なにかものすごくもの言いたげな顔してたけどね。

 

 カーネリアを主とし、カーネリアのために、といろいろ先回りをして根回しや準備をしてくれるイスラは、私の本日の予定も察したのだろう。

 普段はすべて渡す朝食の残りを、弟妹の人数を聞いたうえで減らして渡した。

 これだけで、十分に私が弟妹の様子を見にいくつもりだと伝わったはずだ。

 

 大皿に載せたオーチルをジェリーに持たせ、自室を出る。

 これまでは自室と風呂、廊下を通って玄関、庭ぐらいしか行動範囲にしていなかったのだが、今日は違う。

 今日は意識して弟妹の様子を見にいくので、普段は近寄らない区画にまで足を伸ばしてみた。

 

 ……あ、ここまでがカーネリアの生活スペースなんだ。

 

 カーネリアの生活区画スペースというよりも、銀髪を持つ王族と王の妻子の生活区画の境界だ。

 こんなところでも差があるらしく、足下に敷かれた絨毯が綺麗に途切れていた。

 カーネリアの生活区画は風呂場以外すべての廊下に絨毯が敷かれているが、王の妻子の生活区画にはそれがない。

 綺麗に切り出された石畳が敷き詰められてはいるが、飾り気は皆無だ。

 

 ……なんというのか?

 

 江戸時代の長屋は違う気がする。

 離宮、はまったく違うものだ。

 ではなんと表現するのが一番近いかといえば、寮暮らしだろうか。

 部屋の広さでそれぞれに階級ランクはありそうだったが、奥宮という大きな建物の中に小さな部屋がいくつもあって、その一つひとつに父の妻たちが住んでいるようだ。

 

 そして、子どもたちは大きな一部屋に纏めて放り込まれている。

 乳児も、成人間際とされる十代中頃の年齢であっても、一律に同じ部屋だ。

 

 ……王族って聞いて、想像する暮らしじゃないなぁ。

 

 カーネリアも『姫』と聞いて想像するきらびやかな生活はしていないが。

 銀髪を持たない王の子は、銀髪を持つ王の子よりも格段に劣る扱いを受けると聞いていたが、聞いて想像する生活よりもさらにひどい。

 しかし、これでもイスラに言わせれば不自由のない生活らしいので、いったい庶民はどんな生活をしているのか。

 ためしに侍女に話を聞いてみたが、彼女たちも実家は貴族だ。

 庶民の暮らしまでは知らなかった。

 

 ……一、二、三……十二人、と。

 

 突然の闖入者カーネリアに、全部で十二人いた妹たちの動きが固まる。

 大部屋の中で思いおもいに過ごしていたようだが、今は全員の心が一つになっていた。

 おそらくは、「あのデブ、何?」と。

 

 ……いや、ホントにデブとか思われていたら悲しいケド。

 

 事実ではあるが、カーネリアが太っているのは白雪 姫子のせいではないので、やはり悲しい。

 体型については卑屈になりすぎている気がするので、早急に人並みに戻りたかった。

 

 ……やっぱり男児はいない。

 

 そんな予感はしていたが。

 やはりというか、奥宮にはむすめしかいない。

 イスラやマタイが何かを誤魔化していたように、男児は別の場所で育てられているようだ。

 

「……あ、あの、カーネリア姫様。なにか御用でしょうか?」


 ぐるりと室内を見渡していると、最年長と思われる栗色の髪の少女が話しかけてきた。

 髪と同じ色の瞳には怯えがにじみ、指先を落ち着きなく弄んでいる。

 着ているものは、生成りのチュニックだ。

 王の子であっても、成人前は染められた衣は用意されないらしい。

 染色のあるなしで簡単に身分を見分けるのなら、下女のジェニーよりも妹たちの立場は弱い。

 成人前の子ども――女児――は、もしかしたら一人の人間として認められていないのかもしれない。

 

 ……や、カーネリアは物心がついた時にはもう染色された衣を着ていたか。

 

 そもそも、現在のカーネリアは十四歳だ。

 成人で衣の色が変わるのなら、私も生成りの衣をまとっているはずである。

 

「なぜ、『カーネリア姫様』なの?」


「え? 申し訳ございませんっ! わたくしなどが、図々しくも姫様のお名前を呼んでしまい……っ」


「いえ、そうじゃなくて」


 なにやら突然恐縮して謝り始めた少女に、表情かおに出さないながらも驚く。

 これまで交流がなかったとはいえ、私は姉で、彼女は妹だ。

 妹に『姫様』と呼ばれることにも驚いたが、名前を呼んだことを怒っていると思われるとは思わなかった。

 

「……とりあえず、呼び方は『姉』希望よ」


「姉……ですか? それは、えーっと……」


「『カーネリア姉』でも、『ネリ姉さま』でも、好きに呼びなさい」


 およそ姉妹でする会話とは思えないのだが。

 そろそろこの世界の常識も傾向が読めてきた気がする。

 この世界の常識か、父アゲートを家長とする我が家限定の常識かは、まだ判らなかったが。

 銀髪に生まれ、成人前でも王の娘に数えられるわたしと、銀以外の髪色に生まれた成人前の妹とでは、日本に生まれた姉妹では考えられないような扱いの差があるのだ。

 

 ……イスラに、怒られる気がする。

 

 ごめんなさい、と心の中でイスラに詫びて、少女と向き合う。

 イスラは、日本の常識に当てはめて妹を構うな、と忠告してくれたが、やはり見て見ぬ振りはできそうにない。

 とてもではないが姉妹とは思えない態度を取る少女に、白雪 姫子の心が嫌だと否定するのだ。

 偽善者だとか、自己満足といった指摘が、頭の中を渦巻く。

 

 それでも、と思ってしまうのだ。

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