表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第04章 雪だるまは『雪妖精』にクラスチェンジしたい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/147

トリック オア 4

 翌日、奥宮の侍女が三人とも、正式に嫁ぐことになった。

 半分冗談で設置した罠だったが、本当にかかる人間がいたらしい。

 朝日が昇るとともに、腕に抱いた銀姫と思っていた妻の髪色に気が付き、人違いだと絶叫を上げた男はまだ幸運である。


 一人だけ、出たのだ。

 自身の『男』とさよならをした人物が。

 

「さすが、神の御業ですね」


「……恐ろしいです」


 朝食をいただきながらジェリーの集めてきた釣果ちょうかを確認する。

 護衛として残しているので、イスラも同時に報告を聞くことになったのだが、こちらは同じ男性だからか、少しだけ侵入者に対して同情的だ。

 少なくとも、『男』を失った件についてだけは。


 私としては、単純に神罰で陰茎を切り落とされるぐらいだと思っていたのだが。

 神様のアフターサービスは万全だった。

 

 まず、陰茎が切り落とされたのでその部分からは流血をしているはずなのだが、それがなかったらしい。

 傷口は綺麗に塞がれて、侵入者が失血死をするようなことにはなっていない。

 そして、陰茎がないのだから、これは女性である、と体が『女性になった』ようだ。

 

 この男尊女卑の染みついた世界で、おそらくは家庭内で頂点にいたであろう壮年の男性が、壮年の女性に。

 

 家に帰った彼――彼女――が、家庭内でどのような扱いになるのかは、私の知ったことではない。

 自身のこれまでの行いが、自身へと返ってくるだけである。

 そもそもとして、『男』を失ったことからして、自身の行いが返ってきただけなのだから。







 貞節の女神サクパセ・ヤへと婚姻を誓いながら、やはり人違いだ、と騒ぐ侵入者もいる。

 そういった手合いへの対策として、罠に使わなかった侍女を部屋へと向かわせた。

 「銀姫の朝の支度の時間だというのに、寝坊をするとは何事だ」と、用意しておいたとても説明的な台詞と共に。

 

 あとは、部屋の中にいるのは裸の男女である。

 そこで寝坊した侍女を起こしに行った侍女がさらに騒げば、人目ひとめを集めて、侵入者の行いがおおやけとなる。

 

 貞節の女神サクパセ・ヤに誓って婚姻を結び、コトを成したことまで、明らかになるのだ。

 侵入者の側は女神の祝福によって他の女性と子づくりができなくなっているので、実質侍女を娶らなければ不能者のそしりを受けることになる。

 これは男性にとって非常に不名誉ということもあるが、男尊女卑が染みついた今世において、女性よりも下に見られる立場があった。

 

 それが、不能の男だ。

 

 死ぬよりも多くの子を産む必要のある世界において、子種のない男など存在価値はない、とまでされているのである。

 

 男尊女卑はどうかと思うのだが、すべての男にとって都合のいい世の中というわけでもない。

 

 結果として、世間から見て『男』であり続けるためには、侵入者は妻とした侍女を娶るしかなかった。

 子の成せない男に、一家の長たる資格はないのだ。







 年齢的に崩れ始めた体形ゆえに、私の身替わりとして一番近いだろう、とカーネリアのために用意された部屋へと待機させたのは、一人だけいた四十代の侍女だ。

 この侍女を凌辱しようとして、侵入者が一人、女性になった。

 

 三人用意した罠が三人とも嫁ぐことになったように、この侍女もこの夜に貞節の女神サクパセ・ヤに誓って夫婦となっている。

 相手は、女性になった侵入者に遅れて侵入してきた若者だ。

 

 意外なことに、『若者』である。

 

 春芽の宴では壮年の客人ばかりと挨拶させられたのだが、一応いた若者が、侵入者になったらしい。

 財産の有無や年齢、身分から銀姫への挨拶が後に回され、そうしているうちに私は宴の途中で退場したりとしているので、焦っての行動だろう。

 もしくは、一発逆転を狙ったか、だ。

 

 先の侵入者が『男』を失い、女性に変わっていくさまを見た若者は、侍女の指に光る銀の指輪――実際には私の銀髪だ――に気が付いた。

 そして、侍女の警告の言葉のうち、信じたい部分だけを信じた。

 

 つまり、貞節の女神サクパセ・ヤに向かって婚姻の誓いを立てれば、王の許可がなくとも銀姫を妻にできる。

 挨拶の順番を待つまでもない、と。

 

 ……侍女たちは、ちゃんと「自分は銀姫わたしじゃない」って言っているはずなんですけどね?


 神威を借りた罠だ。

 そこで罠を張る側が嘘をつけば、神威はたちまち失せてしまったことだろう。

 私としても、嘘ではめて致命傷を与えてしまっては後味が悪いので、そこは気をつかった。

 おかしいと気が付けば、罪を犯す前に踏みとどまれるように、と。

 

 抜け道をかいくぐったつもりで、逆に罠にかかったのは侵入者かれらの自業自得だ。







 本当に後日譚となるのだが、この時に嫁ぐことになった侍女たちは、馴れ初めこそ罠ではあったが、しっかり幸せになってくれた。

 これは銀髪へと込めた祈りが『良縁と結んでほしい』だったからかもしれない。

 年子で二人目、三人目と元気な子を産み、嫁ぎ先の一族からも喜ばれたようだ。

 

 現代日本の知識があると、どうしても「年子では母体が休めていないのでは」「子だくさんは母体に負担が大きいのでは」と心配になってくるのだが、これらを気にするのは、今世では私ぐらいのものである。

 妊娠の報せを聞くたびに栄養価の高い果実や獣の肉を贈っているので、なんとかなるだろう。

 なってほしい。

 

 そう独り言をつぶやいたら、ジェリーに訂正された。

 侍女たちが嫁ぎ先で大切にされているのは、銀姫わたしがいまだに気にかけているからである。

 元気な子を産む嫁も喜ばれるが、侍女たちが婚家へと運んだ幸運は、銀姫との繋がりだ、と。

 後日談だけ三人目が生まれている話が出てくる都合上、最低でも三年ぐらい先の話なので、ジェリーが訂正役になってます。

 数年後にはツッコミ役になれている予定です。

 

 次回からはまた普通にカーネリア十五歳です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ