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雪妖精の姫は破滅の未来をまるく、まぁるく収めたい。 ~努力はしますが、どうしても駄目なら出奔(逃げだ)します~  作者: ありの みえ
第04章 雪だるまは『雪妖精』にクラスチェンジしたい

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十五歳の祝いに 1

 ……生まれながらの『暴君』なんて、いないよね。

 

 いや、ある意味で赤子は『暴君』かもしれないが。

 今言いたいことは、そうではない。

 父、アゲート王のことだ。

 

 コイズの言動や、学ぶことへの姿勢。

 これらを見ていると、父が今のように育った過程が見えてくる。

 

 ……本当は。

 

 女児に学など必要ない、という風潮など関係ないのかもしれない。

 実際に、カーネリアは女児だが、正妃エレスチャルの鶴の一言で学を授けられることになった。

 意外なことに、老師たちも私が学ぶことを歓迎こそすれ、『女児ひめに学など授けても無駄になる』と手を抜くようなことはしない。

 むしろ、父やコイズに教えるより手応えがある、と私に学を授けることに積極的になる師の方が多いぐらいだ。

 

 ……お父さまは、怖いのかもしれない。

 

 もしかしたら、という話だ。

 これは、『もしかしたら』という話であっても、口の端にしてはいけない話題だろう。

 

 父は――コイズと同じように育てられたと予想できる父は――自分の子が学ぶことが怖いのかもしれない。

 仮に父の学習進度がコイズと大差なかった場合に、それが子どもたちに発覚することを恐れて。

 

 ……たぶん、処刑された当時のセラフィナの方が、今のコイズより勉強ができる。

 

 つまりは、当時四歳かそこらだったセラフィナよりも、摂政ブロンが関わっていた父の学習進度は怪しい、ということだ。

 もちろん、繰り返しループを利用している疑惑の浮上したセラフィナが、普通の子どもでなかったことは察することができるが。

 人生何度目かの普通ではない子どもと、摂政に「学ばなくていい」「実際の仕事は別の者がする」と聞かされて育った父とコイズを比べること自体が間違っている。

 

 ……摂政が癌細胞だ、ってのは判った。

 

 父の摂政として立ったブロンが、少なくとも父の治世に影を落としていることが判る。

 そしてその陰は、コイズが玉座についた場合にもこの国に差し続ける陰だ。

 摂政をコイズの教育から遠ざけるか、父とコイズに今からでも学び直してもらうほか、この国に破滅回避の方法はない。







「カーネリア姫、よろしければ、これを受け取ってください」


「なんですか?」


 春になって再開した露台バルコニーでの朝食に、白い飛竜に乗ったイスラが顔を出してくれるイベントも復活した。

 白い飛竜は相変わらず露台にいる私を見つけると空の散歩中でも方向を変えて来てしまうので、私がイスラに会えるいい口実になっている。

 

 飛竜リンクォがカーネリアに挨拶をしたい、と寄り付くので仕方がない、と。

 

 はて、と首を傾げながらイスラの差し出してきた小箱を受け取る。

 イスラが私に何かを贈ってくれることは珍しくないが、小箱に贈り物を入れるような、改まった渡され方をすることは珍しい。

 毛皮や目の前で作られた髪飾りのように、大抵はそのまま物を手渡してくることの方が多いのだ。

 

「うわぁ、可愛い……」


 小箱の中には蝶の羽のような金細工が一対入っていた。

 金を針金のように細く伸ばし、巻き、複雑な模様を作りながらはねを広げている。

 翅の端や模様の中には深紅の宝石が組み込まれていて、これはカーネリアの瞳の色だとすぐに判った。

 

「これは……なに? 髪飾り、かな?」


「耳飾りです」


 失礼します、とイスラが手を差し出してきたので、その手へと小箱を載せる。

 と、イスラは小箱の中身を取り出して、私の耳へと金の耳飾りを付けてくれた。

 

「イヤーカフ?」


 着用した姿が確認できない、と首を傾げていると、ジェリーが鏡を持って来てくれた。

 手鏡と呼ぶにはお盆サイズあるのだが、これが今世の『お手ごろサイズ』の鏡だ。

 ついでにいえば、金属製で重い。

 重いからこそ、ジェリーの仕事だ。

 

 ……エルフ耳みたい。

 

 箱の中へ収められた状態で見た時は蝶のようだと思ったのだが。

 両耳へと耳飾りを付けた状態を見てみると、まるでいわゆるエルフ耳のようだ。

 金細工ではあるのだが、ピンと長く尖った耳のようにも見える。

 

「できましたら、『虫除け』に数日身に付けていてください。質を頑張りましたので、不足はないかと」


「魔よけに続いて、今度は虫除け?」


「……、……はい」


 ……あ、なんか間違えたっぽい?

 

 イスラからの答えに奇妙な間が挟まった気がして、少し話の流れを振り返る。

 虫除けに付けておくように、と言ったので、素直に魔よけの石シリーズの仲間かと思ったのだが、違うようだ。

 妙な間が入った。

 

 ……たぶん、重要なのは『質は頑張った』の部分?

 

 なんの質だろうか、と思えば、おそらくは耳飾りの材質だろう。

 髪飾りは黒く染められた革紐が大部分を占めるが、これは金だ。

 それも、細く伸ばした恐ろしく精緻な金細工である。

 

 ……まって? 金だよね、これ? もしかして、ものすっごく高価なのでは?

 

 髪飾りは、製作過程を目の前で見ていたので、気にならなかった。

 髪飾りの大部分は革紐で、それほど高価なものだとは思えなかったからだ。

 

 けれど、それが金細工であれば――?

 

「イスラ、もしかして、この耳飾り、とてもお高いのでは……?」


値段そこは聞かないでください」


 頑張ったので、と重ねられた言葉に、察する。

 耳飾りこれはとてもお高い、と。

 虫除けの虫は、昆虫にあらず。

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