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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第03章 雪だるまの自己改革新生活

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とりあえず、今日の目標は

 朝食を露台バルコニーで取るようになると、白い飛竜の乱入が日課となった。

 イスラの説明によると、飛竜の朝の運動中に、私の姿を見つけた白い飛竜が奥宮へと来るようになってしまったのだとか。

 飛竜の視力は、恐ろしく良いらしい。

 上空何十メートル、何百メートルかは知らないが、そんなに距離のある場所から私の姿を見つけるのだから。


 さすがに、初日のようにラフな姿を見せてくれることはないが、白い飛竜にはイスラが付いてくる。

 飛竜が毎朝顔を見せてくれるおかげで、イスラの顔も朝から見ることができるようになり、最高の朝食イベントだ。

 ぜひとも、このまま恒常イベントになってほしい。


 ……とりあえず、今日の目標は。


 余った肉をイスラに持たせて見送り、本日の予定を計画する。


 これまでがこれまですぎて、食事の量を減らしたい、というカーネリアの意見は、言葉通りには受け取られていないようだ。

 野菜を増やしてほしい、という要望はすぐに反映されたのだが、肉の量を減らしたい、という意見の反映は保留にされているようで、結果として野菜の皿が一枚増えた。

 私の目の前へと出される皿の数が増えることについては、誰もがそれを正しい対応として疑わない。


 これが贈り物で好感度を上げるタイプのゲームなら、余る料理を弁当として持たせたイスラや侍女たちの好感度も上がりそうなものなのだが。

 残念ながら『ごっど★うぉーず』は戦略系SLGだ。

 仲間キャラに贈り物をすること自体はできるが、贈れる物は武器か防具である。

 そして、上がるものは好感度ではなく、忠誠心だ。

 これが低いと叛乱を起こしたり、出奔したりとする。


 ……イスラに頼りすぎ、って自覚はある。


 初日に前世についてを打ち明けてしまったせいか、その前世で見た『イスラ』というキャラクターへの好感度と『知っている』という安心感のせいか。

 『推し』という感情とは別のところで、イスラに頼り切っている気がする。

 これでは以前の『カーネリア』とあまり変わらない。

 カーネリアの狭すぎる世界で、自認が白雪 姫子に変わっただけだ。


 ……カーネリアも変わらないと、だね。


 イスラの破滅を回避するためには、この国の滅亡を回避しなければならない。

 ゲームに『カーネリア』という登場人物はいなかったが、カーネリアは今、ここにいる。

 いなかった私が『いる』のだから、それを起点に未来を変えることはできないだろうか。

 そんな希望に似たなにか不確かなものが、私の中にはあった。

 そして、未来を変えるためには、私も引き籠ってばかりはいられない。


 そのための第一歩として――







 ……ただ名前を聞くだけでいいのにっ!!


 カーネリアになって、すでに数日経っているのだが。

 未だに侍女一人の名前すら、聞きだすことができていなかった。


 ……今日の目標は、今日こそ侍女さんたちの名前を聞く!


 そう気合を入れてはいるのだが、その気迫が外へ漏れてしまっているようだ。

 なにやらカーネリアが不機嫌そうだ、と飲み物を準備している明るい茶髪の侍女が戦々恐々としていた。


 ……怖がらせたら意味ないよ、私。落ち着け、私。


 ただ名前を聞き、相手を名前で呼びたいだけなのだが。

 それがカーネリアには難しい。


 今の私にできる数少ない運動として地味に続けている――効果のほどはまだ判らない――浴槽でのバタ足に集中し、このなんともいえない緊張感を霧散させる。

 サラッと自然に、何気なく名前を聞くだけでいいのだ。

 構えすぎて侍女に心理的負担を強いるようではマズイ。


 ……っていうか、そのうち思いだせるだろう、ってカーネリアの記憶を探っているんだけど?


 やはり白雪 姫子がカーネリアの体に憑依したのではなく、白雪 姫子がカーネリアに転生した、と考えて間違いはないと思う。

 カーネリアの引き籠り生活のせいか、印象に残っている思い出や記憶は少ないのだが、思い返そうとすればいくつかの事柄を思いだすことができていた。

 ただ、その思いだすことができる事柄の中に、侍女たちの名前がないだけで。


「そろそろ水分補給を、……」


「今日はウミアラ水をご用意いたしました」


 会話の流れでさりげなく名前を聞こうと思ったのだが。

 仕事のできる侍女はスッと氷の浮かんだガラス製のコップを差し出してきた。

 コップの淵には、お洒落な飾り切りが施されたライムが飾られている。


 ……ライムは『ウミアラ』、ライムは『ウミアラ』。うん、覚えた。


 どうやら前世の『ライム』は、この世界では『ウミアラ』と呼ぶらしい。

 そう新しく仕入れた知識を脳に刻み込みながら――現実逃避に励む。

 今のは少しタイミングが悪かったのだ、と。

 決して侍女に会話を断られているわけではないのだ、と。


 ただ、亀の歩みではあるが、私と侍女の間にも変化は生まれていた。

 ライム水ことウミアラ水を受け取る際に「ありがとう」と伝えても、侍女が驚いて固まることがなくなったのだ。


 ……亀の歩みすぎて、涙でそう。

 作者は話の進みが遅くて、涙でそう。

 やりたいことが多すぎて、時間が足りぬ・・・orz

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