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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第03章 雪だるまの自己改革新生活

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カーネリアには一人、同母の妹がいる

「妹……?」


 話題に出され、改めて指摘をされると、そんな存在がいた気がするが。

 普段はまったく思いだしもしない存在の妹だ。

 

 カーネリアには一人、同母の妹がいる。

 

「……妹がいた気はするけど、ほとんど覚えていないわ」


 なぜだろう、と不思議に思って少し記憶をさぐる。

 父アゲートが色を好むので、弟妹が多いという自覚はあるが、妹と聞いて思いだされる個人はいない。

 これはほとんど誰とも会わずにカーネリアが過ごしてきた結果とは、少し違う気がした。

 

「セラフィナ様は、カーネリア姫の双子の妹です」


「双子の……妹? え? カーネリアって、双子の妹ですら覚えてないの?」


「……あの頃のカーネリア姫は、まだカーネリア様ではございませんでしたので……」


 カーネリアではなかったからこそ、忘れてしまったのかもしれない。

 そう続いた言葉は気になったが、続きを促す。

 イスラはなにか言い難い話をしてくれているようなので、話の腰を折りたくはない。

 

「セラフィナ様は銀髪でこそありませんでしたが、真珠のように輝く白髪と、翡翠のような緑瞳の姫君でした」


 双子とはいえ、銀髪ではなかったので、カーネリアとセラフィナの扱いはそれなりに違ったようだ。

 それでもセラフィナに名前が付けられたのは、カーネリアの『ついで』だ。

 赤い瞳の姉に『カーネリア』と名付けたので、ついでに緑の瞳の妹に『セラフィナ』と付けた。

 それだけの、父のほんの気まぐれだ。

 

 ただこのセラフィナ。

 普通の子どもではなかったようだ。

 

 名前を付けられた、という以外は他の兄弟姉妹と同じように奥宮で育てられたのだが、おとなしく奥宮に納まっているような女児ではなかった。

 一人で勝手に奥宮から抜け出し、王城へ忍び込み、文官を捕まえて教師にし、読み書きを学んだ。

 そして、その行為が父アゲートの知るところとなり――

 

「……セラフィナ様は秘密裏に処刑されました」


「しょ……っ」


 処刑と聞いて、脳裏にひらめく面影がある。

 白髪の、快活に笑う女児の顔だ。

 彼女はいつもカーネリアの手を引っ張り、奥宮の庭どころか、王宮や王城へも顔を出していた。

 軟禁される前のカーネリアの行動範囲が意外に広いのは、彼女セラフィナの影響だ。

 

「あ、思いだした……私、なんで忘れていたの……?」


 処刑という単語が衝撃的過ぎて、忘れていたことを思いだした。

 さすがのカーネリアも、双子の妹が処刑されたことはショックだったのだろう。

 この記憶に蓋をして、心の奥底へと沈めて隠して、忘れたふりをしていたのだ。

 

 無知である、ということは恐ろしい。

 その恐ろしさが判るのは、私の中に白雪 姫子の知識があるからだ。

 

 けれど、父アゲートの下で育てられるむすめとしては、無知であることは身の安全が保障される、ということでもある。

 幼い姫の好奇心ですら父は許さず、処刑したというのだから。

 

「あ、れ? ……でも、イスラはわたしに勉強を教えて……?」


 今さらだが、王の意向に逆らっているが、イスラは大丈夫なのだろうか。

 それを心配したら、イスラには大丈夫だと微笑まれた。

 

「私の主はカーネリア姫です。カーネリア姫が望まれるのでしたら、王の目を盗んで学を運ぶぐらい、なんということもありません」


 いざとなったら自分の首を差し出してでも守ります、と微かに笑うイスラに驚かされる。

 

 カーネリアはイスラに夜伽を命じて断られた。

 しかし、カーネリアの命に対し、イスラは首を差し出してでも守ると言ってしまう。

 

 貞操は捧げられないが、命は捧げてくれるらしい。

 

「……わたしは、わたしはイスラに生きて幸せになってほしいから、首は差し出さないでください」


 少なくとも、カーネリアのために首を差し出すような真似はしなくていい。

 そう白雪 姫子の本音ねがいを丸裸にして伝えたら、イスラは見たことのない表情かおをした。

 

 不思議なことを言われた。

 何を言っているのか、理解できない。

 

 そんな表情だ。

 

「私は幸せですよ。カーネリア姫が生きていて、幸せだとおっしゃるのなら、それだけで私は幸せになれます」


 不思議そうな表情から、イスラの顔つきが変わる。

 ふんわりと、本当に幸せそうに微笑んでいるのだが、何かが足りない。

 画面の外から見たら気付かないのかもしれないが。

 誤魔化されるのかもしれないが。

 イスラの表情の変化を正面で見て、一瞬たりとも見逃すものかと見つめていた私としては、気付いてしまった。

 

 イスラの言う幸せには、イスラという中身がない。

 あくまで本命はカーネリアの幸せであって、イスラ自身の幸せではないのだ。

 

 ……イスラがそう言うのなら。

 

「イスラが死んだら、わたしは不幸せよ」


 だから、絶対に軽々しく命を差し出すな、と釘を刺してやる。

 私であっても、カーネリアであっても、これは変わらない。

 私たちはイスラが大好きなので、彼が死ぬのは嫌だ。

 

「……では、もしもカーネリア姫が処刑されるようなことになりましたら、私に攫われてください」

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