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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第03章 雪だるまの自己改革新生活

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閑話:下女視点 一転した日 3

「決めたわ。あなたの名前は『ジェリー』よ」


 自分が『姫』だから、『ジェリー』はあげる、と不思議なことを言いながら、姫様は麻袋の中から立ち上がった。

 

「じぇりー?」


「そう、『ジェリー』。すごく賢くて、可愛くて、素早くて、勇気のある……名前よ」


 大人になって、名乗りたい名前ができたら変えればいい。

 でも、今は『ジェリー』を使おう、と言いながら姫様は自分のお尻を叩く。

 尻についた埃を払う人間なんて、初めて見た。

 ここでは誰も服についた埃など気にしない。

 

「わたしがジェリーを雇います。着るものと食べるもの、それから寝る場所を提供するわ」


 よいしょ、と物置に置かれた木箱の縁に座り、姫様は中身を漁る。

 蓋の閉められていない箱の中身は、綺麗な石や金属ではない。

 大男たちがよく使う道具が詰め込まれていた。

 

「ジェリー、それ取って」


「……これ?」


 それ、と指差された麻袋を拾い、姫様の白い手に載せる。

 麻袋を受け取った姫様は、箱の中から取り出したナイフで袋に三箇所の穴を開けた。

 

「とりあえず『着るもの』よ。……今はこれで我慢しましょう」


 手を上げなさい、と言われて素直に両手をあげ上げると、頭から麻袋を被らされる。

 すっぽりと麻袋に包まれたが、先に姫様が開けた穴から頭と腕を出すと、まるで人間のチュニックを着たような気がした。

 あちこちゴワゴワとするが、衣を纏うというのは不思議と背筋が伸びる。

 たったこれだけのことだったのだが、なんだか『いっぱし』の人間になったような気がした。

 

「無事にいえに帰ったら、ちゃんとしたふくをあげる。とりあえず、裸よりはいいでしょ」


「はだか、ちがう」


 ちゃんと布は身につけている、と麻袋を捲って中身を見せる。

 いつから身につけている布かは知らないが、ずっと布を身につけている。

 だから自分は裸ではない。


「……腰みの姿を『衣を着ている』とは言わないわ」


「そう、なの?」


「そうなの」


 姫様のいうことには、自分は今、裸らしい。

 いや、姫様が麻袋を衣にしてくれたので、今は衣を着ている。

 ただ、これまでが裸だっただけだ。

 

「さあ、ジェリー。早速働いてちょうだい?」


 まずは手伝って、と言いながら姫様は箱から降りる。

 次に何をするのかと思えば箱を移動させたいようで、箱を持とうとして諦め、ならばと背後に回って押し始めた。

 

「この箱を扉の前に移動させて、誘拐犯あいつらがこの部屋に入ってこられないようにしましょう」


「……はこ、いどうする」


 姫様の行動に意味があるのかは判らなかったが、働けと命じられた内容は理解できた。

 物置部屋の箱を、扉の前に移動させればいい。

 そのぐらいなら簡単だ。

 いつも一人でやっている。

 

「ジェリーって……」


 すごく力持ちなのね、と姫様の押していた箱を持ち上げたら褒められた。

 箱を一つ持ち上げたぐらいで褒められるだなんて、と少し驚く。

 大男たちとの付き合いはそれなりに長いはずなのだが、彼らに褒められた回数よりも会ったばかりの姫様が褒めてくれた回数の方が多い。

 

「そういえば、袋に入ったわたしを引きずらずに持ち運んでいたよね、ジェリー。実はすごい力持ちだった……?」


「……そのぐらいしかのうがない、やくたたず」


「それも誘拐犯あのひとたちが言ったの?」


「そう」


 話すのは得意ではないが、少しだけ得意な言葉もある。

 大男たちがよく使う言葉なら、馬鹿な獣の自分でも覚えているのだ。

 そしてこの姫様は、大男たちが『よく使う』からこそ自分が覚えている言葉と、そうでない言葉とを早々に聞き分けた。

 自分のことを『能がない』『役立たず』だなんて言うな、と言ってまた怖い顔をする。

 少しだけ判ってきたのだが、姫様のこの怖い顔は、全然怖くない。

 大男たちが自分に向ける怖い顔と、姫様が見せる怖い顔は、なんだかまるで中身が違う気がするのだ。

 

 自分が案外力持ちである、と知った姫様の判断は早かった。

 下手に手を出して足を引っ張るよりも、と姫様は完全に指示を出すだけに回る。

 自分は姫様の指示に従って、箱を移動させるだけだ。

 

 扉の前に木箱を積み上げ、物置部屋へと大男たちが入って来ることができないよう工夫をする。

 自分たちも外に出られなくなったが、少しぐらいの不自由、安全にはかえられない――というのが姫様の受け売りだ。

 

「ジェリー、今度はこっちに木箱で階段を作って」


「わかった」


 扉を完全に塞ぐと、姫様は高い位置にある小窓――考えたこともなかったが、姫様は明り取り、もしくは空気穴用の窓だろうと言った――に向かって指をさす。

 自分なら壁に爪を引っ掛けてそのまま登ることもできるのだが、姫様はできないのかもしれない。

 姫様の指は、白くて細い。

 あんなに細い指では、壁に爪を突きたてることもできなそうだ。

 

「イスラ、イスラ。お腹がすいたわ。なにか持ってない?」


「はい、カーネリア姫」


 小窓に向かって階段が完成すると、姫様は階段を上って小窓に近づき、外に向かって話しかける。

 すると、小窓の向こうから少年の声がして、にゅっと何やら包みが差し込まれてきた。

 時間切れ。

 あと少し……なんだけど、もう1話ジェリー視点です。

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