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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第04章 雪だるまは『雪妖精』にクラスチェンジしたい

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春芽節 2

 白い飛竜を先頭に、隊列を組んで飛竜が空を飛ぶ。

 

 先頭の白い飛竜に運ばれる竜籠の中にいるため、私からは見えないのだが、外からこの様子を見れば、いかにも『姫様御一行』という風体になっているのだろう。

 

 飛竜による移動と、神域での『春芽節』は、銀を持って生まれた王族のみが行う。

 銀を持たなかった王の子や、一般市民は王都やそれぞれの町や村で『春芽の宴』と称して成人を祝うらしい。

 王族わたしの場合は少し改まって神々への報告を兼ねているので、『うたげ』ではなく『ふしめ』だ。

 

 ……まあ、さすがは姫というか、神域での祭祀が終わったら、地上で一週間連続で『宴』をする予定みたいなんだけどね。

 

 これは乳母から聞かされた今後一週間の私の予定だ。

 神域での祭祀が終わったら、地上でぶっ続け一週間の宴会である、と。

 

 ……さすがは姫。お祝い事の規模が違う。

 

 そんなことを考えているうちに、飛竜は神域へと到着した。







 ……飛竜の数がすごいな。

 

 ゆっくりと旋回しながら神域へと降りる飛竜の竜籠の中から、地上に整列する飛竜たちの数に驚く。

 白い飛竜リンクォたちと同じように装飾のついた馬具をつけているのは、他の飛竜騎士の愛馬たちだろう。

 さすがは訓練された飛竜というのか、綺麗に整列していた。

 

 そして、鞍や馬具を付けていない飛竜も、同じぐらいいる。

 こちらは訓練をされていないのか、整列には加わっていなかった。

 

 ……なんだろう? なんとなく目の行く飛竜がいるな……?

 

 はて? とは思うが、それ以上疑問を追求することはしないでおく。

 今日は祭祀に来たのであって、飛竜を見に来たのではないからだ。

 

「よく来た、ネリ。いや、今日からは大人の仲間入りなのだから、『カーネリア』と呼ぶべきか……」


「お父さま……『ネリ』はいくつになっても、お父さまの可愛い『ネリ』よ」


 地上に降りた竜籠の中から、イスラのエスコートで外へ出ようとしていたところ、大きな足音を立てて父アゲートが乱入してきた。

 可愛い娘の成人を祝う儀に、イスラなど不要、ということだろう。

 もしくは、父親じぶんが娘をエスコートしたかっただけだ。

 

「さあ、さあ、こちらへおいで。ネリは神殿は初めてだろう? お父様が案内を……なんだこれは? なぜネリはこんなにやつれておる? どういうことだ、なにがあった!?」


 本人的にはエスコートのつもりだったのだと思う。

 両脇に手を添えて私を抱き上げた父は、これまでと違いすぎる感覚に思い切り顔をしかめた。

 

 ……ってか、気づいてなかったのか。私が痩せ始めていることに。

 

 ダボッと余裕のある衣を着ているため、ある程度は体型の変化を誤魔化せると思っていたが。

 まさか今の今まで気づかないとは思わなかった。

 

 記録し始めた時をMAX115キロとして、地道な努力を続けてきた今の私は80キロ台についに手が届いている。

 小学生一人分は体重が減っているので、さすがにそろそろ誤魔化しも利かなくなってくる頃だろう。

 

「お父さま、ネリはやつれてなんていないわ」


 やつれたのではなく、引き締まったのだ、と言いながら父の手を叩いて合図を送る。

 いつまでも子どもではないのだから、下してほしい、と。

 

「冬の間ずっと妹たちの部屋で一緒に遊んでいたから、少し体が引き締まったみたい」


 動きやすくなって快適である、と続けながらその場でクルリと回り、ピタリと止まってみせる。

 以前のカーネリアであればできなかった動作だ。

 同じ動きをすれば、止まる時に重すぎる体の勢いが殺しきれず、よろけていたことだろう。

 

「……本当に、やつれたのではないのか? お父様に心配をかけまいと、嘘を言っているのではないのか?」


「まあ! ネリはお父さまに嘘なんてつかないわ!」


 我ながらあざといな、と思いつつ、故意に頬を膨らませて拗ねて見せる。

 これだけで、アゲートはコロリと意見を変えた。

 カーネリアの言葉を疑っているわけではない、父を嫌わないでおくれ、と。

 

「ネリの『春芽節』はエレスチャル様ではなく、お父さまが祭司を務めるのでしょう?」


 お父さまの雄姿が見られるなんて、楽しみだ、とゴマを擦りながら父の手を取る。

 

 本日の父は、普段のバカ殿スタイルではない。

 祭祀を司るということで、黒の衣の上に白い外套を纏い、髪も丁髷ちょんまげではなく、そのまま流していた。

 

 ……普通の格好していると、お父さまって太りすぎてはいるけど、そうマズイ顔はしていないんだよね?

 

 前世でたまに聞いたし、あまり好きな言葉ではないのだが、「〇〇すれば××」という言葉が父にも当てはまるような気がする。

 

 すなわち、『痩せ』れば『美形』と。

 

 代々の王が気に入った美女を妻とし、子どもを作ってきたので、その血筋たる父の顔の造形がマズイはずもなかった。

 コイズだって、白雪 姫子の好みではないが、致命的なレベルでマズイ顔はしていなかった。

 

 父の機嫌を取りつつ、神殿の中へと案内される。

 本来の案内役だったイスラはどうしてるだろう、とこっそり振り返ると、白い飛竜の手綱を他の飛竜騎士に預けているところだった。

 どうやらこのまま私の護衛についてくれるらしい。

 

 ……イスラの案内だったら、弟たちの様子も覗けたのかもしれないけど。

 

 父は弟たちにはまったく興味がないらしい。

 一応「神殿には弟たちもいるのだろう」と話題には出してみたが、父からは「ああ、そうだな」とじつに気のない返事が戻ってきただけで、特に様子を見に行こうとも、行くかとも、話題は広がらなかった。

 銀髪を持って生まれなかった息子など、父には関心が持てないのだろう。

 

 ……コイズのことも、それほど気にしていないっぽいしね。

 

 父親と息子とは、こんな距離感なのだろうか。

 カーネリアのことは毎日様子を見に来るほど気にかけているのだが、コイズへはそうでもない。

 以前のカーネリアの記憶を探ってみても、奥宮にコイズが住んでいた頃から、今とそうかわらない距離感だったようだ。

 

 ……弟たちの様子は気になるけど。

 

 祭祀が終われば、少しぐらい時間が取れるだろう。

 その時にイスラに案内してもらえばいいか、と一人で予定を立てて、父と神殿の通路を歩いた。

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